ソーシャルシフト:ステップ4 オープンに対話できる場をつくる

自社にふさわしいソーシャルメディア活用を企画する

顧客接点の改善とともに、顧客がオープンに会話交流できる場を積極的に提供し、ブランドの透明性をアピールすることが重要だ。場のベースとなるのはソーシャルネットワーク、つまり、Twitter、mixiなどだ。また高度なアプローチとして、自社サイトとこれらのソーシャルネットワークを連携する、さらには自社内でコミュニティを構築するという方法もある。

注意したい点は、海外と国内のソーシャルメディア事情が異なる点だ。特に2011年時点では、日本においては3つのソーシャルネットワーク(mixi、Twitter、Facebook)が共存し、世界でも例を見ない混在状態となっている。また携帯からの利用率が高いのも特徴だ。

それともう一点。ソーシャルメディア活用で注意したい点がある。あせらずにスモールスタートではじめ、成功を積み上げていくアプローチが望ましいことだ。まずは賛同者の多い部門と組み、実名制のため炎上のおそれが少ないFacebookを対話の場として選択し、生活者と同じ目線で対話交流をはじめる。Facebook上で緊密なコミュニケーションを行えば、生活者が決して恐ろしいものではないことがわかる。むしろとても暖かく、好意的なことが可視化されるようになるだろう。その推移を積極的に社内広報し、少しずつ社内賛同者の輪を広げていくことだ。

おおよそのシナリオが決定したタイミングで、社内承認を得るための「ソーシャルメディア活用計画書」を作成する。この企画書では、ソーシャルメディア活用の基本方針とともに、ソーシャルメディア運用チームの組織化、社員や関係者がソーシャルメディアを活用する際の注意点、ガイドライン体系、教育計画などを含め、攻めと守りの両面から押さえておくべきだろう。これにより、経営トップ、管理部門などの承認を得やすくなる。

実際の企業においては、すでに特定部門が実験的にTwitterを活用していたり、社員個人がブログで積極的に情報発信していたりすることが多い。したがって大企業の場合、関係各位からのヒアリングやアンケートを行い、社内のソーシャルメディア活用実態調査から入ることをおすすめしたい。その実態調査結果を踏まえたカタチで「ソーシャルメディア活用計画書」をまとめていく。

この企画書をベースに、正式な稟議を経て、予算を確保する。従来のマーケティング予算と異なるのは、メディア費用がほとんどない代わりに、継続した運用人件費が必要な点だ。ソーシャルメディアは開設してからが勝負だからだ。

ソーシャルメディアを運用するチームの組織化についても触れておきたい。まずファーストステップでは、運用チームメンバーを新たに社内から集め、ソーシャルシフト推進室内におくのが良いだろう。運用チームの構成は、チーム責任者(コミュニティ・マネージャー)、ソーシャルメディア運用者で構成する。

続いてソーシャルメディア運用者だが、第一の資質は、ソーシャルメディアでのコミュニケーションが好きなこと。できれば店舗や営業などでお客様と直接交流した経験を持っていること。また実名顔出しでコミュニケーションできる社員だと、匿名型と比較してユーザーとのエンゲージメントが深まる。日本航空によるFacebook運用が良い事例だ。企業の活用方針とあわせて検討のポイントとしておきたい。

そしてもうひとつ、大切なことがある。今まで企業が優遇していた人材は「売上利益を獲得できる人」「専門知識や技術を持っている人」だった。これからはそこに「自然なふるまいで共感を呼ぶことができる人」が加わるだろう。目に見えるカタチでパフォーマンスを挙げているわけではないが、みなの共感を呼び、かわいがられている人が社内にはいるはずだ。今までの企業常識では厚遇されていないことが多い縁の下の力持ち。そんな人こそソーシャルメディア担当者向きだ。

最後にお客様の声委員会のメンバーが運用チームをバックアップする体制をとりたい。運用担当者だけで回答しにくい質問、クレームなどが来た場合の後方支援が主目的だ。ソーシャルメディアでの応対はスピード感が命なので、何かあったらすぐに相談できるエスカレーション・パスが必要だ。形式的なネットワークではなく、いざという時のために動ける機動的なバックアップ体制を心がけたい。

