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若手に『想定問答』は荷が重い
前回はチームの中でのベテランの役割や、ベテランだからこそ陥りがちな点について触れました。後編は具体的なシーン別にポイントを挙げていきます。まずはクライアントからの想定問答についてです。
想定問答の作成は意外と難しいものです。まずは、悪い想定問答と良い想定問答の違いを確認しておきましょう。
<悪い想定問答>
競合プレゼン作業にどっぷり関わっているメンバーが考えると、悪い想定問答になりがちです。なぜなら、自分たちに都合の良い質問、つまり、聞かれても答えられる質問しか考えつかないからです。
人は無意識のうちに、自分の努力を正当化しようとします。苦労してつくりあげた提案が、悪いものにはどうしても思えませんし、思いたくもありません。そうなると、自分たちの欠点は見えにくくなります。結果、想定問答は「ぬるい」ものになりがちです。
その背景には「確証バイアス」があります。認知バイアスの一種で、自分にとって都合の良い情報ばかりを無意識に集めてしまい、反証する情報を無視したり集めようとしなかったりする傾向のことをいいます。自分たちの提案=説を支持する情報しか目に入らなくなるのが人の性。競合プレゼン作業に関わりの深い人物が想定問答をつくること自体が、そもそも役割分担ミスなのです。
<良い想定問答>
良い想定問答をつくりたいなら、競合プレゼンに関わりが浅いベテラン社員に考えてもらいましょう。そうすることで、無意識のうちに頭から外していた「そもそも論」や、テーブル外からの「論理矛盾」を指摘してもらえます。
「仕方ない」と諦めていたことはないか? 社内や業界で当然視されている「思い込み」はないか? 暗黙のうちに「無理」と決めつけ選択肢から外していたことはないか? 「それは想定していなかった!」「見落としていた!」という質問に事前に触れておくことで、本番で鋭い質問を受けても、焦らず対処できるようになります。ここで重要になるのが、あえて難癖をつける人(=悪魔の代弁者)の存在です。
ベテランは『悪魔の代弁者』を買って出よう
「悪魔の代弁者」という言葉をご存知でしょうか? もともとはカトリック教会の用語だったようです。ディベートでは、多数派に対してあえて批判や反論をする人。ビジネスでは「ある主張の妥当性を明らかにするために、あえて批判や反論をする人」とされています。わかりやすく言うと「あえて難癖をつける人」です。
ここでいう「あえて」とは、もとより性格が天邪鬼で批判的な人ということではなく、「役割」として意識的に立ち振る舞うという意味です。想定問答をつくる際には、この悪魔の代弁者を立てて、様々な角度から提案内容に「難癖」をつけるのが良いのですが、まさにベテラン社員にしか担えない役割だと思います。
実は私がまだ若かりし頃、悪魔の代弁者を担って痛い目に合ったことがあります。想定問答のために、プレゼンする先輩メンバーたちに、あえて厳しい指摘を投げかけていたら、「なんで君は今そんなこと言うの?」と怒られたのです。
もちろん、勝つためにあえてそうしていたわけですが、相手は「プレゼン前日に若造に提案を否定された」「空気の読めない嫌なやつだ」と思ったようです。チームのためにわざとやっていることを、周囲に知っておいてもらうことも大事だと痛感したのですが、おそらくベテラン社員であれば、不要な軋轢は生じなかったと思うのです。それこそ、ベテランとしての「味」が発揮される場面ではないでしょうか。
ベテランの『なぜ?』は凶器
競合プレゼンに負けたとします。その振り返りにおいて大事なことは、犯人や生贄を探すのではなく、トラブルや失敗に至った「仕組み」を特定し、それを解決することです。
誰かのせいにして、自分のせいではないと思いたいのは人の性。しかし、たとえ敗因が個人的な問題に起因していたとしても、個人的な問題の裏には、必ず「仕組み」が関わっています。そこを特定し解決していかないと、いつまでも個人的な問題のまま。他の場所で、別の誰かが同じミスをやらかします。「組織知」にするということは「仕組み」の問題に落とし込むということなのです。
仕組みの問題に落とし込む際に気をつけたいのは「なぜ?」ではなく「なにがあった?」を問うことです。原因究明においては「なぜ?」の問いを繰り返していけと教わったかもしれません。しかし、実は人に対して「なぜ?」を使うと、相手は責任を追及されていると感じ萎縮してしまいます。そこで「なぜ」を「なに」に変えて、「なにがあってそうなってしまったか?」と問いかけてみましょう。
仮に「部下Aさんの判断ミス」を分析の出発点とします。「なぜAさんが判断ミスをしてしまったのか?」だと、Aさんは萎縮して「ごめんなさい、以後気をつけます」となってしまいます。
そこで「なにがあってAさんはミスしてしまったか?」と問います。すると「資料に誤解を招く表現があったから」→「なにがあって誤解を招く資料になってしまったのか?」→「オリエン情報の伝達にニュアンスの違いがあったから」→「そのニュアンス違いをなくすにはどうしたら良いか?」→「オリエンを録音させてもらう」というように、仕組みの問題に落とし込むことができるのです。
ベテラン社員の「なぜ?」は、若手にとっては凶器となり得ます。「生贄」探しより「仕組み」探し。「なぜ?」ではなく「なにがあった?」と問う。覚えておいて損はないメソッドです。
ゴキゲンでいるのもスキルのうち
「心理的安全性」とは、職場で誰に何を言っても、どのような指摘をしても、拒絶されることがなく、罰せられる心配もない状態のことを言います。負けてしまった競合プレゼン業務の振り返りをする際に何より大事なのは、ベテラン社員のあなた自身が「ゴキゲン」でいることです。
負けたからといって不機嫌そうにしていては、相手は心を開いて話をしてくれません。ゴキゲンでいることは、会話量・情報量を増やすための前提条件です。心理的安全性を担保した上で「たられば」や「結果論」をどんどん言い合うのが、正しい業務の振り返り方です。
あのときこうしていたら勝てたかも……。結果論だけど、こうすべきだったな……。そんな、行動ベースの「もしもあのとき」を言い合うことで、多面的な敗因をリストアップしましょう。上司・部下、先輩・後輩という関係性だと、つい、一方通行のお説教になってしまいがちですが、理想は双方向のフィードバックです。
「フィードバックは経営資源」という格言もあるくらい、業務の振り返りや検証は、今後の成長に欠かせない要素です。難しいかもしれませんが、役職や年齢を抜きにした話し合いの場を設けるためにも、いつも安定して「ゴキゲン」でいるスキルを身に付けたいものです。
いかがでしたでしょうか?
まだまだ他にもお伝えしたいことはたくさんあるのですが、今日のところはここまでです。どうしても若いことが価値になりがちな業界ですが、そんな中でもベテランの方が明らかに高い能力があります。それは「メタ認知」です。
自分自身や業務全体を俯瞰した場所から客観的に見ること、自分自身をコントロールして冷静な判断や行動ができること。これはベテランならではの能力だと思います。メタ認知を駆使して勝ちに貪欲にこだわるベテラン社員が増えてこそ、この業界は輝くと強く信じています!
次回予告
次回と次々回はいよいよ最終回。テーマは、勝てる「若手」になる。
競合プレゼンは総力戦です。ベテランや一部の中核プレイヤーだけが活躍すれば勝てるわけではありません。今はまだ仕事の中核を担えない若手であっても、何らかの形で勝利に貢献することは可能です。業界の明日を担う若手の皆さま、どうぞお楽しみに!
(8月31日掲載)
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