投資家に評価されるサステナビリティ情報の開示とは ~対話が重要~

人的資本・環境対策など、ステークホルダーにも注目されている企業のサステナビリティ情報。効果的に発信すれば、企業価値の向上にも直結する。そこで本記事では、「投資家に評価される、企業のサステナビリティ情報の発信方法」について、企業の長期投資に詳しい伊井哲朗氏に聞きました。
※本記事は、『広報会議』6月号の転載記事です。

長期運用に徹した投資信託の運用ファンド「コモンズ投信」の代表を務める伊井哲朗氏。2008年の創業当初から、企業を約30年の時間軸で評価する長期投資を進めてきた。

「長期投資家がサステナビリティ情報をどのように評価しているか」について伊井氏は、企業が情報開示をする際に、最も重要なのはステークホルダーと正面から向き合い「対話」を重ねていく姿勢だと述べる。

「企業情報をオープンに開示し、外部の知見を取り入れ改善する姿勢を評価しています。『対話』は情報のキャッチボールなので、開示情報に対するフィードバックを企業価値の向上につなげられるかが、持続的な成長の分岐点といえます」(伊井氏)。

フィードバックを得るにはまず、企業が現状に加え、中期経営計画やパーパス、ミッションなどを打ち出すことが求められる。「企業のありたい姿」を鮮明に開示すると、投資家が「その不足点」をフィードバックすることが可能となる。逆にルール通りの情報を開示するだけにとどまっては、企業の学びにはなりにくいのだ。

現状より「源泉」の開示を

その上で、コモンズ投信が企業を評価する指標は5点あるという。

1点目は「収益力」。5点中、唯一の財務情報(=見える価値)だ。

主に決算数値を確認するが、長期投資に特化した同社では、創業からすべての財務データを俯瞰し、10年先の業績イメージまで描く。中でも「有事での対応力が、その企業の伸び代を測る指標になる」と伊井氏。経営危機など厳しい局面が成長の糧になっている企業は、長期視点で投資がしやすいという。

以降の4つは、非財務情報(=見えない価値)に分類される。

2点目は、「競争力」だ。現時点のものよりも、「競争力」の持続・成長性を確認する。

例えば、「市場で世界トップシェア」という企業の場合、今後もシェアを守れるのかに着目。「人材採用の方向性」や「従業員へのインセンティブの仕組み」「入社後のやる気を喚起する人事制度」など企業の決算発表では開示されない部分を見ていく。

「知りたいのは『競争力の源泉』です。統合報告書やESGレポートにも、その観点から企業の人事制度や従業員のウェルビーイング施策が開示されていると、評価しやすいですね」(伊井氏)。

「ありたい姿」との連動が鍵

3点目は、長期的な「経営力」。主に2つの要素から確認することが多い。

ひとつは、サクセッションプラン(次期の経営者を選ぶ仕組み)の整備の有無。カリスマ経営者によって事業成長を実現していても、今後の「経営力」は担保されない。「次の経営者の育成プラン」や「幹部候補生のターゲティングの仕組み」の開示が重要だ。

「サクセッションプランは、100社あれば100通りの正解がありますから、それ自体の是非は問いません。ただ例えば、世襲の場合であっても、その整合性についての説明が付随していると評価につながります」(伊井氏)。

もうひとつは、社外取締役を含め取締役会に参加する経営幹部(ボードメンバー)のスキルマトリクスの開示。統合報告書や株主総会の招集通知に記載されることが多いが、メンバーが持つスキルセットと「企業のありたい姿」が連動しているかを確認する。

一例をあげると、BtoC企業でありながら、取締会に参加するボードメンバーに女性がひとりもいない状況には違和感を抱くという。消費者の半分が女性のため「本当に良い製品づくりやマーケティングができるのか」という疑問がわくからだ。

「『将来的に海外展開をする』と宣言しているのに、取締役に外国籍の方が在籍していない場合も、展望との一貫性に疑問が残ります。ただそこに『現状は~の段階のため外国籍の方はひとりもいませんが、今後は~』といった補足が添えてあると腹落ちできるのです」(伊井氏)。

外部の視点取り込む「対話力」

4点目は、昨今重要性が増してきた「対話力」だ。

「株主資本主義」から従業員や取引先、サプライチェーンなども含めあらゆる利害関係者へ配慮が重視される近年。彼らとどのように向き合っているかという姿勢が見られているのだ。

企業価値の持続的な向上のためには、特に社外取締役を設けるなど「外部の視点」を取り入れる姿勢が欠かせない。

「外部の視点」はイノベーションを加速させる。さらには、内部での慣れ合いから発生する「不祥事」の防止にもつながる。「不祥事」が起こると企業価値の棄損に直結することもあるため、大きな評価ポイントになるのだ。

「外部視点」の導入をアピールする方法としては~

続きは、『広報会議』2023年6月号特集『企業のサステナビリティこれからの伝え方』でお読みいただけます。
『広報会議』2023年6月号、オムロン、不二製油グループなど、ESG情報の発信における先進企業の事例も多数紹介しています。ぜひご覧いただき、自社のESG・サステナビリティ情報の発信にお役立てください。

コモンズ投信
代表取締役社長 兼 最高運用責任者
伊井哲朗(いい・てつろう)

山一證券の営業企画部でマーケティングなど担当後、機関投資家向け債券営業。メリルリンチ日本証券、三菱UFJメリルリンチPB証券で法人・個人向け営業に従事。コモンズ投信創業と共に現職。2012年7月からCIO兼務。

広報会議2023年6月号

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【特集】
企業のサステナビリティ
これからの伝え方


GUIDE
一貫性ある開示が企業価値高める
保田隆明(慶應義塾大学総合政策学部教授)

OPINION1
長期視点で評価される企業のESG情報とは
伊井哲朗(コモンズ投信 代表取締役社長 兼 最高運用責任者)

COLUMN
ポイントをしぼったサステナビリティ発信
関 美和(MPower parters ゼネラル・パートナー)
共感の輪を広げる「人的資本」の戦略的な伝え方
双日/KDDI/SOMPOホールディングス

OPINION2
人的資本の情報開示、広報の役割とは
経済産業省

OPINION3
メディアから見た
「ESG」発信の蓄積が上手い企業とは
会社四季報オンライン

【第2部】
ESG発信ケーススタディ

CASE1
世界初のCO2排出量実質ゼロフライトでメディア露出
日本航空(JAL)

CASE2
社会での自社の存在意義打ち出しパブリシティ獲得
アセンド

CASE3
未来を創造するための統合報告書
アバントグループ

CASE4
サイトでビジョンから商品を一気に紹介
オムロン

CASE5
ステークホルダーを巻き込み「本気感」伝える
不二製油グループ

CASE6
方針の明文化で従業員の当事者意識を醸成
ポーラ

CASE7
明確な目的掲げたインプットと議論の場づくり
TBM

CASE8
エアコン業界全体の脱炭素と発展に向けて
ダイキン工業

【第3部】
納得感を高めるサステナビリティ発信 実践編

OPINION1
ストーリー性のある開示・改善のサイクル
野村総合研究所

OPINION2
学生から見た「統合報告書」
一橋大学

COLUMN1
評価される「統合報告書」のポイントとは
イチロクザン二

COLUMN2
従業員が誇りを持てる取り組みにするには
揚羽

ほか


 

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