活況のCTV、未開拓だからこそ挑む
リクルートの『Airワーク 採用管理』が、「コネクテッドテレビ(CTV)」向けに広告出稿を進めている。配信プラットフォームには「トレードデスク」を活用し、担当するのは2022年に新卒でリクルートに入社した三枝祐樹氏だ。マネージャーの市川泰宏氏は「半年ほどの出稿と配信結果の改善を続けているが、既存の動画配信サービスと比較しても遜色ない費用対効果が出てきている」と話す。
リクルートは2022年9月から、『Airワーク 採用管理』の動画広告を、「ABEMA」や「TVer」などの番組配信サービスで配信している。『Airワーク 採用管理』といえば「ダウンタウン」の松本人志さん、俳優の山田孝之さんと、人気タレントを揃えたテレビCMでおなじみだ。
CTVへの広告出稿は、市場の伸びが予想され、成長市場に先行的に着手し、知見を得ることが重要であると判断したからだという。さらに、市川氏は「『Airワーク 採用管理』のサービスの特性上、求人募集のニーズが発生した際に、『Airワーク 採用管理』を利用してもらうための土台作りが重要である」と話す。
「『Airワーク 採用管理』は、人材採用領域のサービスということもあり、消費者向けの商材と比べて、欲求喚起がしづらいものだと考えています。そのため、需要が生じる前に認知を高め、需要が生じた際に真っ先に想起されること、もしくは需要発生のタイミングを捉え、対象者とすばやく接点を持ち、サービスを知ってもらうことが重要です。
また、BtoBサービスは内容が多岐にわたり、理解が難しいことが多いため、いかにサービス内容の理解をしてもらうかも欠かせない観点だと感じています。サービス名を知ってもらうという役割ではテレビCMは強力。一方、内容理解の面では、動画の尺の長さや自由度が高く、複数のクリエイティブを同時に配信しやすいWeb動画広告が向いているのではないかと思います」(市川氏)
リクルートのマーケティングの方針として重視しているのは、数字できちんと効果を示すこと。市川氏は、「施策実施の判断基準として、効果計測ができることが前提としてあります。PDCAサイクルで改善を重ねられることが重要で、“実施したが結果として判断できない”ことは、基本的には実施しません」と話す。
CTVへの広告配信では、広告会社はサイバーエージェントが担当。プラットフォームは、広告主向けに広告配信管理サービスを提供する「トレードデスク(The Trade Desk)」を活用している。
特にトレードデスクはグローバル全体で2022年の収益が前年比32%増の15億7800万ドルと好調だ。同社の決算発表によると、市場を上回る増収は、CTVの伸びが要因だという。動画配信サービス各社が広告付きの無料サービスに乗り出して広告出稿が増える中、「ハウスホールドID」や「Unified ID 2.0」など、デバイスをまたいで視聴者を分析できる技術が強みの一つとなっている。
国内に目を向けても、CTVは視聴ユーザーを増やしつつある。「ABEMA」を運営するサイバーエージェントの竹村碧氏は、「サッカーW杯の試合中継をきっかけに、わかりやすくユーザーの割合が変わってきました」と話す。
「開始当初はティーンに人気のイメージがあったと思いますが、W杯だけでなく、より広い層に向けたコンテンツや、テレビデバイス自体の置き換えも進んで、現在では動画配信の30%ほどがコネクテッドテレビで視聴されていると言われています」(竹村氏)
活況を迎えるメディアでの広告展開。リクルートで手を挙げたのは、2022年新卒社員の三枝氏だった。
視聴後のユーザー分析を重視
三枝氏が担っているのは、CTV向けの広告戦略の策定から、配信した広告の改善まで。すなわち、CTV向けの業務はすべてを任されている状況だ。
三枝氏も「自分自身で責任を持って、主体的に広告を運用することは配属された時からやりたいと考えていたことで、嬉しさとやりがいを感じています」と話す。
「現時点で重視しているのは、ターゲティングと数値に基づいた広告運用です。前者については、『Airワーク 採用管理』はBtoB向けのサービスということもあり、非常に狭いパイを狙ったサービスとなるため、企業の採用に携わっている方に広告を視聴いただく必要があります。結果、テレビCMのようなマスプロモーションだけではなく、詳細にターゲティングを設定して広告配信をしていくことが費用対効果の観点から重要だと考えています。
後者について掘り下げるとすると、広告を視聴された方が『Airワーク 採用管理』に会員登録したのち、実際に採用活動をしていただけるか、がポイントになってきます。つまり広告の視聴だけでなく、その後のランディングページや本サイト内での行動まで可視化し、分析することが重要です」(三枝氏)
