Indeed Japanマーケティング本部に、2022年11月1日付で、元デル・テクノロジーズのマーケティング本部長・田尻祥一氏がシニアディレクターとして着任した。これを機にIndeed Japanはマーケティング戦略を刷新し、テレビCMの表現などを変更。今後の方針や、これから新たに採用したい人物像について田尻氏に語ってもらった。
――これまでのIndeedの施策について、どのように考えていますか。
田尻氏 これまでのIndeedのマーケティング戦略の特徴をひとつ挙げるとすれば、サウンド・マーケティングだと思います。Indeedの替え歌と、ユニークな企画のテレビCMでブランド認知と好感度を高めてきました。傍から見ても、成功だと言えると思います。
こうした戦略を6年間続けてきましたが、そろそろ次のステージに進む必要があると思います。というのは、認知度や好感度はかなり高く獲得できている一方、求職者にどんなベネフィット(便益)を提供するブランドであるのか、という理解の部分にまだ大きな伸びしろがあると考えているためです。
――これからのIndeedのマーケティング方針は。
田尻氏 Indeedは企業全体のバリューの1つに「Job seeker first」を掲げています。何よりもまず、求職者にとって価値のあるサービスを追求するということです。ゆえに我々のビジネスモデルは、フライホイールモデルとなります。
まず、求職者への付加価値を訴求し、Indeedサイトに来訪いただきます。次に、求人企業側はその求職者群に対して求人を出します。その結果、求人が集まり、また求職者が多く訪れる。こうしたポジティブな循環を、フライホイールモデルと称しています。
よって、多くの求職者の方が集まっていただくためには、Indeedというブランドのあり方や、提供できる付加価値について、正しく伝わる必要があります。最初の入口となるマーケティングが非常に重要です。
今後は、単に面白いCMやキャンペーンを展開するのではなく、求職者に対して我々の付加価値に共感していただき、来訪を促進することを目指します。
その付加価値の具体的な内容を、すべてをくわしくお伝えすることはできないのですが、例えば製造業で言うところの基本となるQCD(クオリティ、コスト、デリバリー)について、Indeedであれば何が該当するかを、チームメンバーだけでなく、各ステークホルダーとも議論を詰めています。
クオリティと言っても採用情報サービスは壊れるわけではないし、コストも求職者は無料でIndeedをご利用いただけます。デリバリーも明日すぐに納品、というものではありません。ただ、本質的な価値を捉える視点を社内で設定することで、何が本当の意味での価値なのか、という点は、かなり明確になってきたと思います。
くり返しになりますが、スタート地点としては「Job seeker first」です。しかし、求人情報を出稿いただく顧客企業に向けて何もしないか、というとそうではありません。企業にとっての価値は、単に求職者を数多く抱えている、ということだけではないのです。
一つの例としては、「Indeed Hiring Lab(インディード ハイアリング ラボ)」があります。グローバルで展開しているエコノミストと研究者で構成した、国際的な労働市場に関する研究・調査機関で、日本では2022年11月にオープンしました。Indeedが独自に持つ豊富な求人情報や求職者の検索動向などを生かし、日本における労働市場や求職者の動向などのレポートをまとめ、発信しています。
貢献すべきは求職者だけではなく、もちろん出稿される顧客企業も含まれます。細かな差異を訴求していくのではなく、どうすればお客さまの採用戦略に役立てるのか、経営課題からどのような人材が必要であるか、というサポートをしていくことが主眼になってくると考えています。
――施策の面では。
田尻氏 これまでのIndeedではテレビCMがメインでしたが、いわゆるミドルファネルやロウワーファネルを含めた全体設計を重視していきます。これまでWebやソーシャルメディアは比較的手薄だったことは否めません。どのように連動させていくかが眼前の課題であり、実行が求められている分野です。
広くみても、デジタルとマスメディアの統合には、まだまだ余地があると思います。組織構造もよりフィットした姿があるでしょうし、エージェンシーを見ていてもなかなかすべて得意ですという企業はないように思います。
また、基本的にマーケティング予算はひとつのブランドの下で使われるものです。テレビやデジタルで切り分けるようなものではないはずです。役割が異なるとしても、裏側では統合した設計図を描き、投資効果を最大化することが求められます。そういう意味では、総合的な判断ができるマーケターの役割はますます重要になってくると思います。
――外資系企業として、本国との連携も必要になりそうです。
田尻氏 マーケティングに限らず、外資系は本国からの指針に従う必要がある、というイメージがあるかもしれませんね。しかし、Indeedでいうと、本社は米国ですが、日本独自で進めていい、という考えです。各市場の地域性、特殊性への理解が高いように思います。
