ウエルシアHDたばこ販売終了に見る、経営判断の発信

企業のサステナビリティに関する情報発信においては、投資家や生活者、従業員などからの信頼維持につながる広報の在り方が問われている。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が、企業の社会的責任と経営判断を関連づけた広報活動について解説する。

※本稿は2023年6月号 『広報会議』の連載「リスク広報最前線」の内容をダイジェストでお届けします。

ドラッグストアのウエルシアホールディングス(ウエルシアHD)は、3月24日に、2026年2月までにグループ全社全店でたばこ製品の取り扱いを終了することを公表しました。大手チェーンがたばこ製品の販売中止を決めるのは珍しいことから複数のメディアで取り上げられました。企業の社会的責任やSDGsの観点から注目できる広報として、本稿ではこのケースを題材に検討します。
 

経営判断に至った理由を説明

報道によると、ウエルシアHDは国内約2700のグループ店のうち約2000店でたばこ製品を販売し、その売上は約1.5%を占めているそうです。たばこ製品の販売を中止することは、それだけ売上がマイナスになることを容認する経営判断といえます。

本来、企業は売上・利益の拡大を目指すことが求められています。取締役・取締役会は善管注意義務に基づいて企業価値を最大化することが義務づけられています。そのため、一見すると、今回のたばこ製品の販売中止はそれと矛盾する経営判断のように思えます。このようなときには、会社は投資家や株主からの評価が下がらないように、経営判断に至った合理的な理由を説明することが求められます。危機管理広報の出番です。

ウエルシアHDは、たばこ製品販売中止の理由を、企業理念である「お客様の豊かな社会生活と健康な暮らしを提供します」の実現、2021年に制定した「ウエルシア サステナビリティ基本方針」、及び「ウエルシアグループ健康宣言」に沿ったものと説明しました。要するに、お客様に健康な暮らしを提供すると宣言する一方で、健康に害のあるたばこ製品を販売することは相反するから、たばこ製品の販売を中止することにしたという内容と理解できます。投資家や株主にとっては納得感の高い説明と言えます。また、消費者、世の中の人たち、従業員にも説得力をもった説明になっています。

売上や利益が下がる可能性があるにもかかわらず、納得感が高く、説得力のある説明になった理由は、企業の社会的責任を意識していることと、説明している内容と経営判断との整合性がとれているからです。
 

企業価値を高める長期的視野

現在、企業価値の最大化については、自社の売上や利益を最大化させるだけではなく、短期的には売上や利益が多少下がってでも、長期的視野では、企業の信頼・信用を向上させる、ブランド価値を最大化させる、社会的責任を果たすといったことを、経営判断によって実現することが求められています。こうした社会的責任を意識した経営判断をしたことがプラスに評価される代表例がESG投資です。

今回のウエルシアのたばこ製品の販売中止も、短期的に見れば、売上・利益が下がるかもしれません。しかし、長期的に見れば、健康という社会的責任を意識して企業価値を最大化させる経営判断として、投資家や株主からの評価が上がることが予想されます。

近時、このような社会的責任を意識した経営判断は珍しくありません。特に世界各国のESG評価機関から高く評価されているのが、電気機器メーカーのオムロンです。売上・利益の最大化と社会的責任を果たすことの両立を前提に企業価値の最大化の実現を進めています。オムロンが行っているESG説明会の内容は、他社にとっても参考になる広報だと思います。

もちろん、企業の社会的責任を意識した経営判断であるとの説明をすれば、それだけで投資家や株主から評価されるわけではありません。経営判断の内容が、社会的責任と整合性がとれていること、筋が通っていることが必要です。そうでなければ「口ばっかり」「本当のことを言っていない」などと、逆に愛想を尽かされてしまうでしょう。

ウエルシアHDがたばこ製品の販売を中止することは、お客様の健康な暮らしを提供するという理念と目指す方向が同じです。そのため、広報の内容が投資家らに抵抗感なく受けいれられました。

…続きは本誌、広報会議2023年6月号




 

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