冷凍餃子がフライパンに張り付いた写真が…
事の発端は、2023年5月11日にX(旧Twitter)に、あるユーザーが行った投稿だった。味の素冷凍食品の冷凍ギョーザの底面がフライパンに張り付いた写真と共に「油いらないって!!書いてたじゃん!!嘘つき!!」と書かれていたのだ。
この投稿に返答する形で、味の素冷凍食品の公式Xでは、5月12日に投稿主に焦げ付いたフライパンの状態を確認すべく、フライパンの提供を申し出た。
大変勝手なお願いでご面倒おかけいたしますが、このたび調理にご使用いただきましたフライパンを、着払いにてご提供いただけないでしょうか?
焦げ付いてしまうフライパンの状態を確認させていただき、研究・開発に活用させていただきたく考えております。— 味の素冷凍食品【公式】 (@ff_ajinomoto) May 12, 2023
この投稿が次なる展開を呼ぶ。「同様にギョーザが張り付いたのでフライパンを提供したい」という声を複数が届いたのだ。ここから、同社内で「すべての人があらゆるフライパンで綺麗に焼けるギョーザ」を追求する取り組みが始まった。6月16日に改めて公式Xから“使い込んだフライパン”の募集を呼びかけると、この投稿は再び拡散され、3500個を超える大量の使い込んだフライパンが届けられることになった。
【フライパン募集受付終了のお知らせ】
先週より開始しましたフライパン募集ですが、予想以上の反響をいただきましたため、大変勝手ながら、只今をもって受付を終了させていただくことになりました。
ご協力をいただきありがとうございました。 pic.twitter.com/11CzxZmJpq— 味の素冷凍食品【公式】 (@ff_ajinomoto) June 19, 2023
ブランドアクション「冷凍餃子フライパンチャレンジ」の立ち上げ
5月12日の投稿および6月16日以降の一連の投稿は、Xで大きく話題化。投稿への反響は約7400万インプレッション/53万いいね!におよび、「ここまで研究するのか」「SNSのいい使い方をしている」「味の素さんがさらに好きになった」などの声が寄せられた。
その反響を追うように、多くのメディアが一連の経緯とその背景を紹介。10を超えるテレビ番組での紹介があり、ウェブ媒体での紹介も140近くにのぼった。
この反響を受けて、スタートしたのがブランドアクション「冷凍餃子フライパンチャレンジ」だ。3年前より同社のコミュニケーション支援に継続的に携わってきた本田事務所PRストラテジストの本田哲也氏に加えて、I&CO Tokyo 共同代表の高宮範有氏がこの時点から参画している。
まず立ち上がったのは新聞広告の企画だった。「実はお送りいただいたフライパンの中には、『味の素さんのギョーザが大好きです』『たゆまぬ努力を重ねてくれてありがとうございます』などのあたたかい手紙が同封されているものもありました。これらの反応を、『ギョーザに対する愛と期待』と受け止め、多大なる感謝とお礼の気持ちを具現化する目的で、新聞広告の掲出に至りました」(I&CO Tokyo 高宮氏)。
突発的な出来事に対するリアクションゆえに、新聞広告の予算は元々確保されていたものではない。しかし、何らかの感謝を伝える方法を味の素冷凍食品社内で検討していたところに、クリエイティブの内容と併せて提案したことで、採用・出稿に至ったという。
危機管理対応から攻めのブランドコミュニケーションへ
「冷凍餃子フライパンチャレンジ」という名称も、新聞広告のクリエイティブ提案のタイミングで考案されたものだ。6月の時点でなされた多くのメディア報道では、大量のフライパンが届いたことを「アクシデント」「騒動」といった言葉で紹介していた。
「確かに偶発的な出来事が起点となるものですが、味の素冷凍食品社内では、家庭で使われているフライパンを研究材料として、もっと簡単に・失敗なく・綺麗に焼けるギョーザを開発しようという、非常に前向きな気運が高まっていました。こうした同社の捉え方を、世の中にも共有したいと考えて提案した名称です」(本田事務所 本田氏)
新聞広告のボディコピーに入れた「永久改良」は同社の掲げる開発理念。常に改良を続け、商品を提供し続けることを指す言葉で、1972年の発売以降「油なし」「水なし」でも綺麗に焼ける技術開発など改良を重ねてきた。今回のプロジェクトをこの開発理念にひもづけて語ることで、同社の姿勢を発信・理解してもらう機会に変換したいと考えた。
また、「味の素の冷凍餃子」といえば、いまだ記憶に新しい2020年の「手“間”抜き」論争もある。冷凍餃子を焼いて食卓へ出したところ、夫に「手抜き」と言われた妻のツイートが発端となり、賛否両論の意見が噴出。そこに味の素冷凍食品の公式アカウントが「『ギョーザ』を活用することは、『手抜き』ではなく『手“間”抜き』です」と動画とともに投稿したものだ。今回のプロジェクトを担当したのも、この「手“間”抜き」論争の時と同じチームだ。
当時の投稿は、同社の冷凍餃子のブランドパーパスである「調理における不要な罪悪感をなくす」(冷凍食品などを使うことに対する罪悪感をなくす)を伝えることを意図していた。今回のプロジェクトもこのブランドパーパスに即している。
同社は冷凍餃子のカテゴリでは売上トップであるものの、カテゴリ全体としてはコモディティ傾向にあり、生活者は「冷凍食品はどれでも美味しい」と考えがちになっていた。そんな中で、「冷凍餃子フライパンチャレンジ」は同社の冷凍餃子の価値を改めて伝える機会となった。
今後もプロジェクトの進捗を発信していく
同プロジェクトでは現在、集まったフライパンをもとに、家庭での調理環境の実態把握を進めている。送られてきたフライパンの種類・形状・状態は想像を超えて多岐にわたっており、様々な発見があったという。例えば、同社で想定していたのはフッ素加工の丸いフライパンだったが、実際に送られてきたフライパンの中には、鉄のフライパンやフタのつかない四角い卵焼き用のフライパン、ホットサンドメーカーまであった。多様なユーザーがさまざまな調理環境で冷凍餃子を焼いていることが明らかになり、メーカー側で想定する「調理条件」に、より多様性を持たせる必要性を痛感しているという。
今後、プロジェクトの進捗をタイムリーに公表していくために、プロジェクトの公式noteも立ち上げた。プロジェクトのnoteは全て内製で、チャレンジに携わる様々なメンバーの視点から、どのような取り組みが行われているのかを綴っていく予定だ。
一連の報道を受け、フライパンの検証に関して社外から声をかけられる機会も増えた。一つのSNS投稿から生まれた取り組みが、ブランドの新たな可能性を見出すことにつながっている。
スタッフリスト
- 企画制作
- 本田事務所、I&CO Tokyo、ピラミッドフィルムクアドラ
- ECD+PRストラテジスト
- 本田哲也
- CD
- 高宮範有
- 撮影
- 金沢康行
- CD(サイト/3Dスキャン)
- 阿部達也
- Pr(サイト/3Dスキャン)
- 師富玲子
- チーフPM(サイト/3Dスキャン)
- 清水龍輝
- PM(サイト/3Dスキャン)
- 中村栄美子
- AD+De
- 松岡明日香
- TD
- 渡部充
- フロントエンジニア
- 安藤光
- AE
- ヒライユウヤ
- 広報
- 小金丸彩子