SUMMARY
❶ 特許の無償開放を発表し業界全体のサステナビリティに貢献
❷ 節電や省エネといった消費者が関心のある切り口で情報発信
気候変動を抑制するための世界的な規約「パリ協定」の締結から8年。温室効果ガスの排出量を実質ゼロ化する「カーボンニュートラル」の実現と企業成長の両立のため、各社が苦心しているのが現状だ。
そんな中、世界的空調メーカーであるダイキン工業は2021年に戦略経営計画「FUSION25」を発表。2050年までにカーボンニュートラルを実現するための実行計画を明らかにした。実現に向け、精力的に行動を続ける同社の背景を、コーポレートコミュニケーション室 広報グループの安部貴史氏は次のように解説する。
「私たちが事業成長と環境課題解決の両立に本気で取り組むのは、自社事業の柱であるエアコンによる環境への負荷が非常に大きいためです。消費電力の大きさと、フロンガスが大気に放出された場合の温室効果。エアコンはこの2大要素を含むため、私たちが率先してカーボンニュートラルに取り組んでいかなければ、世間から『エアコンの存在自体が悪だ』と誤解されかねません」。
特許の無償開放
エアコンは環境影響が大きい一方で、快適で健康的な生活に欠かせない製品であることも事実。そこで同社は、少しでも環境に優しい技術へと切り替え、その普及を図ることに尽力してきた。
そうした取り組みのなかでも世界的な反響を呼んだのが、温室効果が従来の3分の1以下の冷媒「R32」を採用したエアコンの開発だ。2011年には新興国向けに、その4年後には全世界に向けて基本特許を無償解放。2012年には「R32」を使用した家庭用エアコンを世界で初めて発売した。
「正直なところ、技術開発陣からは特許開放への反対もあったと聞いています。ですが、新技術を開放すれば環境にやさしいエアコンが世界中に広がり、ひいては空調業界の健全な発展にもつながる。開放したことで世界的に評価していただいたこともあり、今では技術者にも“凄いことをしたんだ”という共通認識が広がっていると思います。従業員のやる気向上にもつながった施策です」(安部氏)。
同社のこの決断は、「ダイキン工業は自社の利益だけではなく、業界全体でのサステナビリティ推進に貢献している」という企業イメージの向上につながっている。
サステナビリティを全社へ説明
サステナビリティレポートやウェブサイトなどを通じて「事業成長と環境・社会貢献を両立する」という一貫したメッセージを発信するダイキン工業。その意識を社内外に浸透させるため、奮闘してきたのが広報グループと、環境関連のテーマを扱うCSR・地球環境センターだ。両部署が密接に連携することで、社員一人ひとりの理解促進を図っているという。
「毎年、CSR・地球環境センターのスタッフが全国の従業員に向けて、当社の環境方針や取り組みに関する説明会を行っています。また、全社員が受講する環境教育講座も毎年開催されており、そこでは理解度を測る簡単なテストも出題されます。企業として『カーボンニュートラル』を謳っていても、日々現場で働くメンバーは、自分の仕事とそこがどう結びつくのか、意識するのはなかなか難しいもの。省エネ性を高めるなど環境に配慮した商品をお客さまに届けることが、社会全体への環境貢献につながることをきちんと伝えていきたいと思います」(安部氏)。……
※この記事の続きは『広報会議』2023年6月号 にてお読みいただけます。
広報会議2023年6月号
【特集】
企業のサステナビリティ
これからの伝え方
GUIDE
一貫性ある開示が企業価値高める
保田隆明(慶應義塾大学総合政策学部教授)
OPINION1
長期視点で評価される企業のESG情報とは
伊井哲朗(コモンズ投信 代表取締役社長 兼 最高運用責任者)
COLUMN
ポイントをしぼったサステナビリティ発信
関 美和(MPower parters ゼネラル・パートナー)
共感の輪を広げる「人的資本」の戦略的な伝え方
双日/KDDI/SOMPOホールディングス
OPINION2
人的資本の情報開示、広報の役割とは
経済産業省
OPINION3
メディアから見た
「ESG」発信の蓄積が上手い企業とは
会社四季報オンライン
【第2部】
ESG発信ケーススタディ
CASE1
世界初のCO2排出量実質ゼロフライトでメディア露出
日本航空(JAL)
CASE2
社会での自社の存在意義打ち出しパブリシティ獲得
アセンド
CASE3
未来を創造するための統合報告書
アバントグループ
CASE4
サイトでビジョンから商品を一気に紹介
オムロン
CASE5
ステークホルダーを巻き込み「本気感」伝える
不二製油グループ
CASE6
方針の明文化で従業員の当事者意識を醸成
ポーラ
CASE7
明確な目的掲げたインプットと議論の場づくり
TBM
CASE8
エアコン業界全体の脱炭素と発展に向けて
ダイキン工業
【第3部】
納得感を高めるサステナビリティ発信 実践編
OPINION1
ストーリー性のある開示・改善のサイクル
野村総合研究所
OPINION2
学生から見た「統合報告書」
一橋大学
COLUMN1
評価される「統合報告書」のポイントとは
イチロクザン二
COLUMN2
従業員が誇りを持てる取り組みにするには
揚羽
ほか