発売60周年を迎えた日清シスコのシリアルブランド「シスコーン」は5月、初となる大規模な交通広告を全国主要都市で掲出した。ブランドの価値を再定義し、グラフィックでは子育てで多忙な親たちに向けた10種のコピーと独自書体を用いている。
子育て世代の共感を呼ぶ10種のコピー
日清シスコは5 月1日から、大阪などの駅構内で「シスコーン」の広告「ちょいゆる朝食のすすめ。」を掲出した。「さぁ~がんばらないぞ、朝ごはん。」などの掛け声や、「炊飯器のスイッチを押し忘れた自分を呪いたい。」など子育て世代の共感を集める“あるある”など、計10種類のコピーが軸となっている。「シスコーン」は子を持つ親が主なユーザー層で、従来は子どもに人気のタレントやコンテンツを中心としたキャンペーンを実施してきた。今回は、忙しい朝に悩む親の目線を組み込んだ内容だ。
キャンペーンを手がけたフロンテッジは、2018 年から「シスコーン」の広告制作を担当している。コピーライターの山際良子さんは「プロジェクトは、発売から60周年の節目にこそ、根本的な役割に立ち返る必要があるのではないかといった議論を、クライアントとざっくばらんに交わすところから始まりました」と説明する。
チームでは、まず「シスコーン」ブランドが持つ価値の再定義に着手した。顧客視点でコンテンツ開発を行うプランナー陣が先導し、営業を含めチーム全員で持ち寄ったペルソナからカスタマージャーニーを策定。
その価値を「朝の手間が減ること」と設定した。また、より詳細にターゲットが持つ課題を理解するため、独自の調査のほか、SNS 上の声を拾ったり、知人へのインタビューを実施したりしてペルソナを具体化していった。
そのような掘り下げを重ねていく中でわかったのは、「育児や仕事に忙しい日々の中で、子どもの健康と向き合っている親たち」というユーザー像だった。これにより、“「シスコーン」を求めてくれる人”が明確になっていった。
ブランド独自の書体で世界観を統一
さらに深掘りしていくと、働く親たちの「忙しい中でも“子どもには手の込んだものを食べさせなければいけない”というプレッシャーを感じている」というインサイトが見えてきた。そうした人たちに機能訴求ばかりを連ねても、心に響かせることは難しい。そこで一目で想いが伝わり、少しでも気持ちをゆるめてもらえるようなクリエイティブを模索した。そこから生まれたのが「ちょいゆる朝食」の提案だった。
「シスコーンは栄養価が高く、それだけでも朝食として足りていることは伝えたいのですが、時間のない人に小難しい話をしても伝わりません。栄養素についての説明は排除し、シンプルな言葉で脱力してしまうくらいの表現にしました」(山際さん)。
コピーに盛り込んだ“あるある”は子育て中のメンバーが中心となって案を出し、山際さんがコピー化。フォントは「シスコーン」の商品ロゴと連動させ、メッセージに合うよう、現代的にリデザインしたオリジナルの書体を使用している。
「この書体をコピーにも統一して使用することで、ブランドが持つ明るさやかわいらしい世界観を崩さずに、表現を完成させることができたなと思います。」(山際さん)。
展開媒体は、通勤などで忙しく移動する人たちの動線を意識し交通広告をメインに。クリエイティブディレクターの上島史朗さんによれば、ここまで大々的なグラフィック広告の掲出は「シスコーン」ブランドとしては初の取り組みだという。外出を自粛していた人たちが街に戻って来たタイミングでもあり、人の目に触れる機会が増えるであろうという期待感も実現を後押しした。
「手法として新しいわけではありませんが、意図せず目に飛び込んでくる交通広告の効果はまだまだ大きい。まさに“忙しい朝”を乗り越えて駅にやって来た瞬間にコミュニケーションができるという点でも最適な選択だったと思います」(上島さん)。
スタッフリスト
- 企画制作
- フロンテッジ+DODO DESIGN
- SCD
- 上島史朗
- AD
- 加納彰、長谷川和彦
- C
- 山際良子
- D
- 畑楠理森
- コミュニケーションプランナー
- 牟田神東章悟、前原理央
- AE
- 田端善弘、竹原美咲
- 掲出
- JR大阪環状線各駅・JR北海道主要本線車内・福岡地下鉄車内・仙台地下鉄車内(5/1 ~ 5/31)、東京メトロ新宿駅・JR 渋谷駅・名古屋市営地下鉄各駅・広島電鉄車内額面(5/15 ~
5/21)、JR 山手線各駅・JR 中央線各駅(5/15 ~ 5/31)
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