10年目のau三太郎シリーズ、初の生成AIを活用した新CMはどう生まれた？

KDDIは1月1日、au三太郎シリーズのお正月CM「さぁ、何やる？」篇を公開した。10年目を迎える同シリーズとしては初めて、生成AIを活用して制作された。

CM最大の特徴は、これまでの160本以上のCMと、イラストレーター・松本ぼっくりさんの200枚を超えるイラストを生成AIに学習させることによって、新しい表現が試みられている点だ。約200枚の異なるパターンのイラストを学習させ、生成された画像を組み合わせて60秒のCMを制作した。

チームは、生成AIを活用した初のCM制作に苦労した。

例えば、松本さんのイラストと、過去の三太郎CMシリーズの中でも厳選した約160本のシーンを生成AIに学習させて60秒CMを作成するためには、1秒間あたり24ものフレームに分解する必要があった。また、フレームごとにAIがアニメーション化を行うため、三太郎の衣装の柄や表情もフレームごとに異なることから、チラつきなどが発生し、見づらくなってしまう懸念もあったという。

制作に携わった、クリエーティブディレクターの篠原誠氏（篠原誠事務所）と、コミュニケーションプランナー 奥村誠浩氏（電通）は、「生成AIでCMをつくることは、まさに“実験”ともいえる挑戦だった」と振り返る。

「元旦に放映開始する三太郎シリーズCMは、いつもその時代にあった“おもしろさ”をどのように取り込むかを考えています。今回の特長は、生成AIを活用して新しい表現に取り組んだ点です。今回も、CMのクオリティをあげるため、何度も検証や試行錯誤を重ねて、1つのアニメーションを完成することができました」（篠原氏・奥村氏）。

「どの部分でAIを活用するか、試行錯誤しました。音声部分なのか、AIで映像そのものをゼロからつくるのか、または編集を……など。結果、アニメーション化の段階での活用を決めました。しかし、AI活用のアニメを見慣れている人が多くないことを考えたとき、“チラツキ”などをどうやって抑えるか。逆に、全て編集上でチラツキを修正してしまっては、AIを使った意味も、面白みもなくなる。どこまで手を入れるか入れないかという点が、とても重要でした。また、今回のコピーは『さぁ、何やる？』。このCM自体が、少し実験的でチャレンジに見えるようなアガリを目指しました」（篠原氏）。

「まず第一に、三太郎の世界観やイメージを壊さず、テレビ画面に流れて耐えうる映像に仕立てられるかが大きなポイントでした。キャラクターや背景の印象を、一定の世界観でクオリティを保てるのか、さらにはどうしても発生するチラツキを軽減できるかなど、出力してはプロンプトの組み直しを行い、何度もトライ＆エラーしながら制作しました。人手でアニメーションをつくるよりもまだまだ手間がかかることがわかったのも大きな発見でした（笑）」（奥村氏）。

同シリーズは、KDDIのブランドスローガンである「おもしろいほうの未来へ。」を伝えていきたいという想いのもとコミュニケーションを続け、2023年には9年連続でCM好感度1位を達成した。CMを担当するKDDIのコミュニケーションデザイン部 部長 合澤氏・同部 IMC推進室室長 山中氏は、今回のCMで発信したコミュニケーションメッセージ「さぁ、何やる？」について、「『まずは踏み出すこと、それが大事』という思いを込めている」と話す。

また、CMとあわせて体験できる連動施策「さぁ、何やる？メーカー」も用意。ユーザーが生成AIで自分だけのミュージックビデオを作成できるというものだ。両氏は、今回のCM展開にわせた一連の取り組みについて次のように話す。

「CMをみて“au、そうきたか”と感じ、コンテンツの体験を通じて新しいテクノロジーをより身近に感じてもらいたいです。また、今回の新春メッセージは、社内に対するものでもあります。2030年に向けたKDDIグループのビジョン『KDDIVISION 2030』では、“新しい世界をつくるため、古い常識や思い込みなどを超えて、すべてをつなごう”としています。まさに、同じところに立ち止まっていては新しい世界をつくることはできません。社内でもこの1年間、“さぁ、何やる？”を念頭に置き、新たな技術への挑戦を繰り返しながら、お客さまに『おもしろいほうの未来』を提案し続けたいと思っています」（合澤氏・山中氏）。