サントリー「社長のおごり自販機」で評価されたPR思考を読み解く

ACCが主催する、あらゆる領域のクリエイティブを対象としたアワード「2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」(ACC賞)のエントリー締め切りが迫っています。その中で本年注目の新たなトピックは、「PR部門」ができたこと。ブランデッド・コミュニケーション部門Cカテゴリーが独立し、新設されたものです。

国内のPR関連アワードとしては、日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)が主催する「PRアワードグランプリ」があります(2001年開始)。そこで今回は、「PRアワードグランプリ」審査委員長を務める本田哲也氏(本田事務所)と、ACC賞PR部門の審査委員長である眞野昌子氏(日本マクドナルド 広報部 部長)との対談が実現。

6月末に締め切りが迫るACC賞のエントリーで期待することや、2つの賞の視点の共通点や違い、さらにはこれからのPRパーソンに必要なことについて、さまざまな角度から語っていただきました(全2回の2回目、前編はこちらから)。

PRにとってのリザルトとは何か?

眞野:PRのアワードで問題になるのが、リザルトをどう見るか、どう表現するかだと思います。成果に対するスパンの考え方が、広告をやっている人とPRパーソンとは違うことが多いので苦労するところでもあります。

私どもの会社では定期的にトラストという指標で、会社が信頼を得ているか計るのですが、その数値をいかに上げていくか、そのスパンを3年くらいの単位で広報としては見ていくしかないかなと思います。


写真 人物 眞野昌子氏

時にはネガティブなニュースもあるけれども、普段から種まきをして、オーセンティックなブランドとして、中長期的な観点で、コミュニケーションを続けることで、“そんなに悪いことはしないだろうな、この会社”というイメージを持ってもらえたらいいな、と思っています。

本田:同感です。わかってくれている友人みたいな信頼関係の大事さ。海外のケースを見ていると、危機が起こったときに味方をしてくれたステークホルダーがいるとか、いきなり攻撃しない消費者がいることが重要なんです。それはクライシスが起こるまでに培ったものです。

リザルトをどう見るかはいろんな意見があると思いますが、突き詰めれば態度変容やパーセプションチェンジ(認識変容)だと思います。露出自体はそこまでじゃなかった場合も、その情報とかその取り組みに触れた人が確実にパーセプションチェンジしたり、態度変容が起きていたりしたらこれは素晴らしく、それが世の中で一番難しいわけです。

態度変容がそもそもあったかなかったか、もしあったなら、どれぐらいの深度やレベルが残ったかが、個人的にはPRの本質的なリザルトだと思います。

2つの賞をW受賞「社長のおごり自販機」を読み解く

眞野:2022年、ACCのPRカテゴリーとPRアワードグランプリの双方で受賞したものにサントリーさんの「社長のおごり自販機」のPR活動がありました。ACCではまずネーミングやコピーなどクリエイティブな部分で評価されています。PR的に言うと、「社長のおごり自販機」の名称が違ったら、合意形成できていなかったかもしれないということですね。

パース・イメージ 商品・製品 社長のおごり自販機

 


パース・イメージ 商品・製品 社長のおごり自販機の使い方

目指すところが、「社員同士がつながる」という視点も新しくて、さらに飲料もそれでプロモーションになるので、事業とのつながりもすごくうまいと思いました。事業会社としての目的も達成していて、いい会社だなって思えます。

事業をそこで成功させることが、社会と接していることの意義につながっているという視点が重要なんだと思います。いろんな会社が新しいアプローチや、どう事業を広げていくか、絞っていくかを今考えなくてはいけないので、その観点でもPR的思考がとても役に立ちます。

本田:事業会社にとっても、これを単に広めようってことじゃなくて、 元から何をやらなくちゃいけないのか、いっそのこと事業として、こういうことを広報から提案するような時代に今後はなるような気がします。

例えば、「社長のおごり自販機」は、自販機というものに新たな社会的存在意義を与えたわけです。自販機はジュースやコーヒーが出てくるものなんだけど、停滞している社内コミュニケーションを活性化させるというインナーコミュニケーションツールとして、ここでは意義を持たせています。


実データ グラフィック 「社長のおごり自販機」のバナー

PRのクリエイティビティというのは、いろんなことをいじらずとも、ストーリーを転換したり、社会的な見え方とか意味付けを変えたりすることで、途端に仲間が増えるというのが肝じゃないですか。

