韓国の大手エンターテインメント会社であるCJ Entertainmentのブランド戦略から、LOUIS VUITTIONのコンセプトデザイン、Air Canadaのリブランディングなど、国やジャンルを超えて様々なプロジェクトを手がける英国・ロンドンに拠点を置くMMBP & Associates。最近では、ブータンの国を挙げたリブランディング戦略を手掛けるなど、ブランディングの対象となるものは多岐にわたる。
同社が手掛けるプロジェクトの多くが、地域の文化と世界の人々をつなぐグローバルなものだ。イギリス・ロンドンに拠点を置くMMBP & Associates の共同設立者であるジュリアン・ボープレ・サントマリー(Julien Beaupré Ste-Marie)氏、ハンク・パク(Hank Park)氏に同社のブランディング、クリエイティブ戦略の考え方について話を聞いた。
--MMBP & Associatesの事業活動の方針についてお聞かせください。
ハンク:私たちは現在、ブランドのエディトリアルデザイン、コンテンツ戦略、リブランディング、ウェブサイトのコミュニケーションデザインなどを手がけています。
最近では、韓国のアイドルグループ「NCT127」のブランド戦略を手掛けました。彼らはアメリカのビルボード市場に参入するため、アメリカ市場を見越したブランディングを必要としていました。よりグローバルなファンを取り込むため、ビジュアルの制作などを担当しています。
この事例のように、アジアと欧米の2つの市場において、それぞれの需要に見合ったアプローチを企画・実行できることが、私たちの強みだと思います。また、単に映像をデザインするのではなく、戦略やあるべきコミュニケーションツールを、ゼロから考えて実現することを得意としています。
ジャーナリスティックなアプローチで新しいもの生み出す
ハンク:昨年は、ブータン国家のリブランディングに携わりました。コロナ禍で2年以上閉じていた国境を開けるタイミングであり、とても重要なものでした。ですが、この施策は決して単なる観光プロモーションにとどまらないものです。
ジュリアン:私たちは2人とも雑誌『MONOCLE』での編集経験があります。そのため、国家ブランディングの戦略について、ハンクが長文の詳細記事をジャーナリストに書くよう依頼するというアイデアを思い付いたのです。
広告コミュニケーション施策を企画するエージェンシーは、企画に際してリサーチを行いますが、私たちはこのプロセスにおいてジャーナリスティックなアプローチによって、新しいものを生み出すことができると信じています。
深いリサーチと現地での多くのインビューを記事にしてもらうことで、観光の観点から見る対外的・表面的なブータンではない姿が見えてきます。
そして、これらのアプローチから得られたものを、ロゴやキャッチフレーズ、グラフィックパターンなど、ブランドのすべてのクリエイティブな表現に繋げていくのです。
新しいものは何もない、既存要素に対する視点を変える
ハンク:ブータンの魅力を考えるべく、現地に数カ月滞在し、街を四方八方歩き回りました。街に溢れている虎や龍などの日常的なコンセプトを、なるべく少ないシンプルな要素に昇華することで、国民にとっては身近に感じるものの、新鮮に見える表現を考えました。すでに存在しているものに新しい見方を見つける、魅せ方のベクトルを変化させる方法こそが、私たちのやり方なのです。
私たちが自負していることは、パターンにも写真にも奇をてらう新しいものがあるわけではないということです。観光促進のために何度もレタッチされた写真は、フェイクに近いものです。一方で、私たちは本物のブータン国民を新しい角度から、限りなく少ないレタッチで見せています。
また、タイポグラフィーについては、どんなデバイスからでも機能的に作動するものにすべく、シンプルで視認性の高いロゴを目指しました。小さなサイズでもシンプルで見やすく、しかし伝統的な歴史と新しい未来を想像できるものにしています。
これが私たちのクリエイティブ戦略のすべてです。現地のブータンの人々にも受け入れてもらうことができ、このキャンペーンはとてもうまくいきました。
広告はツールのひとつ、完璧でなくてもリリースすべき
ジュリアン:コンテンツや広告のメッセージは重要であるものの、それは単なるツールでしかないという点を押さえておくべきだと思います。
ブータンのプロジェクトを例に挙げると、私たちはブータンという国の文化、魅力を理解するために膨大な時間を費やしました。さまざまなファクターがある中で、どれだけ効果的なメッセージを打ち出すことができるのか、手段としての広告の効果を冷静に見極めなければなりません。
ハンク:先ほどお話ししたように、観光要素が強い対外的なブータンと、街に溢れるリアルなブータン、このギャップから生まれるコントラストこそが、広告をつくる上での面白さに繋がっていると思います。
--日本のクリエイティブについて、どのように見ていますか。
日本のクリエイティビティは世界でもトップクラスです。そして、私が日本を好きな理由は、非常に洗練されたデザインと、街中の混沌としたデザインが共存している、非常にコントラストが強いところです。
しかし、日本人は完璧だと感じるまで、制作物を公開しない傾向にあるとも感じます。
完璧でなくても、素晴らしいデザインはたくさんあります。隠れたデザイナーやクリエイターが大胆に創作物をリリースし、それらを発掘していくことがこれからの日本経済の成長の源になると思います。