若手こそ「競合プレゼン」で知識と経験と仲間を増やそう

競合プレゼンに勝ち抜くために必要なことについて、職種別、また年代別に紹介する本連載。今回と次回は最終回の「若手」編です。
競合プレゼンに勝つメソッドを詳しく知りたい方は書籍『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』をご覧ください。

若手が競合プレゼンに臨む意義

最後のテーマは、勝てる「若手」になる。競合プレゼン獲得に向けて、若手なりにどうやってチームに貢献するか。そして競合プレゼン業務を、いかに自身の成長につなげていけるか。そのヒントを掴んでいただければ幸いです。

スキルの話に入る前に、ビジネスパーソンとして競合プレゼンに臨む意義を確認しておきたいと思います。試され比較され、負けることの方が圧倒的に多いのが競合プレゼン。だからこそ「売上」や「社内評価」というビジネスライクな理由のほかに、「個人的なモチベーション」を持っている方が健康的です。

【勝負】シンプルに競技として面白い

普段の仕事の中で明確に「勝敗」を決するものは、実はそう多くはありません。格上の相手にジャイアントキリングを起こしたときの快感は、病みつきになります。私個人としても、この部分は大きなモチベーションのひとつでした。

【実績】自分がつくった仕事と胸を張れる

「あれ(あの仕事)はオレがやった」と、ちょっと関わっただけの仕事でも自分の手柄のように話すことを「あれオレ詐欺」と揶揄することがあります。あれオレ詐欺がまかり通る業界において「私が競合プレゼンを獲りました」という事実は、重要な意味を持ちます。

上司や先輩の仕事を引き継いだのではなく、自分が勝ち取った。まさにお手柄です。だから堂々とプロフィールに書ける。実績として語れる。「自分がつくった仕事です」と胸を張れる仕事をどれだけ積み重ねていけるかが、キャリア形成の醍醐味です。

【スキル&ネットワーク】知識と経験と仲間が増える

勝てばもちろん嬉しい競合プレゼンですが、たとえ負けたとしても、そこで得た知識、経験、仲間は、かけがえのない財産になります。しかも、比較的短い期間で得られる財産です。私自身、競合プレゼンをともに戦った仲間とのつながりを大切にしています。数年後、その仲間から次のチャンスが舞い込んでくるからです。

上司を動かせ、タダだから

競合プレゼンでは、例えば「全社をあげた強固な体制構築アピール」が必要な場合もあります。しかし、役職というパワーを持たない若手である以上、どう足掻いてもあなたの言葉では、得意先に信用してもらえません。そのような場合は、トップ外交してもらうよう上司を動かしましょう。

外部の協力会社や社内の他部署を動かすにはお金がかかります。しかし実は、上司を動かすのはタダなのです。あなた自身に役職というパワーはなくとも、パワーを持った人を無料で使うことはできる。上司を使わないのは実にもったいないのです。

これは、上司が勝手に動くことを期待して待っていてはダメ。あなた自身からけしかけることが必要です。ちなみに私は「プレゼンで社長に言ってほしいこと」を文章にして、営業部門の役職者に託したことがあります。「誰の口から言わせるのがベストか」を考え、それが「役職をもった偉い人」だと判断したのなら、遠慮なく働きかけるべきです。それが勝てる若手の思考回路です。

若手はペンを握れ

あなたの周囲にもきっといると思いますが、声の大きい人、忙しそうにしている人、不機嫌そうな人、偉い人の意見というものは、なぜか通りがち。意見そのものの正しさではなく、意見を主張している人物に意思決定が引っ張られる場面は多々あります。それはつまり、議論を上手くコントロールできずに、「人間関係」が「判断」に影響を与えてしまっているということ。実はそれ、典型的な負けフラグです。

実際のところ、若手が発言の中身で相手を説き伏せ、その場をコントロールしていくことは、ほぼ不可能でしょう。また、議論を上手く仕切るには高度な技術が必要です。でも実は、(少し修練は必要ですが)若手でも使える議論コントロールスキルがあります。議論を見える化する「板書の技術」です。

ポイントは「ホワイトボード」の活用。リモート会議が多い昨今なら、パワーポイントをスライド共有しながら、その場で議論を書きとめていくことです。ホワイトボードの最大の効果は、「意見を言った人物A」と「Aさんの意見a」を切り離せること。話者の音声が文字として記録された瞬間に、「意見 a 」は「人物 A 」から切り離されます。そうなると、意見aは中立性を帯び、人間関係が入り込む余地がなくなるのです。

実データ グラフィック ホワイトボードは人物と意見を切り離す

さらには、もともとAさんが主張していた意見aが否定されたとしても、それはAさんの人格が否定されたのではなく、ホワイトボードに書かれた(誰のものかはあまり関係がない)意見a が否定されたことになります。なので、A さんへの心象は、かなりマイルドになります。

建設的な議論ができる良い会社かどうかは、会議室にホワイトボードがあるかどうかで判断できると言われますが、口頭(空中戦)ではなく書面(地上戦)で対話を重ねることは、上手な議論の進め方の基本です。少し難しく感じられるかもしれませんが、若手は積極的に「板書」を買って出てみましょう。

そうすることで、実は議論をコントロールする立場に回れるのです。ちなみに、しょうもない意見は「書きとめない=議論から抹消する」という最終奥義もあります(笑)。ペンを握ることは、議論の主導権を握ることに等しいのです。

テクリハをなめるな!

機材関係の動作確認を「テクニカルリハーサル(テクリハ)」と呼びます。こういった細かい準備は若手に回ってきますね。しつこいくらいに、確認に確認を重ねましょう。リモート環境でのプレゼンも増えています。PCのダブルスタンバイも含めて、念には念を入れて準備しましょう。誰のマイクをONにし、誰のマイクをミュートにするか、それくらい細かい部分にまで神経を使うべきです。

もし当日、PCのフリーズが復旧せず、予定していたモニター投影のプレゼンができないならば、早々に紙のプレゼンに切り替えるなど、柔軟で素早い対応が求められます。そこまで入念に想定しておきましょう。

心理学で認知バイアスと呼ばれるもののひとつに「ハロー効果」があります。ある対象を評価するときに、目立ちやすい特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のことです。そして、ポジティブ・ハロー効果と、ネガティブ・ハロー効果とがあります。

クライアントは、参加社の段取りをつぶさに観察しています。そしてネガティブ・ハロー効果により、プレゼンの段取りが悪いチームは、仕事の段取りが悪いチームと見なされます。些細なミスの割に、印象に与える影響が大きすぎる。まったくもって割に合いませんので、注意してもしすぎることはありません。テクリハは瑣末な仕事に思えるかもしれませんが、若手のあなたの動き方が、想像以上に勝敗に強く影響するのです。

こうした入念な準備を重ねて本番を迎えますが……、もし敗退を告げられたら?

続きは次回掲載します。

(9月7日掲載)

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若手は競合プレゼンで成長する!

広告業界やコンサルティング、ITなどのビジネス現場で行われている「競合プレゼン」「コンペ」「ピッチ」に勝ち抜く100のメソッドを体系立ててまとめた一冊です。ライバルに勝つためのポイントについて、提案の中身やプレゼンテーション技術ではなく、勝つ「環境を整える」点に着目。競合プレゼンが始まる前の「兆し」から始まり、オリエン、キックオフミーティング、ストーリーづくり、軌道修正、プレゼン当日、事後までのフェーズごとに、行うべきこと、注意すべきことを丁寧に解説しています。

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鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)
鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

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