無関心層への防災啓発、伝わる内容7つの工夫

迅速な行動喚起が問われる災害関連の情報。その伝達のしかたについて東洋大学 社会学部 メディアコミュニケーション学科 中村功教授が解説します。本稿は、月刊『広報会議』の連載「避難を促す広報と心理」の内容です。

防災教育のパラドックス

一般に防災の啓発活動をする時、防災に関心のある人や自治会といった防災関連団体に属する人だけがそれに参加する傾向があります。そうなると、もともと関心が高い人の知識は増えるものの、本来ターゲットにしたい無関心層に知識が届かないという問題が生じます。これは防災教育のパラドックスと呼ばれます。無関心層にいかに情報を伝えるかは、防災の面からも広報一般の面からも重要な課題です。そこで関心の薄い人にどう伝えるか、今回は特に伝える内容について考えます。

伝達目標の確認

無関心層への伝達でまずしなければならないのは、誰に何を伝えるべきか、という伝達目標の確認です。たとえばある調査では、災害への不安はあるものの、何をしたらよいかわからず、結局防災への備えをしていない人が多いようです*1。あるいは防災への備えをする人の率は高齢者で高く*2、一人暮らしの人で低いという調査結果もあります。

そうなると特に一人暮らしの人に、具体的に何をするべきか、を伝えることが大事ということになります。一方、防災行動としてまず大事なのは生き残ることで、地震対策としては家屋の倒壊や家具などの下敷きにならないこと、津波や風水害では安全な場所に逃げることです*3。具体的には耐震補強、家具の転倒防止、自宅の災害危険度と避難先の点検などが伝えるべき重要項目となります。

伝わりやすい内容は

無関心層にこれらを伝える時、次のような工夫が考えられます。

第1は内容の絞り込みです。無関心層は長いメッセージに付き合ってくれませんから、伝達内容は絞り込む必要があります。第2に表現はショート動画やイラストなど、一目でわかるシンプルなものがよいでしょう。第3にこれはよく行われることですが、ターゲットに受けのいい有名人を使う方法もあります。心理学の「精緻化見込みモデル」という考え方では低関心層は説得の中身ではなく、信頼できる人からの情報など、周辺的な情報に左右されるといいます。

第4に各自に関心のある対象と結び付ける方策があります。例えば子供の安全に関心のある人にはその思いを防災と結びつけるとか、リフォームをしようとする人にはその際に家具と固定もセットに考えてもらうとか、家選びをしている人にはその際にハザードマップを見てもらうとか、車に関心のある人には車庫の水没可能性と車の避難先を検討してもらう、などといったことです。

第5に関心の高い時期を選んで広報する方策があります。無関心層とはいえ、大災害が報じられた後は災害への関心は高まります。そうした時期を逃さず広報すれば効果的でしょう。第6に伝達内容の固定・繰り返しがあります。最近は新たな防災情報(長周期地震動情報など)が次々と出てきていますが、無関心層はその変化についていけません。伝えるべき情報は変化させず、「地震の時は火の始末」*4など、繰り返すことが有効です。

そして第7に簡単な目標から始めて、達成感を持ってもらうことです。いきなり耐震補強をといってもハードルは高いです。そこでまず住まいが1981年以降に建てられたものかを確認してもらいます。それが確認できれば家は耐震基準に適合していますから一安心です。そうしたら次の家具の転倒防止への意欲もわいてくるでしょう。しかしいずれにしても無関心層への伝達は容易ではなく、様々な工夫が必要です。

*1 セコム「防災に関する意識調査」
*2 内閣府「防災に関する世論調査」
*3 ちなみによく話題となるのは食料の備蓄ですが、災害で餓死することは現代日本ではほぼありません。
*4 ただし、現在ではマイコンメーターの普及により、地震時、ガスは自動的に止まるので、この標語の意義は低下しています。


 

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