デジタルでも目指す n=1のブランドコミュニケーションーアニエスベージャパン

老舗ファッションブランド・アニエスベージャパン。2021年度よりマーケティング部体制を強化しブランド体感型イベントの実施やEC、デジタル、CRMを統合したコミュニケーションでリノベーションを図っている。同社が目指すDXとは? ブランド&デジタル部ディレクターのブノワ ピケ氏と馬場初稀氏に聞いた。

月刊『宣伝会議』2023年11月号(9月29日発売)では、「どうやってオンラインで顧客接点をつくる?どんなデータを取得すればよい? 実践!『マーケティングDX』」と題し特集を組みました。ここでは、本誌に掲載した記事の一部を公開します。

写真 人物 アニエスエージャパン ブノワピケ氏 馬場初稀氏

ブランドイメージを崩さず 国内向けのアプローチを模索

1976年にフランス・パリのルーデュ ジュールに第1号店をオープンしたアニエスベー。年齢性別問わず、誰にでも似合い、長く着ることができるデザインで愛されてきた。約40年前日本に上陸し、フランス発の洗練されたブランドとして支持を集め、現在国内だけで134店舗を展開する。最近では京都・祇園にブランドの世界観が楽しめるカフェ&ブティックを新規オープンするなど、ファッションブランドにとどまらない事業にも力を入れてきた。

そんな同社がデジタル施策を強化したのは約2年前。同時期に着任したブランド&デジタル部のブノワ ピケ氏は次のように振り返る。「グローバルブランドであるため、お客さまに発信するコンテンツは全て本社から送られてくる素材を活用していました。歴史もストーリーもあるブランドなので、そうしたコンテンツは既存のお客さまに対するアプローチとしては効果があったと思います。一方でアパレル業界共通の課題であるブランドの若返り化を目指すためには、国内の新規のお客さまにも刺さるコンテンツが必要でした」。

そこで同社はマーケティング部体制を強化、デジタルチームを増員し、国内に特化したコンテンツ施策を始めた。「コンテンツを外注するという選択肢もありますが、我々の武器はブランド力です。お客さまの持つブランドに対するイメージを崩さないコンテンツの制作をするために全て内製で行うことにしました」(ブノワ氏)。

メルマガは最大で5パターン制作 コミュニケーションの最適化

「体感として実感がないだけで実はデジタル戦略におけるコスト回収のハードルは想像以上に高く、デジタルを起点とした売上拡張は簡単なことではないです」と語るのは同部の馬場初稀氏だ。

実際、同社の購買は店舗での比率が約8割強を占めるという。「デジタルの利点はお客さまに対して、データ分析をもとにした心地よいコミュニケーションが早い段階で提供できること。私たちのデジタルマーケティングはとにかく顧客の解像度を上げるサポートに徹したいと考えています」(馬場氏)。

LINEとメルマガの位置付けや融合について既にシナリオを設計している企業も多い中、馬場氏は「コスト回収が中々難しいLINEはリードジェネレーションとして活用し、リッチメニューやメッセージの反応から嗜好性や興味関心に関するインサイトを溜めることに注力しています。一方メルマガではCVR、エンゲージメントが共に高い傾向であるためとにかく施策のPDCAを打っています」と話す。

コミュニケーションの最適化をかけ購買転換を狙うチャネルとして最大5パターンの異なるシナリオを用意し、年代別に出し分けを実施。「メルマガでは件名や、ヘッダーなど細かい箇所に変更を加え、毎回最大5パターンを年代別に作成するため、今年1年間でコンテンツは200を超えました」(馬場氏)。こういった取り組みから今年上半期のメルマガの売上は昨対比270%を達成した。

ロイヤル顧客についても年代別にロイヤルの定義を変え、特に若年層は「購買金額」ではなく「最頻性」を注視しているという。馬場氏は「20代と40代では娯楽に投資できる金額も異なります。リピート率や購入品などを分析し、属性ごとにセグメンテーションを行いn=1に対するコミュニケーションを実施しています」と話す。「ユーザーに合わせてフッターなどもカスタマイズしています。例えば最近初回購入をしてくれたA子さんには2回目購買に素早く転換してくれるようセール情報やできる限り強いオファー要素があるコンテンツを、既に購買体験があるB子さんには新商品情報のコンテンツを出し分けしクリック率の推移を追っています」(馬場氏)。

馬場氏は、マーケティングツールとしては一見効果が慢性化してしまうように見えるメルマガも、取るデータや分析視点を変えたり、より拡張することで、まだまだ伸しろがあるチャネルだ と確信しているという。

顧客の解像度を上げ リアルでの接客に活用

同社がDXを推進する際に重視しているのがオンラインとオフラインのバランスだ。オフラインのイベントを実施した際には来場者を会員IDで管理し、後日その商品に関するメッセージを配信。ライブコマースではより広いプラットフォームから流入を図るために、インスタライブなどと限定せず各SNSや自社サイトまで、あらゆるチャネルに視聴導線をつくる。どのユーザーがどんな商品に興味を持ったかなどは実際の顧客の会員IDを紐付けて追うことができるという。そこで得られた顧客の傾向を分析し、店舗のスタッフに共有。「ライブコマースで紹介するのは20万円を超すものもあり、その場で即決して購入するハードルが高い商品もあります。そのためフォローする店舗での接客が非常に大切になります」(馬場氏)。実際にライブコマース後は店舗への来店客も増加し、紹介した高価格帯の商品がリアルでの接客後に購入につながることも多いという。今年から店舗経験のあるメンバーもデジタルチームに加入したため、密な連携がとれているという。

ブランド戦略とマーケティングDX

デジタルでのコンテンツ施策を強化する同社だが、ブランドの信頼性と品質を維持し、ファッション業界での地位を確立することを目標に掲げている。ブノワ氏は「デジタル活用やデータ分析だけでブランドが劇的に変わることはなく、消費財の中でもアパレルは特に圧倒的にビジビリティの高い仮説とブランディングの視点、両方が必要だと考えています」と話す。馬場氏は「もちろんデザイナーズブランドですからこうあるべきという軸は必要。加えてデジタルではできる限りのデータから見えるお客さまの真実に寄り添いたい。PL上のKPIだけでなくブランドに独自性やメリットを感じているのはどういう人なのか、地道ではありますがデジタル接点で得たデータを組織の中で共有し、顧客戦略の視座が上がるきっかけをつくっていきたい」と語った。

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