「すみません。死んでました」
河川敷に横たわる男性。目覚めると、黒服の謎の女性から「今あなたは死にました。ただ、あなたの生涯の行いを鑑みて、3日間人生延長が認められます」と宣告される――。
「人生延長3日間」は、3日間の人生延長が認められ「いつかやりたかったこと」を叶えようとする男性の物語だ。
彼は昔ノートに記した「いつかやりたいことリスト」を眺め、いつかは行きたいと思っていた場所が多数あることに気付く。そこで彼女の「のぞみ」に連絡し、旅行へ誘い出すという180秒のストーリーとなっている。
動画を制作したのは博報堂のコピーライター 松村紘世さん(入社4年目)、OND°のディレクター 内山岬さん(同6年目)、東北新社のプロデューサー 富塚新之助さん(同12年目)。松村さんはBOVAの応募は2回目で、内山さんと富塚さんは初となる。博報堂の社内サポート制度を通じてチームが結成された。
スケジュールとしては2022年11月ごろから松村さんが企画を開始し、12月下旬から年明けにかけて内山さんが演出コンテづくりに着手。3人で打ち合わせを重ねてストーリーの大筋を決定し、1月半ばに撮影を実施した。
美しい光が差し込む河川敷、主人公が人生延長中に舞い戻る実家、待ち合わせ場所となる駅なども企画段階から場所を探し、オールロケで撮影している。
ジェイアール東海ツアーズの課題を選んだのは、松村さん自身が旅行関連の広告に携わってみたいと考えていたため。「昔の旅CMがすごく好きでした。人の人生を大きく描きやすい点もよかったです。広告的な佇まいのしない映像に仕上げたいと考えていたので」(松村さん)。
企画段階で起点となったのは「すぐ旅に出る必然性をいかにつくるか」だった。そこで旅の最大の競合は「いつか」と先延ばししてしまう気持ちでは、と仮説を立てた。その思いは映像の中に登場するフレーズにも貫かれている。
そのひとつが「旅に出るのは、今なのよ。」というラストを締めくくるコピー。撮影前の段階から松村さんが使おうと決めていた。
内山さん、富塚さんはともに「松村さんが強いメッセージの軸を持っていたから、最後までぶれない企画になった」と振り返る。人生延長中の主人公のセリフ「すみません。死んでました」や「生き返る」も、松村さんが入れたかったフレーズだ。
一方で、苦労してひねり出した言葉もある。主人公が実家でノートを開き「いつかやりたいことリスト」を眺めるシーンのコピー「『いつか』って、いつか来るもんだと思ってた。」は、編集作業時の雑談から生まれたもの。
「松村さんが『いつかって……』とぼそっと放った独り言がとてもよかったので、その表現そのまま使おうよ、ということになりました」(富塚さん)。
今回のBOVAへの挑戦を経て、富塚さんは「若手の映像制作者にとって公募は大きな経験になるので、絶対に挑戦した方が良い」と改めて実感したという。自身も前年にプロデューサーになったばかりで、強い意志やこだわりを持って制作したり、チームで対話しながら意見をすり合わせたりする経験値を高めることに繋がった。
内山さんも起承転結のある長尺ストーリーものの映像演出は初の挑戦だった。「シーン数が多い中でも、慌ただしく進む物語にならないように気を付けました」(内山さん)。中でも冒頭の河川敷のシーンや「主人公が子どもを助けようとしていた」と明かされる伏線の回収などのディテールは、内山さんの発案から生まれたものだ。
松村さんも長尺の作品で受賞したことで、コピーライターとしての振れ幅が広がったと感じている。「公募は自由度が高いからこそ制作物に言い訳がきかないので、その中で細部までこだわれたのは貴重な経験でした」(松村さん)。
スタッフリスト
- 企画制作
- 博報堂+東北新社
- 企画+脚本+C
- 松村紘世
- Pr
- 富塚新之助
- PM
- 冨田祐子
- 演出
- 内山岬
- 撮影
- 星潤哉
- 照明
- 久保田圭
- 美術
- 東海林純
- 編集
- 高橋直樹、山本論
- MA+録音
- 牧田祥悟
- カラリスト
- 小林亮太
- 音楽
- 佐藤能久
- CAS
- 谷上定優
- 出演
- 長岩健人、渡辺実希、福江夏帆、華岡禀