今回は、5月23日に発売した新刊『なまえデザイン そのネーミングでビジネスが動き出す』(小藥元著)の「はじめに」より一部をご紹介します。
今、経営者が別の言葉で
名づけたがっているのはなぜか。
経営者の方とお話ししていると「言い換えたい悩み」を多くの方が抱えています。同じ産業、同じカテゴリー、同じサービスに見えてほしくないからです。「運送業」ではなくて、何と呼べばいい?「宅配」ではなくて、何と呼べばいい?「ドライバー」ではなくて、何と呼べばいい?「リユース業」ではなくて、なんだろう。「買取」ではなくて、「査定」ではなくて、なんだろう。考えは尽きません。
他社とは違う言葉で価値規定をしたい。同じ名を安易に使ってしまうと埋もれてしまう。それは「事業定義」そのものであったり、「ブランドの差別化」や「ブランドのビジョン」に直結するでしょう。あるいは「ブランドネーミング」「サービスネーミング」に結実する。まさに宅配の世界で「宅急便」が生まれたように。企業の価値を言語化することや企業のコトやモノに名づける行為は、経営やビジネスと密接に関わる重要なことなのです。
実はネーミングが、「もっと伝えたい」
「もっと売りたい」「もっと目立ちたい」を解決する。
この本で取り上げる「なまえ」とは、名詞を超えて「何かの事象や対象を、人がそう呼ぶ・名づける」という「呼び名全て」。私自身がそれら全てを、社会におけるデザインとして大きく捉えているからです。そして「なまえデザイン」とは、なまえからはじまるコミュニケーションやひろがる未来をデザインすることを指します。
「独自の価値あるサービス名」「他社と一線を画す事業名」「思想を形にしたブランド名」「注目してほしいコンセプト名」「売り出したい技術名」「浸透させたい理念」「巻き込みたい 新規事業開発のプロジェクト名」「モチベーションを生む職業名」「一瞬で惹きつけるプレゼ ン資料のタイトル名」「目標に向かって組織を鼓舞する作戦名」「社員が愛せる会社名」など。
実は「なまえ」が、ビジネスをブレークスルーする。
今、「なまえデザイン」が求められているのです。
18年も一つの同じ職業をしています。
本書では「なまえ」を考える面白さをお伝えすると同時に、絶対味方にしてほしい。
「もっと伝えたい」「もっと売りたい」「もっと目立ちたい」
「もっと興味を持ってもらいたい」「もっと巻き込みたい」
「もっと好きになってもらいたい」「もっとモチベーションをあげたい」
といったビジネスシーンの多くの課題に対し、実は「なまえ」が解決へ導いたり、「なまえ」一つで未来が大きく変わることを経験上知っているからです。私個人の経験だけではなく、社会を見渡しても気づかされます。
具体的に本書で取り上げる事例を一つ挙げると「人事部という部署名を変えたら、社員の意識が変わり、モチベーションと行動が変わった」会社の事例。ディズニーランドは「アルバイト」という概念はなく「キャスト」と名づけました。「なまえ」一つにブランドの思想やカルチャーがあり、差別化に成功しています。
この本は、本屋の同じ棚に並んでいるかもしれない「ネーミングスキルを伝える趣旨の
本」ではありません。
理由は大きく2つ。「なまえは育てるもの」という考えを私は持っていること。ネーミン グは0から1を生む作業。ある種のクリエイション。しかし書いて終わりではなく、むしろ それははじまりです。どう育てていくか、どう大きく広がっていくかを描けるかの方が大切。育てにくいものなら、選ぶべき名はないのです。
0から1。だけでなく、1の後の広がりこそを考える。「なまえ」とは、その先に必ずあるコミュニケーションやブランドや未来をデザインしていくことに他ならない。それが「なまえデザイン」の考えです。
もう一つは、右脳と左脳をいったりきたり、くっつけたりして「なまえ」を生んでいるため、「売れるネーミングの作り方は3つ」なんてビジネス書風に書いても、嘘つきというか軽薄というか。「なまえ」には色々な側面があるからこそ不思議で、面白い。数学のように方程式で生むものではなく、想いから発想したり、コミュニケーションや未来の広がりを想像して、たのしく生むもの。だからこそ共感されたり、巻き込める「なまえデザイン」が出来るのです。
18年間の仕事の中で学んだこと。大切に考えていること。リアルな経験と具体的な事例に基づき、お話しします。
「なまえ」をつけたことでどれだけ売れているかや、変えたことによりどれほど売り上げが変わったかなどの詳細な数字も出てきます。どう生んだかはもちろん。その「なまえ」が どうして生まれたか。生み出す手前で、ブランドの価値をどう捉え、咀嚼し、考え、たどり 着いたのか。そもそも今という時代に何が求められているのか。ヒットには何が大切なのか。
とはいえ、私もまだ学びの途中。経営者や建築家、デザイナーの方に「経営組織」「企業理念」「建築作品」「ロゴデザイン」と「なまえ」との関連性について伺いにいきました。私たちの身の回りに、ワークしている「なまえ」の力。より様々な角度から眺め、学びをシェアできたら幸いです。
「なまえ」が生まれる前と、できたあとの世界の景色は変わる。
この書籍を読んでいただくことで、素敵な「なまえ」が一つでも多く、未来にデザインされることを祈って。
それでは、「なまえデザイン」の話を始めます。
クリエイティブディレクター/コピーライター
1983年1⽉1⽇⽣まれ。早稲⽥⼤学卒業後、2005年博報堂⼊社。2014年meet &meet設⽴。
主な仕事に、FIBA バスケットボールワールドカップ2023 テレビ朝⽇「1 歩、1本、⽇本。」、TikTok「もっと世界を好きになる。」、KAGOME「よろこびを、⼀から⼟から。」、NHK 連続テレビ⼩説『おかえりモネ』「晴れ、⾬、進め。」、川崎市「Colors,Future!いろいろって、未来。」、岡⼭県「暮らしJUICY!」、ダイハツROCKY「新⾃由SUV」、アンパンマンこども ミュージアム「いっしょにわらうと、いっぱいたのしい。」、池袋PARCO「変わってねえし、変わったよ。」、マイケル・ジャクソン遺品展「星にな っても、⽉を歩くだろう。」などのブランドコピー開発に加え、⼤ヒット商品「まるでこたつソックス」、⼈気サ ウナ宿泊施設「かるまる」、PARCO「パルコヤ」、コメダ珈琲店「ジェリコ」「⼩⾖⼩町」「コメ⿊」、モスバー ガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」、DAISO「THREEPPY」、Panasonic Homes「artim」、Google「肯定度」、YAHOO!「Yell Market」、clear「SAKE HUNDRED」などのブランドネーミング多数。ブランドコンセプト及びコピー開発をコアに、様々な企業の事業定義、CI策定、ブランディングプロジェクトをリードする。東京コピーライターズクラブ会員(2006年新⼈賞)/宣伝会議コピーライター養成講座 講師
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