- 【出席者】
- オイシックス・ラ・大地 専門役員 奥谷孝司氏
- カンロ 執行役員 内山妙子氏
- KCJ GROUP 代表取締役副社長 マーケティング本部長 宮本美佐氏
- 資生堂ジャパン マーケティングリレーション本部 本部長 北原規稚子氏
SNSでどう接点をつくれるか? Z世代に対するアプローチの課題
2014年11月に活動を開始したCMOのコミュニティである「CMO X」の34回目となる研究会が2023年11月に開催された。今回はオイシックス・ラ・大地、カンロ、KCJ GROUP、資生堂ジャパンのマーケターが参加をし、各社の取り組みやマーケティングにおける課題を共有した。
研究会はまずは各社のマーケティングの大方針に関する共有から始まった。
オンラインで食の宅配サービスを提供し、ミールキットが象徴的なプロダクトであるオイシックス・ラ・大地の奥谷氏は、買い物時間や料理時間を短縮するといったクッキングの負の部分を解消するだけでなく、料理をする時間が豊かになるような提案に力を入れているという。具体的には、人気のテレビドラマに登場した料理をミールキットにしたり、人気ハンバーガー店とコラボしたりなど、毎週届くのが楽しみになる企画に力を入れている。
大正元年に創業し、キャンディーに特化して事業を展開するカンロの内山氏は、若い世代を中心に話題となった次世代食感グミ「グミッツェル」について話した。ブレイクしたきっかけは、YouTubeでグミッツェルの咀嚼音がバズったことだ。東京駅の直営店ではグミッツェルを買い求めるお客様で毎日長蛇の列ができており、ECサイトでの販売も好調だそうで、デジタルの力やZ世代の力を痛感したという。
同じく、SNSやZ世代へのアプローチが以前とは変わってきていると話すのは、資生堂ジャパンの北原氏。資生堂といえば、ブランドモデル=時代を象徴する存在であるほどのパワーを持っていたが、現在は生活者の最初の接点はSNSやUGCであることが多く、生活者が日常のどんなモーメントでブランドを認知するか想像しながらアプローチしていくことを意識している。昨今は韓国コスメや、ブランド認知の低いプロダクトでもSNSやUGCで若い世代の目に触れ、インフルエンサーの影響で商品が売れることも多い。そのなかでいかに、プロダクトからブランドを好きになってもらい他商品につなげていくかが課題だと説明した。
国内3拠点(東京・甲子園・福岡)で3~15歳を対象とした職業・社会体験施設を展開するキッザニアを運営するKCJ GROUPの宮本氏は、定期的な調査をするなか、保護者の教育ビジョンの違いによるアプローチの立て直しが急務だと話した。
例えば、子どもに「将来、世界を救う人になってほしい」というような教育ビジョンを持って利用している保護者の場合は、競合が博物館や教育機関となり、子どもの“好き”を追求したいという考えを持つ場合はテーマパークが競合になるのだという。また、コロナ禍を経験し、オフラインの接点だけでなく、オンラインの接点も必要だと感じているという考えを示した。
課題を掘り下げると、根っこが共通していることもある
研究会の後半では、さらに課題を掘り下げ、今後の方針についても共有した。デジタルへと時代が変化するなか、どのように顧客と接点を持ち、顧客エンゲージメントを高めていけばよいか。参加者たちはブランドの垣根を越え、意見を交換した。
宮本氏は、子どもたちを取り巻く環境において求められているのは、学校の学びだけではなく、自己肯定感やコミュニケーション能力といった“生きる力”も重要であるとし、キッザニアのコンセプトである「エデュテインメント」(エデュケーションとエンターテインメントを組み合わせた造語)をどう進化させていくかも課題であると話した。
自身も子どもとキッザニアを利用したことがあるという北原氏は「15歳で卒業というのはもったいない。キッザニアの対象年齢を超えた高校生や大学生をつなげて、就職に結びつけていく可能性は存分にある」と提案し、宮本氏も「今は就職活動において課外活動を注視する企業も多いので、検討していきたい」と賛同の意思を示していた。
SNSで情報が氾濫するなか、中高生などスキンケアやメイクデビューした若年層が必ずしも自分に合っていないスキンケアやメイクを信じてしまうことを危惧しているという北原氏。ただ、デパートのコスメカウンターの接客に尻込みしてしまうのも若い世代の特徴だ。奥谷氏は購入モードに入っている消費者なら、スキンケアやメイクについての情報もスッと届きやすいのではと提案した。「オンラインで購買モードに入っているタイミングで情報を届けたり…」と話し、米国のリテール企業の事例を共有した。
北原氏も「プロダクトが売れて終わりではなく、顧客のデータが集まる時代なので、購入後にアプローチしてブランドをより好きになってもらうという、新しいカスタマージャーニーを考えていく時代になっている」と続けた。
奥谷氏はアフターコロナでオンラインフードビジネスが飽和状態となっているなか、オイシックスでも次なるヒット商品やサービスをつくっていくことが必要だと話す。北原氏はオイシックスのターゲットが子育て世代であることをふまえ、「友達と集まっても外食より家飲みが多い。そんなときに手軽で少し華やかさもあるミールキットがあると重宝されるのでは」と話し、内山氏は「SDGsの観点が広まるなか、宅配サービスだとダンボールや緩衝材などが発生するのが嫌な人もいるのでは」と物流の革命を起こすことで次なるビジネスにつながることを期待した。
内山氏がカンロの課題として挙げたのが、売り先としてコンビニエンスストアが強いなか、棚取りに苦戦するという点。商品サイクルも早いため、売上が突起しても続かない。また、キャンディーなどのお菓子は衝動買いされやすく、商品とコーポレートの結びつきも弱いという。北原氏はメインターゲットの中高生を視野に入れ、「青春のモーメントの体験価値は人の心に残りやすい。シーンにストーリーを感じるブランド体験を作ることができれば、ロングセラーブランドに向かうことができるのでは」と話し、奥谷氏はブランド認知を上げるために、地域とコラボレーションした売り方もあるのではと他社事例を挙げた。
研究会は3時間におよび、参加者からは「多様な業界の責任ある方と話ができて刺激になった」(北原氏)、「他社のマーケティングを考えることでいろんなことがつながり、明日から取り組みたいことが見えてきた」(奥谷氏)などの声が上がった。
「CMO X」Founderの加藤希尊氏は「課題を掘り下げていくと根っこが共通していることがある。例えば『原体験』はオールジャパンの課題になってきている。共通した課題をどう乗り越えていくかは共通している部分でもあるし、横につないでいくことが我々のミッション」だとCMO Xの意義を伝え、本研究会を締めた。