世界三大広告賞のひとつ「クリオ賞(CLIO Awards)」で生成AI(人工知能)技術を用いたハインツの広告キャンペーンがブランデッドエンターテインメント&コンテンツ部門の金賞に輝いた。SNSキャンペーンの成果などが評価された。
施策名は「A.I. Ketchup(AIケチャップ)」。AIを用いて「ケチャップ」の画像を生成し、投稿するよう、ソーシャルメディアなどで消費者に呼びかけた。22年末ごろから生成AIの門戸が一般にも開かれた上、デザインスキルは事実上不要のため、従来型のユーザー参加型施策よりも企画に加わるハードルが低くなったのもポイントだ。
投稿された画像はOOH(交通・屋外広告)や製品パッケージなどにも採用。22年夏に米国とカナダで実施し、その後グローバルキャンペーンに拡大した。ハインツの従来のSNS施策と比べてエンゲージメント率は35ポイント増加。露出(インプレッション)数は8億5000万回を超えたという。
広告会社はカナダを本拠地とするリシンク(Rethink)社。企画の起点は、生成AIに「ケチャップ」と入力したところ、ハインツの商品そっくりの画像を出力したことだという。この発見を「EVEN ARTIFICIAL INTELIGENCE KNOWS “KETCHUP“ LOOKS LIKE HEINZ.(AIでさえ、ケチャップと言えばハインツであることを知っている)」というコピーにまとめ、消費者に追体験してもらうことをキャンペーンの主眼に据えた。
同施策の背景には、2021年の「WE ASKED PEOPLE TO DRAW KETCHUP, THEY DREW HEINTZ.」キャンペーンがあるとみられる。匿名で消費者に「ケチャップを描いてください」と依頼した結果、ハインツの商品に似たイラストを描く人が多かった、という自主調査によるもの。今回はそのAI版とも言える。
「AIケチャップ」が金賞を獲得したのは、「クリオ賞」のブランデッドエンターテインメント&コンテンツ(BE&C部門)。「ブランドメッセージやブランド価値をエンターテインメントやコンテンツの形式でコミュニケーションした施策」を審査する部門だ。
BE&C部門グランプリは、アンハイザー・ブッシュ・ミケロブによる「マッケンロー対マッケンロー」で、往年のテニスの名選手ジョン・マッケンロー氏が、最盛期の自分を再現したバーチャル選手と対戦する企画だった。米国のスポーツ専門チャンネル「ESPN」が通常の試合と同じく自発的に中継するなど、エンタメ性の高い施策だ。
生成AIは、マーケティング業務や広告制作での活用の模索も進む。博報堂DYグループは、傘下の博報堂テクノロジーズが主導し、全社で1000人のプロンプトエンジニア(=大規模言語モデルを効率的に活用するための入力設計などをする人)の育成を進める。アドビは、出力される画像が著作権などを侵害しないよう配慮した生成AIの提供を始めた。