こんにちは。2023年ヤングスパイクス日本代表ペアの中西亮介です。会社ではクリエイティブのチームで、コピーライター兼アクティベーションプランナーとして働いています。
改めてになりますが、アジア太平洋地域のU-30のプランナーが競い合うヤングスパイクスというコンペに日本代表として出場し、相方の津島英征くんと一緒に最優秀賞であるGOLDを受賞してきました。
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この記事を書くにあたって、相方の津島くんとは「あとから賞にチャレンジする人にとって、役立つ話をしよう!」と決めていました。前篇では津島くんが、ペアの力を最大化するためのテクニックを端的にまとめてくれていたので、後篇の中西は、具体的なコンペの取り組み方に関するTipsを時系列順にまとめてお届けします。
ちなみにグローバルで通用する太いアイデアを出すとか、ワンビジュアル・ワンコピーで伝わる企画にするのが大事とか、そういった基本的なことは色々な方が語ってくださっていますし、読んでくださっている(恐らく同世代の)皆さんも日々勉強中かと思います。ここで僕たちが偉そうに語るまでもないかと思うので(僕たちも日々勉強中です!)、若手2人で海外賞に取り組むにあたっての超実践的な話に絞って書き残していきます。
1.本番前は、事例のシャワーを浴びておこう。
本番前の準備は大事。やっぱり、コンペで輝けるアイデアと、普段の仕事がうまくいくアイデアってちょっと違うと思うんです。僕と津島は本番前日、1日かけて過去のカンヌライオンズの受賞作をザーッと見ながら意見交換をすることで、頭のモードを海外賞の基準に揃えることにしました。
「こういうところがいいね」「デジタル部門でこういうアイデアが出せたら優勝だな〜」「これは面白いけどコンペで出すのはきついかも……」「これ泣けるわ〜」などなど。要素を分解しながら、本番ではどんなものを出せたら勝てそうか、2人でイメージをつくっていきます。
頭の引き出しを増やすための日頃のインプットや過去事例の分析ももちろん大事ですが、それとは別に、直前に自分の頭と2人の価値観をグローバルの基準に揃えておいたことで、本番でも話しやすくコミュニケーションの効率もよくなったと感じます。
2.事前の練習会で、舞台に合った演技を身につけよう。
個人的には、海外賞と国内のアイデアコンペは、雰囲気も審査基準も全然違うと思っています。少なくともデジタル部門に関しては、過去の受賞作品を見ることでなんとなく雰囲気は掴めました。
表現上のケレン味や装飾的なオモシロさは不要。見た目も内容もシンプルで、仕組み自体に「その手があったか!」という発見があり、そして確実に人を動かせるアイデアが、この舞台での「いいアイデア」です(実現可能性についてはそんなに厳しく考えなくてもいいかなと思います。プラットフォーマーを巻き込む程度なら、それなりの理屈さえあれば実現可能くらいに見てもらえます)。
このあたりをちゃんと理解するためにも、事前に過去の課題を見て、2人で練習会をしながら過去受賞作を見ていくのがオススメです。自分が普段出すアイデアの癖と、実際にグローバルのコンペで評価されるアイデアの差分を身をもって実感できると思います。
3.スケジュールは急がず焦らず。掘り所を見極めよう。
「ヤングスパイクス」デジタル部門の本戦は、オンラインで事前レク、ブリーフ資料配布→24時間以内に企画案を一枚のプレゼンテーションシートにして提出→1週間後にオンラインでプレゼン、というスケジュールでした。
今回の課題は環境意識が高いにもかかわらず具体的なアクションを起こさないシンガポールの若者に、いかに環境活動を促すか、というもの。クライアントは、環境保護に取り組む国際的なNPO「Conservation International」でした。
参考までに、僕らの初日のタイムスケジュールはこうでした。
17:30-18:00 ブリーフ資料に目を通す
18:00-19:00 オリエンテーション
19:00-20:30 2人でブレスト
20:30-21:30 1人で案出し
21:30-23:00 2人でブレスト
23:00-0:00 1人で案出し
0:00-1:00 2人でブレスト
1:00-2:00 お風呂→就寝
ポイントは、序盤の2人ブレストを1.5時間ずつ、やたら長めにとっていること。もちろん人によると思いますが、24時間だからといっていきなり30分ブレスト!30分黙考!×4セット! みたいに超高速でアイデアを出しまくろうとすると、狙いの定まっていないジャストアイデアが量産されることになりかねません。
