表札がない仮設住宅では、住民同士が「3棟の5番
の人」「14棟の8番の人」と呼び合うこともあるという。
こうした無味乾燥な仮設住宅の環境を、アートの力で
変えていこうという活動が「くらしのある家プロジェクト」。
写真は、オルビス公式サイトより
http://www.orbis.co.jp/
3月11日に東北地方を襲った、東日本大震災。発生から8カ月が経過し、被災して家を失った人々も徐々に仮設住宅に入居し、それぞれの日常を取り戻しつつある。
ところがこの仮設住宅には、いくつかの問題があるという。同じ形をした棟が整然と並ぶ仮設住宅は、表札などもなく、どれが自宅か分かりにくい。また住民同士が「3棟の5番の人」「14棟の8番の人」と数字で呼び合うといった状況もある。仮設住宅を取り巻くこうした無機質な環境が、人々に不安感や閉塞感を与えているのだという。
この仮設住宅を、アートの力でぬくもりや生活感のある住環境に変えたい。その思いのもと、7月からスタートした取り組みが「くらしのある家プロジェクト」だ。
クリエーティブ・ディレクターの佐藤尚之氏を中心に、イラストレーターの黒田征太郎氏やアートディレクターの内藤久幹氏らが参加して発足した同プロジェクト。地元の子どもたちと協力して、仮設住宅の壁にサインや絵を描くことで、各戸や仮設団地全体を、彩りや温かみのある空間にしていくという取り組みだ。
このプロジェクトを企業として支援しているのが、化粧品や栄養補助食品等の製造開発・販売を手掛けるオルビスだ。同社が独自で取り組む東日本大震災復興支援活動「いつもプロジェクト」の一環として、資金提供を行っている。
「いつもプロジェクト」は、同社が製品を通して人々の「いつも(=日常生活)」の質の向上を目指してきたことに由来する復興支援プロジェクト。被災地の人々が一日でも早く日常を取り戻せるようにと、被災地でのボランティア活動をはじめ、さまざまな取り組みを続けている。
「くらしのある家プロジェクト」についても、「仮設住宅の『いつも』を良いものにしていく」という活動内容に賛同し、支援が決まった。
商品の売上金額の一部と、顧客からの募金による基金「いつもプロジェクト基金」が、同社の「いつもプロジェクト」の活動資金。震災発生直後から義援金の拠出や救援物資の提供などに取り組んできた同社だが、復興支援に協力したいという顧客の声に応え、会社・社員・顧客が一体となって取り組む活動として「いつもプロジェクト」を立ち上げた。
10月31日時点の募金総額は5409万8855円。この一部を、「くらしのある家プロジェクト」に寄付している。
復興への歩みはまだ始まったばかり。アートやデザイン、企業、自治体、そして地元住民……さまざまな立場の人々がそれぞれに持てる力を出し合って、小さなところから少しずつ、被災地が日常を取り戻すための取り組みが進められている。