「効果測定」に頭を悩ませることが多い広報活動。その成果をどのように整理していけばよいのだろうか。本稿では、日本アドバタイザーズ協会が発表したKPI設定のフレームワークをもとに、鈴木恭平氏(パナソニック コネクト)が解説。「広報の効果測定は広報のためではなく、企業の成果のためになすべきこと」と鈴木氏は指摘する。
※本稿は 『広報会議』2023年10月号「成果を最大化させる仕事の進め方」より抜粋しています。
プレスリリースひとつ、記者発表会ひとつ、意義を感じながらも心の片隅で「どう効果測定し、説明するか」を意識しない日はありません。一般的には記事件数や、広告換算値、あるいは想定インプレッションといった数字を使って広報活動の成果を報告していると思います。そしてその成果の示し方に広報担当者自身が疑問を抱くこともあるのではないでしょうか。
広告換算値はインパクトの分かりやすさから重宝され、広報に詳しくない人にも理解を得やすいのかもしれません。しかし、広告そのものもいまだ効果測定に課題を残している現状において、広報活動の成果を「広報は広告の代替」と誤解されかねない指標で評価することは適切だとは思えません。
私は「広報のミッションは企業や社会の課題をコミュニケーションにより解決すること」だと考えています。弁護士をはじめとする士業に従事する方々は、専門スキルを用いてクライアントの課題を解決することで報酬を得ています。広報も士業と同じように課題解決が本来の仕事なのではないでしょうか。
広報だけの課題ではない
PR会社に勤務していたときから広報効果測定の方法を模索してきました。クライアント企業の広報戦略に合わせて、途方もない量の競合記事分析を目視で行い指標化したり、重回帰分析を用いて売上との相関を検証するといった取り組みも行いました。それでも経営への貢献という観点では不足があるように思えてなりませんでした。広報のスキルだけで納得のいく効果測定はできないのではないかと思い、SNSやオウンドメディア運営といったコンテンツマーケティングの領域にも取り組むようになりました。
数年前から、日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構のソーシャルメディア委員会で活動をする中で分かってきたのは、他業種のSNS担当者やマーケティング、宣伝といった広報以外の職種の人もKPI設定や効果測定で似たような課題を感じていたことでした。
議論する中で、経営層の意識と現場の担当者の意識が乖離していることも課題として見えてきました。SNSで投稿すること、広告を出すこと、認知を上げること、すなわち現場で施策を実行することが目的化してしまえば、効果測定もちぐはぐになってしまいます。それは課題を解決するための取り組みとはかけ離れています。2022年、同委員会では、議論や研究に基づき「企業SNSのためのKPI設定フレームワークVer.1.0」*1を提言しました。
この提言は、SNS担当者の多くが課題認識を持つKPI設定に関して、業界団体の立場からフレームワークを提示し、議論を喚起することを目的としています。フレームワークでは縦軸に商材特性(顧客の購買関与度)、横軸に口コミ(UGC)の量を置き、4つの象限に分けてKPIを提案しています(図)。
得てして広報に寄せられる期待は❶「マスプロモーション戦略」のような短期的な売上貢献や、❷「無形商材のコンテンツマーケティング戦略」のようなウェブ流入や登録数の増加を狙った「認知獲得施策」ではないでしょうか。
しかし、いずれも商材の向き不向きがあり、広告やウェブ、営業支援を含む統合マーケティング活動の中に広報活動を位置づけるべき領域です。もちろん、そういった領域における露出量の最大化やテレビのようなインパクトのある露出によるアウェアネス効果を否定するつもりはありませんし、マーケティング活動全体の中で広報が担う機能のひとつだと考えます。ただし、汎用的で持続可能な取り組みではないとも感じます。
このフレームワークにおいて、多くの広報に関連するのは❸の「コーポレートコミュニケーション戦略」でしょう。「時間をかけてブランド価値を高める」としているように、中長期的な視野でステークホルダーとの関係構築を行い企業としての発信力を高めることこそが広報担当者が日々取り組んでいることだと思います。
フレームワークの発案にあたり、この象限で伝えたかったのは、コーポレートコミュニケーション戦略が「時間のかかる活動である」ということを、現場と経営層が相互理解することの重要性です。ステークホルダーの声を理解するとともに、発信力を高めてコミュニケーションすることで企業活動を勇気づけ導いていく。それは決して短期視点のみではなし得ないことです。
課題解決が広報の信頼につながる
私は、自社の課題やポジション、マーケティング戦略を適切に認識することが効果測定の基礎だと考えています。悪い例えかもしれませんが、プレスリリースや取材が「暴走」してしまうことがあります。
