【前回はこちら】星野リゾート急成長の背景には、積極的な女性登用があった(星野佳路×作野善教)
外国人受け入れの議論をオープンに進めよ
作野:日本が抱える中長期的な課題に人口減少があります。労働力不足は深刻で、いずれは日本人以外の労働力に頼らないといけないタイミングが訪れそうです。
星野:その危機感はみんな持っています。ですが、日本の習慣になじまない人が増えることに対して不安を覚える人もいます。特に地方でその傾向が強いのではないでしょうか。技能研修生として一時的に受け入れ、いつでも帰国してもらえるような制度では本質的な課題解決にはつながりません。
日本の力を最低限維持していくためには待ったなしの状況です。その一歩を踏み出そうとするときに問われているのは国際性だと思います。ですが、先に述べたジェンダー平等も含め、まだまだそうした環境が育っていないのが現状。同じ習慣、価値観、道徳観を共有することを期待していて、それに反した人をやたらと批判するようなことは今でも多いわけです。裏を返せば、今はムラ社会的な状況から脱却するチャンスだと思います。
作野:それができなければ、日本が力を失っていくことにつながるかもしれない、ということですね。
星野:海外からの労働者受け入れに対しては、規制を緩和する法改正が予定されています。前進はしているのですが、正々堂々とした議論がなされていないようにも感じています。政府は経済的な視点で外国人労働者を必要としているのはわかっているので、国民の感情を刺激しないようになんとなく制度を緩くして、受け入れるように迫っているように感じます。
日本の経済にとって重要な、やる気のある人、優秀な人を受け入れていこうとするなら、そのとき起こりうるプラス面、マイナス面をちゃんと議論する機会を持ってほしい。起こるかもしれない副作用を認識して議論しておかないと、副作用が出たときに問題が起きて振り出しに戻りかねない。しっかり議論しておけば問題を回避できるはず。それを今やるべきだと思います。
作野:移民を受け入れるにしても、もっと具体的にどんな人をどれくらい求めているのか、どこのエリアがどんなまちづくりをしたいのか。中長期的な視点を持った議論が進んでほしいですね。
愛知県独自の休暇制定に期待
星野:政府は全国各地の様々な意見を集約するので、大胆な政策を打ち出しにくいわけです。一方、地方自治体は限られた地域の利害を優先できるので変革を起こしやすい。日本は議院内閣制で、首相は議員から選ばれます。一方地方自治体の首長は直接選挙で有権者の支持を得て選ばれるので、ユニークな人が選ばれて大胆な意思決定ができることがある。地方から変えていける可能性は大いにあります。
先日、その一例となる面白い出来事がありました。観光事業にとって年間の需要平準化は大きなテーマになっています。大型連休や年末年始に休暇が集中していると、その時期は価格が高騰しますが、それ以外は閑散期で値下げをしても人が来ない。これが産業の生産性を落としているということで、私は年間の需要が安定するような政策をとってほしい、と2004年から政府に提言してきました。しかし、なかなか重い腰を上げることができなかったところに、愛知県が踏み出しました。
愛知県の大村知事は昨年、11月27日を「あいち県民の日」に制定し、その日を含む21日から27日を「あいちウィーク」と設定しました。その間の1日を「県民の日学校ホリデー」に設定し、学校が休みになる。これによって、愛知県民は休みを利用して、安く、空いた観光地やテーマパークを楽しむことができる。これはまさに平準化に向けた一例です。
「あいちウィーク」が成功すると他県にも波及して、全国的に休暇の平準化への動きが進んでいくことが期待できます。私は、これが地方から始まる日本の変革だと思っていて、大村知事の決断を支持しています。
このように日本の地方、県や市町村が政府に頼らず自ら最適化する政策を採用することは私たちも関わっている山口県長門市の「長門湯本温泉観光まちづくり計画」や北海道弟子屈町の「阿寒摩周国立公園川湯温泉街まちづくりマスタープラン」など、各地で始まっています。観光産業では、かつて、地方の「藩」出身の人たちが立ち上がった戊辰戦争を経て徳川幕府から明治政府へと移行したときのような雰囲気が生まれていて、面白い時代になりつつあります。
作野:特定の地方自治体が先んじて経済振興や労働力確保のために移民を受け入れるという形も考えられるわけですね。
星野:これまで法的に受け入れを認められていた日系ブラジル人のケースがあります。ビザも取れますし、永住も可能です。群馬県大泉町は家電メーカーや自動車メーカーの工場の労働力として、多くの日系ブラジル人を受け入れました。今では人口約4万2000人のうち約15%が外国人、その半数以上が日系ブラジル人です。町ではサンバカーニバルも開催されて、地元の文化とも融合して新しい地方文化を生み出し、観光資源にまでなっています。こうした事例が増えると、産業全般にもプラスの効果が期待できますし、観光資源としても面白くなる可能性を秘めています。
作野:僕が青春時代を過ごした神戸も、開国をきっかけに外国文化を取り入れてきました。外国人居留地は今や重要な観光スポットです。地方都市に外国文化から影響を受けた新たな文化が育ち、それを求めて国内の観光客が集まるというサイクルはすでにあった。これからも地方発信で近しいことを作り出せる可能性はあるということですね。
星野:そういった意識は明治や昭和初期くらいまでの方が日本中にあったのかもしれないですね。経済大国と言われるようになった過程で、ある意味傲慢になっていたのではないでしょうか。バブル崩壊で「空白の30年」と言われるように、その自信はどん底にまで落ち込んだはずだったけれど、ジェンダーの例でもわかるようにいまだに変わることができていません。
それでも私が今、希望に感じているのはお話ししたような地方発の変革の波が起きていること。そういう意味では、地方の首長を選ぶ地方の有権者の意識が試されているのかもしれません。政府、中央にできることは、その変革を推進できるように地方分権を進め、権限を与えることだと思います。
アメリカは州の力が強いので、税の免除などの優遇も独自に行えます。州政府独自の政策で大企業を誘致しますよね。日本も企業誘致は可能ですが、結局は国からの補助金に頼っています。その判断を自治体が独自でできれば、より意思決定や政策の自由度は高まると考えています。
作野:国に頼りきった状況を変えて、地方から変革を進めようというのは突破口になりえますね。
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