現在、まさに審査が進行中の第49回宣伝会議賞。第一線で活躍するコピーライター、クリエイティブディレクターの皆さんが、33万通以上という膨大な応募作品の中からキラリと光る言葉を発掘すべく、忙しい合間をぬって審査してくださっています。
各審査員が、担当課題の審査を順次終えている今日この頃。事務局は、審査を終えた審査員の皆さんに今年の審査の感想や、作品に対する印象などを伺いました。
このインタビュー記事を、期間限定のシリーズ企画として順次アップしていきます。
大広 生駒達也さん
本日一人目は、大広の生駒達也さんです。NTT西日本、積水ハウス、近畿日本鉄道などの仕事を手掛け、ACC賞、TCC新人賞、毎日広告デザイン賞グランプリ、NYフェスティバル銀賞など多数受賞しているクリエイティブディレクターです。今回、初めて宣伝会議賞の審査にご協力いただきました。
――初めての審査、作品の印象はいかがでしたか?
生駒さん 初めての審査で、結構大変でした(笑)。商品そのものを説明するタイプ、ユーザーの気持ちを語るもの、企業の気持ちを語るものと、いろいろな方向性がありましたね。
――今後も、最終審査に向けて審査が進行していきますが、どんな作品が最終審査に残っていくと思いますか?
生駒さん 今年は「絆」をテーマにしたものが世の中的にも多いですよね。ただ、以前から広告の世界ではよく語られた切り口ではあるので、今回あえて言うなら、「日本を元気に」とか、気分が高揚するような作品が残っていくとうれしいですね。
シカク 原晋さん
今回、2回目の審査員を務めた原さんは、毎日新聞、毎日小学生新聞、フジテレビ「ワールドカップバレーボール」、岡本「SUPERSOX」など、幅広い仕事を手掛けるコピーライター/クリエイティブディレクターです。
――今年の作品の印象はいかがでしたか?また、その中でどのような作品を残しましたか?
原さん 9割くらいが同じような視点だったので、そうでないものを残しました。他の人も書きそうな作品では通りません。量ももちろん大切ですが、作品の質を吟味することが大切です。また、過去の受賞作の傾向を研究したのかな、と思える作品がありました。研究するのはいいと思いますが、それにとらわれないようにしたほうがいいですね。もちろん、残した作品には光るものがありました。
――今後、最終審査に向けて審査が進行していきますが、どんな作品が最終審査に残っていくと思いますか?
原さん 奇をてらったものもよりも、王道だけど誰も気付かなかった視点を持った作品、そういうものがグランプリにふさわしいと思いますし、残っていくと思います。
過去の受賞作の研究はもちろん重要ですが、自分のオリジナリティを損なわないよう、注意が必要ですね。他にも多くの審査員から、『「質」の追求が重要』という意見があがりました。
スプリング 李和淑さん
サン・アド在籍後、スプリングを設立。スズキ「パレット」、ファシオ「松本潤のまつげやさん」をはじめ、数多くの話題キャンペーンを手掛けるコピーライターです。今回、初めて宣伝会議賞の審査にご協力いただきました。
――初めての宣伝会議賞の審査はいかがでしたか?
李さん 「自分も駆け出しのころ、そうだったなぁ」と、初心に戻ることができましたし、「よくぞ言い得た!」というコピーもあり、審査していて面白かったです。多くの作品を見ていると、それがどういう思考を経て表現されたのかがよく分かります。同じことを思いついてもそれが同じコピーにならないのが、コピーの面白いところですね。
――作品全体の印象はどのように感じましたか?
李さん 課題のビジュアルに引っ張られている作品が多かったですね。だからかも知れませんが、ビジュアルがないと分からないものが少し目立ちました。一方で、思わずクスっと笑えるもの、グッとくるものなど、見る人の意表を突く良い作品もありました。そうした、コピー一本でも想像力をかき立てられる作品を残しています。
――今後、最終審査に向けて審査が進行していきますが、どんな作品が最終審査に残っていくと思いますか?
李さん 「なにを言うかを見つけたら、どう言うか」。それを突き詰めて考えられたコピーが残っていくと思います。コピーを考えることは、自分の中にあるダイヤを掘り起こしていく作業です。そうした思考のプロセスを経た作品が次のステップに進むのではないでしょうか。
思考の過程が如実に表れるコピー。一つひとつの課題を徹底的に考え抜いたコピーが最終審査に進んでいくのかもしれません。
博報堂 安谷滋元さん
本日最後、4人目は、博報堂の安谷滋元さんです。KDDI Android auやトヨタ自動車「シエンタ」「ポルテ」、コクヨ、JTなどコンシューマー向け商品の広告を多数手がける安谷さん。ACC賞や毎日広告デザイン賞、ロンドン広告賞、NYADC賞ファイナリスト、ベストコピー・オブ・ザ・イヤーほか幅広い受賞歴をお持ちのクリエイティブディレクターです。
――今年の作品の印象はいかがでしたか?
安谷さん 過去の優秀作品を真似てしまっているコピーが多々見られるのは気になるものの、応募作品全体のレベルが年々上がってきているなと感じます。自分にしか分からない表現、つまり短くまとめすぎて意味が伝わらないコピーも残念ながら多かった。切り口は良いのに、もったいない!と思いましたね。どういう意図で書いたのかきちんと説明してもらったら、きっと良いこと言うんだろうな…と。コピーは、いくら切り口が良くても、意味がわからなければだめです。極端に言えば、田舎のおばあちゃんにもわかるように書くべきだと思います。
――その中で、どのような作品を選びましたか?
安谷さん コピーライター養成講座でも受講生に言っていることですが、良いコピーは、「説明コピー」ではなく「解決コピー」。読み手がその商品やサービスを使いたくなるような、つまり、読み手の心を動かすような言葉である必要があります。今回もそうした作品を選びました。あと、コピーを見ただけで「絵」が浮かんでくるような作品ですね。商品・サービスを使っている様子や、登場人物の生活シーンが目の前に浮かんでくるような作品が多く見られたのが良かったです。
――今後、最終審査に向けて審査が進行していきますが、どんな作品が最終審査に残っていくと思いますか?
安谷さん どんな作品が勝ち残っていくかは、正直なところ分かりません。でも、ある意味「運」も重要な要素だと思っています。というのも、世の中で起こった大きな事件や、それを取り巻く社会状況といったものも、審査には少なからず影響してくるものだからです。そういう意味では、世の中のインサイトを的確に捉えたものが、最終的に選ばれるのかもしれませんね。
世の中の流れ、人々の関心事をうまく捉えることが大切という意見が、多くの審査員の方から聞かれます。課題となっている商品・サービスと、社会全体とをつなげることもコピーの重要な役割です。
シリーズ【第49回宣伝会議賞 審査員に聞きました】