序盤は焦らず、少しずつ拡散させながらも本質を見極めて、掘りどころを2人の間で決めていったほうが効率的に良いアイデアが出せるようになると思います。
4.アイデアはなるべく本能に近いゾーンで作ろう。
これはTipsというより、けっこう本質情報だと思っているのですが、アイデアはなるべく本能的に理解できるものに基づいていた方がいいです。改めて僕が語るまでもないかもしれないけれど、やっぱりめちゃくちゃ大事だと思います。
しかも今回の課題は特に、はるか遠くのシンガポール人の気持ちを動かすアイデアです。僕たち日本の若者がいくら「これは面白い!」と思っても、シンガポールで生まれ育った人たちが面白いと思ってくれるとは限らない。シンガポールの人でも(そして各国出身の審査員でも!)確実に共感できるインサイトを捉えなければいけませんでした。
恋愛、食事、死、親子の愛、などなど。世界中の誰でもパッと理解できる本能に乗せたアイデアは、ターゲットの気持ちの動きが即座にイメージでき、共感性が高いです。僕らもこの辺りはかなり強く意識していて、今回の出場権を勝ち取った国内予選では「ウンコ」を、この本戦では「恋愛」をメインに据えて企画を作りました。
5.アイデアを出し尽くしたらお風呂に入ろう。よく寝よう。
アイデアを出し尽くし、方向性がなんとなく決まったタイミングで、一旦お風呂に入って寝るということに決めていました。お風呂の中で考えが整理される上に、寝て起きたら一回冷静なアタマで判断できるからです。
僕らの場合、数度目のブレストで「Tinder GREEN」のアイデアが飛び出し、2人で「これだ!!」となったあと、ほかの方向性もいくつか念のために模索していました。「多分Tinder GREENが一番いいけど、疲れてるかもしれないからなあ。念のため一回寝てから判断しようか…」となって大浴場へ行って、ボヤボヤと考えながら就寝。
翌朝冷静な頭で朝食を食べながら、確信を持って「Tinder GREENで行こう!」と2人で決めたことで、気持ちよく2日目の資料作成のスタートを切れたと思います。
6.ペアの脳内は絶対にズレる。資料の文章はいっそ2人とも書こう。
アイデアが決まっても、あとはつくるだけ!なんてことにはなりません。絶対に2人の間でアイデアの捉え方にズレがあります。
とりあえず1人がガーッとプレゼンシートを書き上げたとして、もう1人が「ここの説明の仕方、違うんじゃない?」とフィードバックしたとします。僕らの場合は、ここで認識をすり合わせるために空中戦的な議論になっていくことがしばしばありました。
同じアイデアの説明をしてるはずなのに、なんか細かいところが噛み合わない…。そうなってしまったら、すれ違いを続けるより2人それぞれの認識でざっくりとスクリプトを書いてしまうのがオススメです。お互いが思うアイデアの全体像を俎上に載せてから比較検討と擦り合わせを行ったほうが、絶対に話が早いです。
7.ノンデザイナーにとってレンポジの質は命。バチッと決まるまで探そう。
僕らのペアはコピーライター+ビジネスプラナーというノンデザイナーチーム。ふたりとも大学の建築学科出身なのでIllustrator/Photoshop操作の簡単な心得くらいはありますが、プロのデザイナーさんのように写真を綺麗に合成することはできません。
とはいえ、過去の受賞作品を見ても、プレゼンシートの迫力やシズル感がかなり評価に効いている様子がわかります。説明的な図だけの資料だとなかなかグッとくるアイデアには見えない。かといって、合成なしで美しい写真を撮りに行くような時間もない。
であれば、初めから最高にグッとくるレンポジ(ストックフォト)で、自分たちのアイデアに完璧にマッチする素材を見つける必要があります。
僕らはここの画像選定に3時間以上かけました。選ぶだけで3時間!?という感じですが、逆に言えば、この画像さえ完璧にハマればあとは文字を載せていくだけで最高のビジュアルが完成します。検索ワードを変え、検索サイトを変え、納得いくまですべての画像を2人で見尽くしてください。
8.英語の文章はAIの力を存分に借りよう。
僕たちペアはふたりとも海外経験ナシの日本人。せいぜい受験英語しか知りません。提出するスクリプトについても、日本語で書いてから英訳するという流れをとりました。
とはいえ、慣れない英語でアイデアが伝わりやすい文章にするのは至難です。そんな時はAIに助けてもらってください。
