テクノロジーが進化してもビジネスを成長させる唯一のドライバーは「顧客理解」にあると語る、ディップ マーケティング統括部 統括部長の堀一臣氏。“ユーザーファーストといえばdip”となる目標の実現を掲げ、顧客理解に取り組む同社の取り組みを紹介します。
ディップのマーケティングで重要な6つのポイント
私たちディップは、“Labor force solution company”をビジョンに掲げ、主に人材サービス「バイトル」の他、DX事業を展開しています。2022年の実績を見ると、売上31%、利益102%の前年比増で、プロモーションによって集客でも過去最高のユーザーを集めることに成功しています。
昨今はテレビCMによるプロモーションを強化しています。そこでは「給与があがるーディップ インセンティブ プロジェクト」を訴求。社会的な流れでもある、賃上げを働きかけることで社会によいことをしていきたいという企業の思いを表現したものです。
私たちがプロモーションを実施する際、事前のインサイトの発見を重視しています。その発見のために大事だと考える点を6つのポイントでまとめました。
①「なぜインサイトが大事か」
マーケティングの定義で、私が一番好きなものは「ひとがひとの気持ちや行動を変化させること」です。マーケティングを突き詰めると、ひとの気持ちや行動を変えることだと理解しているので、マーケティングイコールお客様の理解、インサイトの理解が大事なことだと考えています。
マーケティングの構成要素のうち、「誰に」の部分がないと、どういう気持ちに対して、どういう価値を提供すべきなのか、どうやって提供すべきか、ということを組み立てられません。なので、マーケティングでは「WHO(誰に)」のインサイトが起点だと考えています。
②「ターゲットの考え方」
誰のインサイトを知るべきか。まずはロイヤルユーザーの認識から始めます。一番大事なユーザーは誰なのか。その人はなぜロイヤルでいてくれるのかから自社の強み、価値を明らかにし、それをまだ認識していない人に広めていくのは一つのセオリーです。
次に、ターゲットセグメントについて。私たちはデモグラ属性よりも行動や価値観で設定しています。例えば40代、男性、都内在住、独身といっても、価値観は様々で、その人たちが同じサービス、商品を使うかというのは少しクエスチョンです。
「バイトル」では、第一には仕事選びで感じている課題、第二には職種でセグメンテーションを行っています。一方で年齢、性別、エリアでのセグメントはインサイトに有意差がないので意識していません。性別はインサイトの中で性別によって選び方や、課題が違うのであれば見るべきですが、そこに気持ちの有意差がなければ分ける必要はないと考えています。これは事業カテゴリーによって違いがあると思います。
本音を言わない消費者からいかにインサイトを発見するのか
③「インサイトとは」
インサイトという言葉を日本語に直訳すると「洞察・発見・直感」。「言われてみたら、そんなことを思っていたな」とか「なんとかしたいと思っているな」とか、そんな気持ちを抱くもののことだと考えています。
解像度をもう少し上げると、私はモチベーションとバリアを知ることが大事だと考えています。モチベーションとバリアがセットになっていることをインサイトと私は解釈していて、その差分が大きければ大きいほどいいインサイトだと思います。
「バイトル」の例で言うと、バイト選びの基準はなんですかと聞くと時給が高いこと、と回答する。これがモチベーション。だけど、時給が高いバイトを選べていますかと聞くと、高い方がいいけど自分では言いづらいから諦めているというバリアがありました。これが今回のプロモーションにおけるモチベーションとバリアになっています。
④「どうやって発見するか」
ここが一番大事なところです。インタビューなどロジカルな回答を求められるとき、消費者は本音を言わないので、見栄や建前を見抜くことが大事です。インサイトは洞察であるというのは正しい解釈だと言えます。
次に大事なポイントとなるのはお客さんが買わない理由を潰しても買う理由にはならないということです。買わない理由を潰すよりも、強烈にこれでなければならないという好きな理由を作る必要があります。そのためには自社の強みを活かすしかない。インタビューでモチベーションを聞き出し、それをどう満たすかを考える方が買ってくれる確率は高くなると思います。