短期的に認知を上げることが目的化するなど、本来企業や経営層が求めているソリューションとは異なるアプローチを良かれと思って実行した結果、社内外にハレーションが起きてしまう。これは広報の現場だけではなく、経営層が認知獲得やマスプロモーション的なアプローチをするのが広報だという誤解をしているときにもありがちなシチュエーションではないでしょうか。
報道分析で競合企業を含む自社の認知状況を相対的に把握する、SNSでお客さまの認識を捉えるなど、広報活動には発信という「口」の役割だけではなく「耳」の役割があります(図❹にあたる)。ときには検索やウェブサイトでの体験における課題もあるかもしれません。どんなにインパクトのある露出で話題になろうと適切な導線が設計されなければ企業として適切な体験を届けることはできません。社内の他部門の声にも耳を傾け、課題を発見することも広報の仕事です。
メディアやSNSなど様々な情報に触れているからこそ、誰かが言ったひとことに潜むヒントの価値や、社内で温度感高く議論される課題が本当にお客さまのために優先すべきことなのかなど、客観的な視点で見えるのです。
広報担当者が企業のコミュニケーションにおける「頭脳」になることができれば、本質的な課題を解決することに貢献できるはずです。そして誰かの課題を解決した実績が広報の信頼につながります。本来、広報の効果測定は広報のためではなく、広報を頼ってくれる誰か、すなわち企業の成果のためになすべきことではないでしょうか。広報の効果測定に単一の正解はなく、広報担当者自身が自社を深く理解してステークホルダーと関係構築し、課題を見つけ出しコミュニケーションにより解決することが本質的な「広報の効果」ではないかと思うのです。
鈴木恭平(すずき・きょうへい)
パナソニック コネクト デザイン&マーケティング本部
モバイルソリューションズマーケティング部
アウェアネス&ブランディング課 マネージャー
PR会社やIT企業で広報およびオウンドメディア、ソーシャルメディアを活用したコンテンツマーケティングを担当。日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構 幹事 ソーシャルメディア委員会 委員長。
『広報会議』2023年10月号の特集「成果を最大化する 仕事の進め方」では、「情報収集のしかた」「広報企画の立て方」「コラボレーションで話題を高める方法」「記者の目を引くビジュアル」「社外へ依頼する仕事の見極め方」「ChatGPT活用」などを紹介しています。
広報会議10月号(9月1日発売)
- 特集
- 「成果を最大化する仕事の進め方」
- ~情報収集~
- CASE1
- 共有カレンダーを活用し情報集約を自動化する
- アークランドサービスホールディングス
- CASE2
- PR戦略会議で社内に「広報」への意識を浸透
- ニュー・オータニ
- CASE3
- 資料管理ルールを定めた効率的なキャッチアップ
- MCEAホールディングス
- CASE4
- クリッピングや会議参加で多事業の動向を把握
- ダスキン
- ~広報企画~
- CASE5
- 訴求する切り口をストーリーで伝える
- カルビー
- CASE6
- 記者発表会でメディアへの継続露出を
- 村田製作所
- CASE7
- 事業の進捗ごとの発信で訴求点強める
- メタウォーター
- CASE8
- 親近感を示し企業色伝えるSNS運用
- 帝人
- ~コラボ施策~
- CASE9
- 記者視点の「ニュース性」提案にこだわり
- ゼロボード
- CASE10
- 企業の役割を明確化し波及効果狙う
- シェアリングエネルギー
- COLUMN
- 活用される業務マニュアルの作成法
- 森田圭美
- GUIDE1 言語化
- 瞬時に「言語化」するための6ステップ
- 荒木俊哉 電通 コピーライター
- GUIDE2 画像活用
- 記者の目を惹き伝わるビジュアルとは
- 善本喜一郎 写真家
- GUIDE3 ミスをなくす
- 調査リリースのチェックポイント
- 木下彰二 共同制作社 代表取締役社長
- GUIDE4 外部パートナー
- 社外へ依頼することを見極める
- 長沼史宏『先読み広報術』著者
- GUIDE5 効果測定
- 経営層と現場の意識の一致が鍵
- 鈴木恭平 パナソニック コネクト
- OPNION メディア編集長が考えるうまい広報
- 安田典人 安田典人 『DIME』編集室長
- 影山桐子 『Women’s Health』編集長
- INTERVIEW 生産性向上につながる生成AI活用法
- 河野あや子、牛山マーティン、前田梨沙
- 広報担当者のための企画書のつくり方入門 特別編
- ChatGPTを広報に応用
- 片岡英彦
など