僕たちの場合は、DeepLでざっくり翻訳にかけた後、ChatGPTに「この文章をこなれた文章にして!」と頼み、それをチェック。大事なニュアンスが抜け落ちていた場合は手動で英語を書き換えて再びChatGPTに「不自然な英語があったら直して!」と頼む、というような流れで、AIとのラリーの中で文章を推敲していきました。
正直これだけでかなり英訳の時間を省くことができ、その分細かいエグゼキューションの議論やカンプづくりに時間をかけられます。AIの力は存分に活用するのが吉です。
9.プレゼンは音読じゃダメ。投影資料との相乗効果を狙おう。
提出ができたら1週間後にはプレゼンテーション(今年の場合)。僕らも含め、ついつい陥りがちな「なんか上手くいかない」時のプレゼンが、プレゼンシートに書かれている内容をほぼそのまま順を追って説明していく形式です。シートには渾身のスクリプトを書いているのでそのまま話したくなってしまいますが、やっぱり文章で書かれたものを話されても審査員の理解が追いつかないと思います。
僕たちは、最初に施策の肝となる部分にまつわる、短いエピソードを話すことからプレゼンを始めました。資料では施策の肝を「エコという共通の興味でマッチした2人は、高尚な活動としてではなく、楽しいデートとして環境活動に取り組んでいく」という表現で説明していましたが、これを口頭でスッと言われても実感が湧かないかもしれないなーと思ったからです。
“プレゼンの前に、ちょっと最近聞いた話をさせてください。僕の友達は先日、保護猫を飼い始めました。きっかけは、彼もそのガールフレンドも猫が好きだったこと。「いっしょに猫を飼いたいね」と話して、どうせなら保護猫を引き取ってみる?という話になったそうです。結果的に彼らは猫を救うことになったけれど、でも、どうでしょう?彼らの本当のモチベーションは、2人が好きな猫を飼いたい、という気持ちであって、保護猫の命を救おうと息巻いていたわけではないですよね。これと同じことが、環境活動でもできると僕らは思っています。”
プレゼンではこんな具合で話し始めて、資料の前半、インサイトや着眼点についての話はざっくり触れるだけにしました。細かい理詰めの話は資料を読んでもらって、プレゼンでは感情がついて来られるよう、例え話や「こんな気持ちになるんです!」といった話を厚めにするのが大事なんじゃないかと思っています。
おわりに
こんな具合に、大きなチームの雰囲気づくりから細かいところの詰め方まで、いろんな知恵を絞りながら、僕たちはヤングスパイクスに取り組みました。
繰り返しになりますが、いいアイデアの出し方とか、わかりやすいプレゼンのつくり方とか、そういった真ん中のところは日頃から勉強していると思うので、これからヤングコンペにチャレンジされる方はぜひ、普段のがんばりに加えての土壇場の力添えとして僕らのTipsを役立てていただけたら幸いです。
最後に。ヤングスパイクス本戦、そして予選のヤングカンヌともに、取り組むこと自体を楽しめたのは僕たちにとってとても良いことだったと思います。
同世代のペアと予選から一緒にアイデアを考えて、時にぶつかったり、どちらかがブレークスルーのかけらを見つけたら、2人で盛り上がってアイデアを肉付けしていったり。
前編で津島くんが丁寧に繰り返し述べてくれていますが、メンバーが盛り上がりながら取り組むのが、結局アイデアを出すのに一番いい環境なんだと思います。普段の仕事も全力で楽しみながら取り組んでいこうと改めて思わされる、良いキッカケにもなりました (もちろん冷静な検証は必要ですが!むしろ僕たちは厳しすぎるくらいネガティブチェックをする性格の2人なので、楽しむぞという意識そのものがとても大事なことでした)。
ヤングコンペティションはあくまでも実現を前提としないアイデアコンペですが、それでも1番になれたというのは嬉しいことです。せっかく注目していただけた機会を活かして、2人ともリアルな仕事でも輝けるようがんばっていきます。ぜひ、今後とも注目していてくれたら嬉しいです。最後まで読んでくださってありがとうございました!
津島英征(つしま・ひでゆき)
博報堂 ビジネスプラナー
1994年東京都生まれ。2020年博報堂入社。プライベートで都市研究、アーティストコミュニティ立ち上げ支援、スタートアップ支援など。受賞歴:2022年ヤングスパイクス デジタル部門日本代表 / 本戦GOLD / メトロアドクリエイティブアワード。
中西亮介(なかにし・りょうすけ)
博報堂 コピーライター/アクティベーションプラナー
1994年愛知県生まれ。2020年博報堂入社。マス広告や統合プラニングから商品・サービス開発まで幅広く携わる。 受賞歴:2022年ヤングスパイクス デジタル部門日本代表 / 本戦GOLD / メトロアドクリエイティブアワード。