ソーシャルメディア運用が順調にすすんでくると、顧客接点や人事部門などからも活用意向が表明されるようになるだろう。次のステップとしては、センターでバックアップしながら、各部門に担当者を展開していくことだ。各部門が自律的に判断し運用しながら、センターとなる組織が後方支援することで、運用方針や課題、ノウハウなどを共有する。そのような組織形態を、自転車の車輪に例えて「ハブ&スポーク型組織」という。大企業がソーシャルメディアを活用するのに最適なシステムと言えるだろう。


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拡張していくソーシャルシフト関連の組織全体像をまとめてみた。まずセンターにソーシャルシフトを推進する専門組織「ソーシャルシフト推進室」が位置する。この組織は、勉強会、準備室から発展したものだ。そしてこの中にソーシャルメディア運用チームが含まれる。さらにそれを取り囲むように、社内各部門で構成される会議体「お客様の声委員会」が存在する。そして徐々にそれぞれの部門に運用チームが拡散していくというイメージだ。また、必要に応じてブランドステートメントとの調和を審査する外部組織「ブランド審議会」の設置も検討する。

ソーシャルメディア・ポリシーに基づき、生活者と交流し、終わりなき改善を行う

ソーシャルメディア運用チームの最初の仕事は、企画書で宣言した「ソーシャルメディア・ポリシー」の制作だ。一般的に、ポリシーを構成するガイドラインは、次の3種類が必要になる。

  • 生活者を対象とした「コミュニケーション・ガイドライン」
  • 一般の社員を対象とした「社員向けガイドライン」
  • ソーシャルメディア運用チームを対象とした「運用チーム向けガイドライン」

ソーシャルメディア・ポリシーを整備するのと同時に、「ソーシャルメディア活用計画書」にそったカタチで、Webデザイン制作をすすめていく。Web制作、Facebookベージ制作などについての技術的な注意事項などまで記載しないが、自社Webサイト、Facebookページ、mixiページ、Twitterアカウントなどを、ブランドの価値と約束に基づく統一されたトーン&マナーにしたがって制作することなどに徹底してこだわりたい。その他、詳細な実務者用の情報は、前著「ソーシャルメディア・ダイナミクス」で詳細を記しているので参考にしてほしい。

ソーシャルメディア運用が開始されたら、インタラクションベースの効果測定指標を設定し、運用チームでPDCA(Plan – Do – Check – Action)サイクルを回し、継続的に改善活動を行う。また、ソーシャルメディア運用を継続的に行うのと同時に、ソーシャルメディアで得られた生活者の生の声を、リアルタイムに社内関連部門に届けることが重要となる。この点については次回説明したい。

斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー

斉藤 徹(ループス・コミュニケーションズ代表取締役)
斉藤 徹(ループス・コミュニケーションズ代表取締役)

1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM入社。2005年7月、ループス・コミュニケーションズを創業。現在、日本国内においてソーシャルメディアに関するコンサルティング事業を展開。業界を牽引するとともに、ビジネスへのインパクトを広く啓蒙している。
近著に「ソーシャルシフト~これからの企業にとって一番大切なこと」(日本経済新聞出版社、2011年11月発行)がある。

ループス・コミュニケーションズ: http://www.looops.net/
Twitter: http://twitter.com/toru_saito
facebook: http://facebook.com/toru.saito

斉藤 徹(ループス・コミュニケーションズ代表取締役)

1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM入社。2005年7月、ループス・コミュニケーションズを創業。現在、日本国内においてソーシャルメディアに関するコンサルティング事業を展開。業界を牽引するとともに、ビジネスへのインパクトを広く啓蒙している。
近著に「ソーシャルシフト~これからの企業にとって一番大切なこと」(日本経済新聞出版社、2011年11月発行)がある。

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Twitter: http://twitter.com/toru_saito
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