プロジェクト化まで半年 まずは「出発点」をつくった
インフォマートの主力事業は、フード業界の受発注システム。4万5000社以上が利用しており、業界内での知名度は高かった。そしてもう一つの柱が請求書受取・発行システムで、こちらは全業界向けの事業。業務領域を拡大していく中で、改めて事業の方向性やブランドの価値を高める必要性を検討していた最中だったという。
25周年を控え、第二創業期ともいえる状況を迎える中、同社が戦略パートナーとして連携したのがグレートワークスだ。スウェーデン発のクリエイター集団 “GREAT WORKS” のブランドとアイデンティティを共有する形で、2008年、日本に設立された同社。近年はBtoB領域を中心としたクライアントサービスに注力し、コンサルティングとクリエイティブを掛け合わせた企画・提案を行っている。最初の接点は、同社がインフォマートの社内研修でSDGsに関する講演をサポートしたことだった。
「その時にWebサイトを拝見して、率直に、“このままではよさが伝わらない、もったいない”と感じ、そのままお伝えしたんです。IT企業であるにもかかわらず、階層も複雑でユーザーからも分かりにくい構成になっていた。するとすぐに、同席していた経営企画管掌の村上取締役から“もっと詳しく聞きたい”と連絡がありました」(山下氏)。
話を聞く中で、Webサイトだけではなく、会社そのものが転換期を迎え、企業ブランドのあり方に課題を抱えていることを知った山下氏。まずは議論を重ね、“プロジェクトの出発点をつくること”から始めた。同社のチームは、全役員に個別インタビューを実施。会社に対する考え方や今後進んでいきたい方向性を言語化し、「インフォマートらしさ」を抽出していった。
インフォマートの市川氏は、「Webサイトの件もそうですが、良いことばかりではなく、はっきりと課題を指摘いただいたことが大きかった。自分たちでも実は気付いていたけどモヤモヤしていたことを、客観的に言語化してくれました」と振り返る。
ブランディングのストーリーを社内向けWebサイトで発信
プロジェクト化まで半年を要した後、事業の価値を再定義し、ありたい姿の土台が固まったのが2022年の12月。そこから約600人の社員全員を巻き込み、ブランドの世界観を構築していった。浸透にあたっては、社内向けのサイトを制作し、リブランディングの背景やロゴ・タグラインの持つ役割、現状の課題、今後の方針などを分かりやすく提示。ブランドアイデンティティを各種コミュニケーションツールに落とし込み、ノベルティやグッズを作成することで、常に目につくようにした。
山下氏は、リブランディングで重要なのは“適切な外圧”だと話す。「インナーからのブランド浸透も大切なのですが、世の中に発信することでステークホルダーから問われ、自分の言葉で答えざるを得なくなる。インナーとアウターのブランディングの両輪をバランスよく回すことを意識的に行いました」(山下氏)。
直販だけでなくパートナー販売も行っている同社。「しごと、スマート。インフォマート」の言葉を起点として、同社が提供する価値を、販売パートナーの担当者も含めて、全員が自分ごとで語れるようになることが理想だ。「今回のプロジェクトで何より重要だったのが、社員の心が動くところまで寄り添ってくれたこと」と市川氏は振り返る。
リブランディングを実施後、インフォマートでは全社員を対象にアイデア企画コンテストを実施。169件エントリーがあり、最終的に92件の企画案が集まった。
「当社は今テレワーク主体で、一体感の醸成にも課題があった。“次の25年は自分たちでつくる”という意識が生まれていることを、実感しました」(市川氏)。
企業ブランドのリニューアルは「あくまでも出発点」。ここからは、サービスブランドのあり方へと議論を広げていく。
ロジックとクリエイティブ2つの視座をジャンプする
2023年5月にサイトがローンチしたとき、山下氏に冒頭の村上取締役から1通のメッセージが届いた。「『サイトのリニューアルも嬉しいが、デザインの持つ力を社内で体験できたことが何よりの成果だ』というメッセージをいただいたんです。ブランディングを経営課題と捉え、企業変革や組織風土改革につながる取り組みだと感じていただけたことが、何よりも嬉しかった」と語る。
グレートワークスのビジョンは、“Make Jumps Together”。ロジックとクリエイティブ、2つの視座のジャンプを繰り返す「戦略的着想」で、クライアントとともに歩み、未来を可視化することを掲げる。
「ブランディングは、その会社の価値を高める無形資産。10年、20年と続いていくようなブランドをつくっていることに自覚を持ちながら、目の前の人の幸せを常に考える集団でありたいと思います」(山下氏)。
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