広告配信開始の前には、サイバーエージェントやトレードデスクを交え、2〜3カ月ほどの期間をかけながら、どのような指標で運用するかを一つひとつ決定していった。「ABEMA」や「TVer」のCTV広告は、完全視聴率が高く質の高いViewが見込めるため、View Through CPAでの運用改善や、テレビの露出が少ない地域でCTVの視聴/非視聴で行動に違いが出るか、などを検証している。
ターゲティングは、「トレードデスク」で利用できる豊富なデータから、『Airワーク 採用管理』ユーザーと類似した属性を設定。配信を重ねるごとに、そのほかの条件と合わせて改善を繰り返している。
およそ半年間、着実にCTV広告の運用を続けていくことで、「CTV単体の施策比で見たときに、顧客獲得単価はかなり抑えられるようになり、他施策と比べても遜色ないレベルとなりました。まだまだ改善の余地はあるのではないかと思います」(市川氏)
「視聴後の行動は、トレードデスク独自技術であるWi-Fi接続などをベースとした世帯ID(=ハウスホールドID)や、サイト内に設置したトレードデスクの広告タグなどを基に、サイト来訪から本登録までのサイト内遷移を類推のない実数値で計測しています。
また、様々な粒度で取得できるデータを基に詳細な分析を行う振り返りもし、良かった点や課題を見つけPDCAを回せる環境を提供しています」(トレードデスクの服部和磨氏)
CTV広告の動画素材は、テレビCM素材に加えて、サイバーエージェントが制作するデジタルならではの素材を活用しており、バリエーションは半年で60本を超える。テレビCM素材はブランド認知、ワンメッセージを残すことに力を注ぐ部分が強い。
一方、デジタル素材ではミドルファネルを意識し、ニーズを持っていそうなターゲット顧客に商材の理解を深めてもらう素材を制作しているという。例えば、ターゲットが抱える課題感への共感や、登録完了までの流れなどを分かりやすく伝えることなどがある。
「CTVは、変数と言える部分でまだまだ開拓の余地が大きい」と話すのは竹村氏だ。
「『ABEMA』だけでなく、動画配信プラットフォームはユーザーの重複率が比較的低く、それら複数プラットフォームを統合的にどう活用するかが広告効果に大きな影響を与えます。
こうしたメディア粒度に加え、ターゲットや動画素材はもちろん、地域や時間帯、フリークエンシーや番組コンテンツとの組み合わせなど……と考えていくと、掛け合わせによる効果改善でできることは、かなり多いのではないかと思います」(竹村氏)
広告の改善だけにとどまらない貢献
『Airワーク 採用管理』のCTV広告配信におけるポイントは、テレビ端末などで視聴される動画サービスに対し、広告動画を出すだけでなく、その後のユーザー行動を踏まえて、広告を改善している点だ。
端末を横断して行動分析ができれば、「配信して終わり」ではなく、本丸の製品やサービスをいかに使ってもらうか、使い続けてもらうか、にまで手が届く。
トレードデスクの場合、ハウスホールドIDを活用することでCTVとデスクトップ/スマートフォンに同一のIDが付与されるため、CTVで広告視聴した人がスマホでサイトに訪問した、といったことなどを、CTVの貢献として実数で分析できる。
「効果を可視化しながらCTV広告を活用する第一歩としては、実際にサイト訪問があったのか、それは一体どういったユーザーだったのかなどを見ていくことから始めていくのがよいと考えます」と話すのは、トレードデスクの服部氏。
「CTV広告の結果で得られるのは、動画広告の改善点だけではありません。たとえば見た方がサイトに来た。しかし、すぐ離脱してしまった。となると、サイトの改善が必要かもしれません。また、サービスに登録したユーザーを分析することで、これまで自社内では捉えていなかったペルソナが見え、CTV広告以外の広告やその他のマーケティング施策にも活用することもできます。
時系列の前後、放映後に検索が増えたので、おそらく見たのだろう、といった推測ではなく、IDベースで分析できるからこそ、広告にとどまらない貢献が可能になります」(服部氏)
始めてみれば、見えてくる成果がある。当初にある程度指標を固めることも重要だが、走りながら策定を重ねていく手もある。『Airワーク 採用管理』でも、配信当初に実施した指標の議論だけでなく、半年単位での計画や、週次ベースでのミーティングなど、多様なサイクルで、改善と方向づけを行っている。
「最も大切なことは、提供するサービスが、お客さまの課題を解決できているか、です。プロダクトがお客さまの課題を一定程度解決できていることを大前提とすると、次に重要なことは、どのようにコミュニケーションを行えば、よりお客さまを増やせるかです。
そういった意味で、現段階はCTV広告のような新しいチャネルも活用してユーザーを増やすことに注力するフェーズと捉え、日々チームで尽力しています」(市川氏)
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