オープンイノベーション、AI連携、サスティナビリティ…CESで感じた世界の潮流―「CES2024」現地レポート④ 

2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス、CESが今年も米国ラスベガスでスタートしました。今年のテーマはALL ON(オール・オン)です。CESは、「Fortune 500」企業のうち311社が登録し、4,000以上の企業が世界中から出展。会期中には270を超えるセッションが行われます。毎年、約173カ国から参加がある巨大イベントです。
CESは、家電ショーとしてスタートしましたが、今日ではテクノロジーとイノベーションのイベントに変化を遂げています。CESでは、スマート家電に始まり、AI、ヘルスケア、ロボティクス、XR、サスティナビリティ、そしてダイバーシティに至るまで、先端的な取り組みに触れることができます。ここで触れることができるテクノロジーは、産業からビジネスモデル、ライフスタイルを大きく変化させることは間違いなく、マーケターにとっても注目すべきイベントだと言えるでしょう。そんなCESを現地からレポートしていきます。

韓国、フランスの存在感が目立つ。スタートアップの拠点、EUREKA Parkは大盛況

CES2024 現地レポートは、最終回の第4弾。今回は、今年の出展の傾向に注目したいと思う。日本からの出展企業、韓国企業、欧米企業の他、大企業、スタートアップという視点からもレポートしたい。

まずは、ある意味で第二の主役となっているエリア、EUREKA Parkについて紹介したい。ここは、1,400以上のスタートアップが出展するエリア。このエリアで存在感を発揮していたのが韓国とフランスだ。

韓国は、政府だけでなくSAMSUNGやLG、HYUNDAI、POSCOなど大企業が支援するコーナーも大きく面積をとっており、会場の半分近くは韓国のエリアであった。官民合わせて力を入ている様子が伝わってくる。次に、政府の後押しの強いフランスでも130社以上の出展があったという。さて、気になる日本はJETROによるJ-Startupエリアや大阪商工会議所のJAPAN TECHエリアなどに約50社程度の出展であった。その規模感は、お隣の韓国との差を感じてしまうものだった。

このEUREKA Parkで注目したのは、先ほど触れた韓国の大企業支援による出展だ。LGやSAMSUNGなどの韓国企業はCESのメイン会場でも、大規模に出展をする2社だ。これらの企業は基調講演やプレス発表会を毎年、行っている。そこで必ず強調する取り組みがオープンイノベーションだ。今年も、AIを中心とした両社のプラットフォームやスマートフォームのエコシステムに関する発表があったが、オープンイノベーションの取り組みを非常に重視した内容であった。その、姿勢の一旦が、EUREKA Parkでの韓国大企業コーナーでのスタートアップ出展だと感じた。これは、日本の大企業の特にスタートアップ連携、CVCに取り組む方は、参考にすると良いのではないだろうか。

写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
1400社以上のスタートアップが出展するEUREKA Parkの出展案内看板。企業数の多さには目を見張るものがある。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
JETROが主催するJ-Startupエリアには日本のスタートアップが出展。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
JAPAN TECHエリアに出展する日本企業。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
最も存在感を示していたのは会場の大半を占める韓国エリアだった。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
韓国自動車メーカーのHYUNDAIとKIAが支援する出展エリア。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
LGが支援するスタートアップ出展エリアのLG NOVA。LG NOVAは、人と地球のために明るい明日を築くというミッションに参加する革新的なベンチャー企業を育成するという。

ブランド露出としても注目するべき韓国B2B企業の出展

今年、筆者が注目していたのは、CESでの存在感を高めつつあるB2B企業による出展だ。もちろん、以前からB2B企業の出展はあったが、ここ数年間で非IT系企業のB2B企業の出展レベルが一段と向上している。コンテンツの質、規模、そしてCES会場全体に占める存在感の高まりを感じる。

B2B企業の出展において、注目するべきは韓国企業だろう。HD HYUNDAI、DOOSANというトラディショナルな重工企業の出展がそれだ。彼らは、B2C企業にも劣らない高い品質レベルの出展をしていた。そして、基調講演、プレス発表会との連動性も高く全体として効果的なプレゼンテーションをできていたのではないかと筆者は考える。少なくとも、CES来場者やメディアを通じて米国市場でのブランドインパクト与えたのではないだろうか。

■HD HYUNDAIの展示の様子

写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
基調講演と連動して、大規模に出展する韓国重工メーカーのHD HYUNDAI。昨年は、オーシャン・トランスフォーメーションと題して海洋技術やプロダクトを出展していが、今年は建設建築にフォーカスした出展となっている。このメリハリは凄いと筆者は関心をした。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
客寄せ目的のVRコンテンツもかなりの力の入れようだ。

