定期的に顧客ロイヤルティを測定し、社内共有する
お客様の声委員会では、さまざまな顧客の声情報を集約するとともに、顧客ロイヤリティを定期的に測定することをおすすめする。手法はNPS®(Net Promoter Score®)を推奨したい。
NPS®とは、顧客ロイヤリティを測定するための究極の質問と言われる「ブランドXを友人や同僚にすすめる可能性はどれくらいありますか?」という問いに対する回答を調査する方法だ。回答は0~10の11段階とし、10~9をプロモーター(推奨者)、8~7をニュートラル(中立)、6以下をデトラクター(非難者)と分類。プロモーターが占める%比率からデトラクターが占める%比率を差し引いた%数値をNPS®指標とする。例えばプロモーターが30%、デトラクターが10%の場合、NPS®は20%となる。
米コンサルティング会社ベイン&カンパニー(Bain & Company)のフレデリック・ライクヘルド氏などが考案したものだが、ソーシャルメディア時代に最も適合した顧客ロイヤリティ測定方法であり、かつ調査集計の手間が軽いこととから、米国では広く大手企業に採用されている。NPS®に関して、より深く学びたい方にはNPS®認定資格を持つ高見俊介氏の著書『ロイヤルティリーダーに学ぶソーシャルメディア戦略』がおすすめだ。NPS®のみならず、顧客ロイヤリティに対する深い見識が記されている。
なお、ソーシャルメディア、カスタマーセンター、店頭などで測定される現場のインタラクション指標(KPI、Key Performance Indicatorと置き換えてもよい)は、あくまで顧客ロイヤリティ向上のための参考指標として現場メンバーで共有し、全社の重要目標(KGI、Key Goal Indicatorと置き換えても良い)は顧客ロイヤリティ指標とすることを推奨する。なぜなら、この統合施策の究極の目標は長期的な顧客ロイヤリティの向上であり、顧客の心の中にロイヤリティループを構築していただくことにあるからだ。
参考まで、ソーシャルメディア活用をファイナンシャル指標に結びつけて運用している企業はほとんどないが、一部企業では自社サイトおよび店舗への流入数を正確に捉え、それを広告媒体料に換算した金額を「ソーシャルメディアの媒体価値」として捉えている企業が増えてきた。書籍「ソーシャルシフト」(斉藤徹著、日本経済新聞出版社刊)の第六章、ローソン事例や丸亀製麺事例を参考にしてほしい。
NPS®による顧客ロイヤリティ調査を、顧客接点ごとに定期的(四半期ないし半期)に実施し、顧客の声やその分析結果とともに社内外に告知し、社内意識の向上とブランディングを行っていく。お客様の声委員会で集約すべき情報をここでまとめておこう。
- 各顧客接点におけるリアルタイムに生活者の声
- 定期的な顧客の声分析結果(四半期)
- 各顧客接点におけるNPS®調査結果(四半期ないし半期)
- 各顧客接点におけるハッピーストーリー (顧客が感動した顕著な事例をピックアップ)
社内文化を醸成するとともに、ブランドイメージを高める
四半期に一度、お客様の声委員会は、集約した情報をサマリーして発表するイベントを開くことが望ましい。この情報をできるだけオープンに共有することが社内文化醸成のために非常に大切なためだ。社員であれば誰でも参加できるようにし、全社にユーストリームおよび動画公開したい。また外部監査組織であるブランド審議会メンバーも参加するのが望ましい。
ここで発表するのは、上記で記した4つのアウトプット・サマリー。特にハッピーストーリーの表彰など、現場をエンパワーメントすることが最大の目的であることを共通認識としたい。また経営陣の興味を刺激するために、顧客ロイヤリティと関連した経営施策と関連づけた重点課題を設定、時系列で達成度を追うのも一つの方法だろう。
このお客様の声委員会の活動および発表会については、そのサマリー版を適時広報し、ブランディングに役立てるとともに、透明性を広く告知したい。その際には、自社の企業理念やブランド哲学もあわせてアピールすることが肝要だろう。
社員ロイヤリティを測定し、社内共有する
あわせて、NPS®を社員に対しても定期的に実行することをおすすめしたい。こちらは毎年1度のサイクルで実施し、やはり顧客と同様に社内発表を行いたい。ここでのハッピーストーリーは、社内で共有しているオープンリーダーシップの成果を社内対話プラットフォームに蓄積しておき、そこから社内事例を抽出するなどすれば良いだろう。
多くの一流ブランドでは、顧客を大切にすることと社員を大切にすることを比較できない最重要課題として位置づけられており、企業理念に刻まれている。特にソーシャルメディア時代にはその傾向が顕著となるだろう。現場社員が幸せで、会社に強い愛着心を持ち、自らの判断で自律的に動ける組織。この三要素がお客様に感動を届ける最大の動力源となるからだ。
