総合印刷紙器メーカー・三洋紙業(東京都足立区)は今年9月、東京・原宿に「紙の新しい価値」を提案するコーヒーショップ「PAP.COFFEE」をオープン。紙の特徴を生かしたパッケージで「スペシャリティコーヒー」と渋谷の名店「セバスチャン」の川又浩氏が監修する「ドルチェかき氷」などを提供している。
1969年の創業以来、紙加工業を営んできた三洋紙業が、なぜコーヒーショップを開いたのか?
そのきっかけは、標高1400メートルの山奥でアラビカコーヒーを生産する「アカ族の村」との出会いだった。同社が東南アジアに拠点を持っていた縁で、コーヒーを生産するメーチャンタイ村を訪問。タイ国内外での「メ―チャンタイ村コーヒー豆」のブランド力向上を模索していた同村とSDGs達成への国際的社会貢献に活かす方策を探していた同社の出会いによって、コーヒー事業展開の構想がスタート。今回のカフェオープンへとつながった。
ブランド名の「PAP」は、「PAPER(紙)」の頭の3文字から取っている。紙と人との関係性を探ることで紙と人を繋ぐ「Paper & People」、コーヒー生産者と消費者のつながりに焦点を当てる「People & People」など、多様に展開する「P and P」の象徴でもある。そんな「PAP.COFFEE」ではその名の通り、紙の多様な魅力を来店者に感じてもらえるように、各所に様々な工夫が施されている。
「このコーヒーショップは、様々な紙モノがデジタルに移行する流れに逆行する、リアルな紙の魅力を楽しむ実験場です」と話すのは、同ブランド全体のアートディレクション・グラフィックデザインを手がけた小玉文氏(BULLET)。
紙や印刷加工を生かした「手に触れて感じるデザイン」で国内外において数々の賞を受賞してきた小玉氏と三洋紙業の企画・設計部がタッグを組み、「紙」の魅力を活かした様々なパッケージ・飲食容器などを開発。また、空間デザインにはDO.DO.の原田圭氏を迎え、新しい「紙の在り方」として、テーブルや椅子など店内で日常的に使われるものをできるだけ紙で制作している。
「紙」の魅力を活かした店内にはどんなものがあるかと言えば、例えば店頭の壁に埋め込まれたロゴ。「P」の文字は、紙が「クルッと」巻かれたようなイメージで制作されている。これは一見、銅板のように見えるが、実は樹脂を染み込ませた硬い紙を使用。店内のテーブルや椅子も同様の素材で製作されている。
また、カウンター下の長方形のタイルは、50種類の異なるグレーの紙で制作した箱の蓋を敷き詰めたもの。「一言に『グレーの紙』といってもこのように多彩な色があるのです」(小玉氏)。
もちろん、紙製のパッケージやショップカードなどもこだわりを持って制作されている。コーヒーを提供する際のカップスリーブは巻きつけた紙を切り込みで固定するシンプルな構造。異なる紙の色・形・質感で制作した6種類のスリーブが用意されている。
ショップカードは、ふしぎな長い形状で店頭に置かれている。それを手でパタパタと折っていくと、半立体のような紙の存在感が生まれるデザインと仕様になっている。こうしたツールやメニューなど店内で使われている紙の裏には、使用している紙の名前が記されている。
「焙煎豆のパッケージのラベルは、『紙の端をクルリとさせたいんです!』という私の要望に三洋紙業のエキスパートの方々がステキなアイデアで応えてくださいました。どんな構造になっているのか、ぜひ現地でお手にとってお確かめください」と、小玉氏。
同社ではカフェという空間で、フェアトレードを基本としたコーヒー農園の自立支援、紙資源の循環方法に対する試みなどを行うと同時に、「新しい紙の在り方」や「紙の価値」を提案、発信する場として活用していく考え。今後は、紙に関するワークショップも開催予定だ。
スタッフリスト
- 企画
- 三洋紙業
- AD+D
- 小玉文+BULLET Inc.
- 空間設計デザイン
- 原田圭(DO.DO.)