■韓国重工メーカーDOOSANの出展の様子

写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
プレス発表会に参加した韓国重工企業のDOOSANは、HD HYUNDAI同様に展示エリアに力を入れていた。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
プレス発表会で説明されていた、グリーン水素関連の展示。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
同社の建築土木関係の重機の展示。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
製造ロボットとAIを連携させる価値を説明するための、ロボットによるカクテル提供実演コーナー。

■自動車メーカーHYUNDAIの出展の様子

写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
次世代自動車のプロトタイプ展示と映像の融合で、スマートモビリティの世界観と体験を紹介。かなり盛況だった。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
水素プラントとエコシステムを紹介する展示。水素技術に関しても、AIとソフトウェアが高いサービス体験を提供可能なスマートモビリティ ソリューションを展開するという。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
ロボットを含めた物流全体を支援するソリューション展示。

SAMSUNGは、スマートホームのオープンプラットフォームであるSmartThingsを強調

CES全体の展示で最も大規模に出展し、多くの来場者を得ていたのはSAMSUNGだろう。今年は、より一層、彼らのスマートホームのプラットフォームであるSmartThingsに力を入れた展示となっていた。このSmartThingsのエコシステムの広さ、拡張性やAIと連携することによる新しい生活提案、環境対応への寄与など、展示の場にもストーリー性と機能説が両立した優れた展示となっていた。

写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
スマートホームのプラットフォームであるSmartThings全体のエコシステムを展示。出展エリアで一番スペースを取り、SAMSUNGがいかにこのプラットフォームに力を入れているのかを伺わせた。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
家庭内ロボットのBallyプロトタイプも展示。一日に数回のデモがあったようだ。

■その他の企業による注目の出展

写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
昨年、基調講演を担った米国巨大農機具メーカーのJOHN DEEREによる出展。昨年同様に、実物の米国の大農場で使われている農機具を大規模に展示していた。
写真 2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス CES
昨年、初出展したENEOS。今年もEV向けのオイルを出展。昨年の出展で商談も生まれ一定の成果が出ているという。

CES2024を終えて

今年は、大きな変化を感じるCESであったと筆者は考える。まずは生成AIを含めたAIの実装と産業やライフスタイルへの影響。欧米・韓国企業の取り込みスピードと投資の速さを感じる機会となった。実際の投資や開発状況はさておき、こと発信という側面では欧米・韓国が日本企業より先に進んでいる印象を与えていたと思う。

次に、サスティナビリティやダイバーシティが、やはり当面の間は主要なテーマになるだろうという確信だ。そして、韓国の巨大テック企業、欧米の大企業によるサスティナビリティの発信は、プロダクトへの実装、サスティナビリティやダイバーシティへの対応が企業やプロダクトの競争優位に寄与しており、きちんとプロダクトとして機能的価値を提供していることを主張している点が非常に重要だ。

CESは、やはりテクノロジーとファクトとしてのプロダクトを見に来る場所であり、オーディエンスもそれを期待している。CESで発信する、韓国や欧米の企業はB2C、B2B問わずにそのことを理解し、登壇発信、展示を行っていた。日本のマーケターは多く見習う点があるだろう。

最後に、イノベーションは自社単独ではなし得ないということを伝え、オープンイノベーションや協業が重要な役割を果たしている点に注目される。プレス発表や基調講演を担ったSAMSUNG、LG、ロレアル、SIEMENS、HD HYUNDAIを始め、米国・韓国企業はGAFAMやスタートアップとのコラボレーション、オープンイノベーションによるエコシステムの重要性と取り組みを強く訴えていた。

特に生成AI領域でのGoogleやMicrosoftとのコラボレーションが非常に多く目にする年であった。特に昨年のサムスンは、“サスティナビリティ”が主役であったが、今年は間違いなくAIを取り込んだSmartThingsそして、Bixbyプラットフォームであり、それらを包含するオープンなエコシステムであったと言って間違いないだろう。

最後にB2B、特に韓国企業のB2B企業の存在感だ。HD HYUNDAI、DOOSAN、自動車エリアでB2B領域を発信したHYUNDAI。国内企業と比べて、展示規模・質・コンテキスト共に優れていたのではないだろうか?そして、CESがB2B企業にとって、ブランド発信の重要な場としての影響力を拡大させて続けていると実感した。日本のB2B企業のマーケターはCESを活用した、国内・グローバルのコミュニケーション設計を検討しても良いのではないだろうか。

さて、オープンイノベーション、AI連携、B2Bの発信、サスティナビリティ。日本のマーケターにとっても新しく重要なテーマが多く発信された2024年のCESであった。多くの基調講演やプレス発表はYouTubeでフル動画の閲覧が可能だ。本稿で伝えた企業のプレゼンテーション動画を視聴することをオススメしたい。

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写真 人物 森 直樹氏

森 直樹氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター
エクスペリエンスデザイン部長/クリエーティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。



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