社員の幸せを実現するためのポイントはいくつかあるだろう。ブランド哲学を浸透させ、素晴らしい価値観を共有すること。お客様の幸せを共有し、自社の姿勢に共感してもらうこと。オープンリーダーシップを社内に浸透させ、社員をエンパワーメントする組織体に変革すること。社員の職務や職場に対する意向を重視し、成長意欲を阻害しないこと。そして社員の幸せと顧客の感動を真摯に追求する人事システムを構築することだ。ザッポスのように、採用時に社風にあう人材かどうかを徹底的にこだわり、個性を能力より重視する企業もこれから増えてくるだろう。
またザッポスでは、Wow! なサービスを提供した社員をみんなで褒め称える、祝福する、伝説として語り伝えるということが文化として徹底されている。お客様から賞賛の電話やメールをいただくと、その内容が社内メールに転送され、ザッポスグッズを購入できる社内通貨がプレゼントされる。またコンタクトセンターでは、毎月投票により今月のWow!サービスとして表彰される制度もある。後述する全日空には、同僚に渡すグッドジョブカード、お客様からの感動の声を全社に届ける社内報ANA’s Episodeがある。「自分が、自分が」とアピールしなくても会社のほうから感謝してくれる土壌は、強いチーム結束の基礎となるものだ。お金ではない、同僚からの褒め言葉、感謝の言葉、感謝のイベント。そんなハッピーな体験を通じて、社員と顧客を尊ぶ社風は醸成されていくのだ。
顧客ロイヤリティ、社員ロイヤリティを社内システムに組み込む
長期的なビジョンとなるが、これらの活動を社内に定着させ、新しい時代にふさわしい社内文化を醸成するために、事業部門評価、管理部門評価、社員の人事考課にまで、顧客ロイヤリティや社員ロイヤリティを組み込むことを検討する。ただしこれは副次的要素であり、成果の可否はケースバイケースだろう。特に個人評価には注意したい。みなの目立たないところで必死に支えている縁の下の力持ちに日が当たらない、成果主義が過ぎるとチームとしての一体感がそこなわれるなどの弊害も多いからだ。安定した生活を送るための收入は人生の基礎となるものだが、プラスアルファな部分まで金銭的な報酬にする必要はない。モノからコトへ。オカネからココロへ。人事部門も力点をシフトして、あるべき社風を醸成し、社員の幸せを最大化する施策を慎重に検討すべきだろう。
また、人間的な社内交流を通じた文化の継承は、いつの時代にも大切だ。やはりザッポスでは、企業文化維持のために、入社後4週間かけて行う「ザッポニアンはこうあるべき」という研修、社員がコアバリューについて見直す機会を与えるリーダー養成プログラム「パイプライン研修」などを行っている。ただし、ザッポスの採用方式を構築した熟練リクルーターであるクリスタ・フォーリー氏によると、それらの研修以上に重要なのが「ザッポス・カルチャーの守り手」としての責任も負っているマネージャーだという。
ザッポスはマネージャーに「勤務時間の10~15%を、部下との社交に費やすこと」を義務づけている。マネージャーはメンバーの成長を見守る親鳥のような存在なのだ。毎週必ず行われる部下との面談では「業務成績」や「キャリアパス」とともに「企業文化への取り組み」を重要なディスカッション項目と規定している。つまり、頻繁な部門内の対話コミュニケーションを通じて、企業文化が語り継がれる仕組みをDNAとして組み込んでいるわけだ。こんな弛まぬ文化継承の仕組みをもつからこそ、社員一人ひとりを信頼し、彼らにリアルタイムな意思決定を委ねることができるのだ。
※連載「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。
斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー
- 第12回 ソーシャルシフト:ステップ5 顧客の声を傾聴する仕組みを構築する(12/5)
- 第11回 ソーシャルシフト:ステップ4 オープンに対話できる場をつくる(11/28)
- 第10回 ソーシャルシフト:ステップ3 すべての顧客接点を改善する(11/21)
- 第9回 ソーシャルシフト:ステップ2 ブランドコンセプトを練り上げる (11/14)
- 第8回 ソーシャルシフト:ステップ1 プロジェクトのコアをカタチづくる(11/7)
- 第7回 企業をソーシャルシフトする6つのステップ(10/31)
- 第6回 ソーシャルメディアは、生活者、社員、経営者を結ぶ情報パイプライン(10/24)
- 第5回 大企業におけるオープン・リーダーシップ(10/17)