眞野:本田さんはナラティブとよくおっしゃっていますが、同じモノ、コトでも、表現や視点の違いで、意味合いが変わります。コミュニケーションが世の中を変え得るぐらいパワーがあると思うとワクワクしますよね。

PRパーソンが持つ「感じ取る力」と「想像力」が必要

本田:2023年という年で考えると、コロナも世界的には戦争もそうですけど、いろんなリテラシーや価値観の考え方の違いが表出する中、世界各地で分断が進んでいる最中だと思います。

日本も例外ではありません。これはある種不可逆的な要素もあるので、完全にコロナ前には戻らないと思います。

だからこそPRの力とパブリックリレーションズの力、合意形成、つまり1億人をひとまとめにはできないかもしれませんが、ここまでバラバラになったものを、ここは同じ価値観だとグループ化したり、組織内でもそうした動きが出てきたりする中で、パブリックリレーションズの人の考え方・経験や物事の考え方は活きます。今は世の中で求められていることに対する答えをPRが持っていると思います。


写真 人物 本田哲也氏

PRパーソンが持つ独特の感覚、今の世の中で違和感を持つことや、何かおかしくないかなって思うことは、少なからず当たっていると思います。だからその自分の見立てを信じてほしいですね。時代的にはそれを求められているから。

眞野:そこをうまく伝えていくことが大事で、もっと可能性があるということですね。ただ、難しいのは、きっぱり正解と言い切れない場合が多いことです。「絶対こっちです」という正解、不正解があるものは必ずしも多くない。

そこはPR業界としても、PR的な考え方について、理解者を増やし、プロフェッショナリズムをもっと磨いていく必要もありますね。これからPR業界でもっと活躍するには、感じ取る力が大事だと思います。

本田:そうなんですよ。感じ取る力です。単純に傾聴力と言っちゃうと、聴けばいいのかっていうと、聴くのはもちろん大事です。広報広聴の、広聴にも繋がりますから。でもそれは単に”聴いています”というだけじゃなく、聴いて捉える力が大事なんです。

ポイントは想像力だと思います。色々聴いて、何かわかった次に来るのは想像力です。こういう人たちがこう動いたら、こっちはこう反応するんじゃないかとか、そうすると大きな動きになってくるんじゃないかという妄想を構想に仕立てていく力。それが結局リアル社会でストーリーメイクすることだと思うんですよ。

眞野:PRのもつプロフェッショナルな役割をもっと認めてもらえるような地盤、時代の要請は整ってきていると感じます。日本PR協会でも、ずっとアワードを通してPR領域を盛り上げてくださっていると思いますが、ACCでもPR部門が出来たことでその勢いを加速させていきたいです。

皆さんが普段は目立たないところでされているお仕事を、ぜひ表舞台に持ってきて光を当てて、お仕事の素晴らしさを評価する場面にしたいと思います。エントリーの敷居も高くはなく、ご自身のお仕事を振り返る意味でも、とてもいい機会だと思います。たくさんの方に応募していただき、PRの地位をもっともっと上げたいです。もっと世の中に貢献できる仕事だと思っているので、ご応募をお待ちしています。

本田:ACCさんのPR部門が独立したことは本当に嬉しい話で、かつてカンヌにPR部門ができたのと同じインパクトがあります。PRの仕事は皆さんが思っているよりも幅広いし、「あれ、こういうのもPRで評価してもらっていいんだ!」みたいな仕事が世の中にまだいっぱいあります。

応募されたものが評価されて受賞すると、またたくさんの目に触れ、「あ、こういうのもいけるんだ」と、また新しい仕事が始まることがアワードの役割としてあると思います。単なる表彰ではなく、PRの歴史をつくるというのは大袈裟ですが、広いフィールドで歴史をつくっていく一部になると思うので、どんどん応募を両方のアワードにお願いします。

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日本マクドナルド
広報部 部長
眞野昌子氏

まの・まさこ
外資系PR代理店、事業会社での広報責任者として、ヘルスケア、消費財、食品、金融など、さまざまな業界で、マーケティング、プロモーション、啓発キャンペーン、危機管理広報や、インナーコミュニケーション、コーポレートコミュニケーションに携わる。2019年より現職。

本田事務所
代表
本田哲也氏

ほんだ・てつや
「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された日本を代表するPR専門家。世界的なアワード『PRWeek Awards 2015』にて「PR Professional of the Year」を受賞している。 2022年度よりPRアワードグランプリ審査員長。


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