私たちがよくやるフローとしてはインタビューの前に、どういう人たちに機会があるのか、何がモチベーションでバリアなのかを先に考え、うちのサービスならこういう価値提供ができるのではないか、という仮説を立てて、妄想します。
デプスインタビューでは対象者の選定も大事です。戦略上、確認したい、目的にあった対象者を呼んでくる。そしてできるだけオープンに聞くことが一個目のポイントです。クローズドなクエスチョンにはバイアスがかかっているので、それが良いという回答が得られてもあまり重要ではないことの方が多い。
二つ目のポイントは、簡易なコンセプトを当ててみること。オープンで出てこないときに、インサイトを引き出すための材料としてあえて踏み込んだ質問を当てています。
実際のインタビューで当ててみたプロモーションのコンセプトを紹介します。
上段にインサイト、二段目がベネフィット、三段目にRTB(Reason to Believe)の三段構成になっています。インサイト、ベネフィット、RTBの三つがセットになった簡易なコンセプトを先に当てて、事前の想像、仮説の時点で用意した自信のあるコンセプトを当てる。そこからユーザーの、共感できる、でもここはちょっと違うかもというヒントが得られます。
ポイントをまとめると、オープンクエスチョンで広く聞いたときに、自発的に出てくる回答が強い気持ち。もうひとつ、発言内容だけではなく、声色、表情など全てを洞察する必要があります。言葉以外のテンションも必ずチェックをして、これは信じられるという定性的な自信を持てるかどうかも大事です。
インサイトは消費者の置かれた段階によって複数存在する
⑤「pass to purchase」による整理
認知、理解、利用のファネルごとにどういう行動をしているのか、インサイトがあるのか、それに対してどういうベネフィットを提供していくのか、RTB、キーメッセージは何か。それを当てたときにどう気持ちが変化するのか、ということが書かれています。図には高校生のバイトを取り巻くプロモーションのpass to purchaseを例示しました。
ポイントは二つ。ひとつはインサイトというのは、タッチポイント、ファネルによって複数存在するということ。細かくフローを分けてしまうと複雑化してどこに集中すればいいいかわからなくなるので、図では「認知」「理解」「利用」の三つで整理しています。認知から利用まで二つにすることもあります。このファネルではこのメッセージ、このインサイトにはこのベネフィットということに集中しようという設計図になっています。
もうひとつは、このような設計図があると社内でも説明に使えますし、パートナー、エージェント、代理店とプロモーションを作っていくときにプロモーションの全体像を共有できます。抜け、漏れがないかを確認できる一つの指標になります。
⑥「データ×インサイト」
私たちは「バイトサイクル」と呼んでいますが、バイトのモーメントによって異なる微妙な気持ちを私たちはデジタル、SNS上で収集しています。就業前、探しているとき、就業中といったモーメントによって、起こしたい気持ちの変化は異なるのではないかという仮説を立て、X(旧Twitter)のモーメント配信を行いました。
潜在層、顕在層、就業層というセグメントに分けて、最適なメッセージを送ることによって通常よりも高いCTRを獲得できました。
ソーシャルリスニングも行います。特にSNSキャンペーンをするときには媒体の文脈、カルチャーに合うことが大事です。媒体ごとにすでにある熱量をプロモーションに活かすことで共感や、リーチを得て、バズる。バイラルさせるためには重要なので、媒体ごとにどういう動きがあるかを見ています。
最後は、そのプロモーションがデータ的にも意味があるのか、検証をしています。Googleのプラットフォーム内でYouTubeの接触有無、その後の訴求ごとにどういうパスをすると一番効率がいいのか、そのデータによって次の試作では効率のいい経路に集中する、ということにも取り組んでいます。
【登壇者プロフィール】
ディップ
マーケティング統括部 統括部長
堀一臣氏