日本は、市場規模も大きく、Indeedの中でも優先度の高いマーケットです。本社のCMO(最高マーケティング責任者)からの注目も非常に高い。しかし、すべてコントロールしようとせず、私たちに任せようとしてくれています。私自身、それは入社の決め手のひとつでした。
――新たな局面を迎えるIndeedのマーケティングには、どのような人が必要ですか。
田尻氏 大前提として、マーケティングの仕事が好きな方です。好きと言ってもいろいろありますが、全体をきちんと見て考えられるかどうか。
ここにターゲットがいて、ここに課題があって、こういった提供価値がある。必ずしも十全な情報を集めなくても、正解に近いストーリーを作れるか。データに基づき、ストーリーを補完、証明することができるか。そういった進め方、仕事自体が楽しい方であっていただきたいですね。
――Indeedで働くことの魅力は何でしょうか。
田尻氏 持続的にキャリアの成長ができる環境があるということです。例えば、テレビCMのGRPから見て取れるとおり、Indeedは予算の規模が大きいです。それに見合った責任とインパクトの大きさ、チャレンジの機会があると思います。
企業規模によっては、経験できる範囲に制限がある場合もあります。横に広げられないとなったとき、深く掘り下げていくということもあろうかとは思います。ただ、世界はそれだけではない、幅を広げ、自分の伸びしろを拡大する上でも、Indeedは魅力的だと、私自身思いました。
――テクノロジーの変革も顕著ですが、マーケターとして活躍するためのアドバイスをお願いします。
田尻氏 私はマーケティングの職能は基本的にポータブルで、その人自身に付随するものだと考えています。私も業界をまたいでの転職で大丈夫か、とか、業界が異なるから難しいのでは、などと言われたことがありますが、決してそんなことはありません。
というのは、マーケターという職種は、顧客を理解してどのようにバリューを伝えるのか、コミュニケーションアイデアの領域が主戦場だからです。メーカーだとプロダクトアイデアも重視されますが、それは生産・開発、エンジニアが担うことで、マーケターの領分ではないこともあります。(業種・企業によって職務範囲が異なる。経営責任を担うブランドマネージャーなどは製品開発なども担うがここではMarComと定義)
製品でイノベーションを起こすのではなく、コミュニケーションでイノベーションを起こすのがマーケター。となれば、実は製品が変わっても、組織が変わっても、それは発揮できるものなのです。押さえるべきポイントはそこまで変わりません。
なので、初日からマーケティングのスキルは発揮することが期待されると思います。
――もし、マーケティング人材を見極めるとしたら、どのようなポイントがありますか。
田尻氏 即戦力という部分では、いま述べたとおりですが、入社から半年後にどれくらいの伸び、「一皮むける」があるか、という点でしょうね。当然、半年後に深まってくるのは、その会社のプロダクト、ベネフィットや付加価値の理解です。それがマーケターの総合力を左右します。
では、その半年後の伸び代、分かれ目はなにかというと、私は2つあると思っています。
1つ目はヒアリング能力です。知らないことをあいまいにせず、恥ずかしがらずに最初の段階で徹底的に聞く。年次が上がれば上がるほど聞く耳を持たないといけないと思います。見る範囲が広がって点と点をつなぐ作業を求められるわけですから当然です。それに関連して、壁をつくらないということも重要でしょう。自分の城はここ、ではなく、ビジネス全体に興味を持って理解する。いくら聞く力があっても、狭い範囲では意味がありません。
2つ目は、コミットメントですね。
――コミットメントとは。
田尻氏 考える、あがくという言い方が正しいかもしれませんが、5個求められたら10個考える。幅、量の視点が一つ。もう一つは時間軸で、明日何をしたらいいか、3日後は、3年後は、と先のところまで考えを広げることです。
例えば、上司や関係者が見ている範囲よりも現場の担当はより深く見えているはずです。そこから更に先を推測しその職務領域の専門家としての知見を発揮していくことができるかが問われます。より平たく言えば、上司よりも先回りできるかが問われているかと思います。
こうした立体的な視点の切り替えに加えて、最後は、もういま全くないような新規的なアイディア。それを考え出せるか、です。これらは深く考え抜いていないと出て来ないことなんですね。それがコミットするということであって、コミットしているかどうかは、他人から見てもわかることなんです。
これまでのマーケティング戦略で、Indeedはかなりアドバンテージがあるとも言える状態です。しかし、そこに安住しているつもりはなく、むしろ、これまでをさらに超えられるよう、マーケティング本部の各メンバーに求められているのは、こうしたコミットメントができるかどうかだと考えています。
最後に、そうした日々の創意工夫を通した体験と成長を、仲間と一緒に楽しんで頂ける人をお待ちしております。