新体制でデジタル戦略も強化
石岡瑛子や箭内道彦をはじめ、数々の著名クリエイターを若手の頃から企業広告に起用してきたパルコ。2023 年は渋谷パルコが50 周年を迎える年であり、1 月には新たなシーズン広告を発表した。
MV などを多数手がけるウクライナ人監督 Tanu Muinoさんを日本企業で初めて起用したほか、これまでグラフィック主体だったパルコの広告表現をムービー主体の内容に転換した。こだわったのは共感やリアリティよりも、クリエイティビティの圧倒的な追求。ファッション業界全体がSNS主体のコミュニケーションに移行していることを受け、物語性のある映像を中心に表現している。
2023 年には「宣伝部」という組織名が10年ぶりに復活したというニュースも。近年は「プロモーション部」として役割を担ってきたが、数々の企業広告の歴史をつくってきた「宣伝部」の名を冠して約30 人のメンバーを擁する組織に刷新された。その初仕事が、このシーズン広告となる。
宣伝部の陣容は約30人。5つのチームがあり、シーズン広告はクリエイティブチームが手がけている。2019年の渋谷パルコリニューアルの際にプロモーションを担当した宣伝部部長の手塚千尋さん、若手メンバーの本橋乃衣絵さん、30年以上にわたり広告制作に関わってきた草刈洋さんを中心に進められた。「世代の異なる3人ですが、“パルコの広告はこうありたい”という感性は近い。パルコが培ってきたクリエイティブの姿勢はどの世代にも息づいていると実感しました」(手塚さん)。
今回の組織改編によりデジタル戦略の体制強化も図っている。デジタル関連部署に在籍していたメンバーも合流し、SNS 活用やxR、メタバースといったテクノロジーに明るいスタッフとともに2023年は一層の強化を進める方針だ。
そんな体制をもって実現したシーズン広告のテーマは「NEW DEPARTURE」。「コロナ禍の抑圧からの解放、ファッションを楽しむシーズンにふさわしい表現を」というテーマのみ提示し、自由に表現してもらった。描かれるのは『アリとキリギリス』のウクライナ版『トンボとアリ』の寓話をモチーフにしたストーリーだ。春夏秋冬の物語が紡がれ、現時点で公開されているのは春夏の前編。7月中旬に秋冬の後編が公開され物語が完結する。年間通じて続編形式を提示するのもパルコとしては初となる。監督のほか、撮影や衣装制作もウクライナ出身のスタッフが中心に参画した。「国籍に関係なく圧倒的な表現力があり“これから世に出ていくクリエイターをいち早く起用する”という考えのもと実現しました」(本橋さん)。
渋谷パルコの50 周年にあたり、2023 年はこの他にも通年で話題性のあるプロモーションを計画中。貫くテーマは「伝統と革新」だ。「単に懐古主義ではなく、常に新世代の表現を取り入れ“革新”を続けてきたパルコのDNA を感じていただけたら」と草刈さん。そんなパルコの広告のこれまでの歩みを体感できるような場も年内に予定されている。