社内に広報活動で使えるネタが眠っていないだろうか。社会的な関心が高まっている情報、旬なテーマにアレンジできるネタを発掘し、メディア露出につなげていくための方法について、「広報企画」に関する本の著者がアドバイスする。
※本稿は『広報会議』2024年3月号の記事を転載しています。
『成果を出す 広報企画のつくり方』
著者 片岡英彦氏
かたおか・ひでひこ 東京片岡英彦事務所代表。企画家・コラムニスト・戦略PR事業。日本テレビを経て、アップルコンピュータのコミュニケーションマネージャー、日本マクドナルドマーケティングPR部長などを歴任。企業のマーケティング支援活動のほか、WOMマーケティング協議会(現クチコミマーケティング協会)発足時のガイドライン検討委員を務める。東北芸術工科大学企画構想学科学科長/教授。
『先読み広報術』
著者 長沼史宏氏
ながぬま・ふみひろ アステリア執行役員コミュニケーション本部長。大手メーカーで、広報・IR担当としてのキャリアを積んだ後、2015年に新興IT業界へ転身。旬の話題に絡めたPRを通じて“お茶の間”にリーチする話題づくりで実績を重ねる。技術の普及・生態系の保全・働き方改革に取り組む各種団体で理事などを務め、社会啓発につながるPR活動も展開中。東北大学特任准教授(客員)・コミュニケーションアドバイザー。
─2024年に報道される可能性の高いテーマは何でしょうか。
長沼:全体論としては、日本は大きく経済成長をしていくフェーズから、成熟社会に移り、いかに現状を守っていくかという状態にあります。「人手不足」「少子高齢化問題」は喫緊の課題。企業としてこれらにどうコミットしていくのかは、常にホットな話題です。
瞬間的なものとしては物流、建設、医療の「2024年問題」に関連した施策があります。また行政はIT基盤「ガバメントクラウド」の整備を進めており、DXに向けた大きな流れがあります。いかに業務を効率化し、人手不足などの課題解決に寄与して、社会全体のベネフィットを提供しているかを伝える広報活動が特にBtoB領域で有効だと思います。また「働きやすさ」「ソーシャルグッド」の観点もあります。例えば、賃上げをして働きやすい環境を実現しようとする企業姿勢には社会の共感が集まりやすい。積極的な施策や取り組みを発信すれば、パブリシティを獲得するだけでなく、採用志望者の増加などの効果を生み出すのではないでしょうか。
片岡:今年のキーワードは2023年に起きたことの中に潜在的にあり、2024年に花開く、もしくは問題として浮き出るものだと考えています。ちなみに僕は毎年、紅白歌合戦に出てくるものを分析しながら1年を振り返り、次の年がどうなりそうか書き留めています。
前年から継続して社会的な関心が高まりそうなのが、各業界にAIがどう浸透していくか。ITが発達してきた頃と同様に、AI技術が金融や医療、教育、エンターテインメントと多様な分野に浸透し、あらゆる企業にとって無視できないテーマになっていくでしょう。AIによる自動化だったり、パーソナライズされたサービスだったり、事業とAIを関連づけた広報活動が展開されていくはずです。今まで人の頭で判断していたことをAIが行うようになれば倫理の問題への関心も高まっていきます。
一方、コロナ禍の不安な状況からアフターコロナになって、少し前向きな雰囲気が漂ってきたところに、海外で戦争が起き、年明け早々には能登半島地震がありました。こうした社会の出来事を自分事として捉えている生活者も多いはず。これまで以上に社会問題を背景とした広報活動は重要になり、報道においても、環境やメンタルも含めたウェルネスといったテーマが取り沙汰されてくると思います。
─メディア向けセミナーを開く場合、テーマ決めのポイントは。
長沼:タイミングです。たとえば2024年問題なら労働時間の規制は4月に始まるので、その1カ月半前くらいにセミナーを開きたいところ。報道の機運は半月前くらいから高まるので、メディアにはその時期を見越して早めにインプットしておく必要があります。タイミングよく発信するためにも法改正等の年間スケジュールを把握しておくことが大切です。
─社会的な関心事と自社の関わりをどう発信すればいいでしょうか。
片岡:メディアにのせる、オンラインでより多くの人に自然拡散されることを狙うには、広い意味での「可視化」が必要になります。人が頑張っている様子や行列ができるといった分かりやすく可視化しやすい現象があればいいのですが、さきほどお話ししたAIやデジタル技術のように、企業が向かっていくトレンドは可視化が難しいものも多くあります。ソーシャルグッド的なことも、地味でもコツコツ良いことを長く続けるのは社会の流れに沿っているのですが、目立たない。そこをどう「新しい」と感じてもらうか、「ホットなニュース」として伝えていくかについては、「データの裏付け」や「ファクトベース」で従来との違いを見つけ出していくことが必要になります。
今まで広報担当者の勘でやっていたところを、データドリブンで可視化して、例えば「便利な機能のアプリ」ではなく「残業をなくせるアプリ」というように魅力を伝え、独自の売りの提案につなげていく、付加価値を伝えていくということです。こうした考え方はマーケティング思考そのものですが、広報担当者にも必須になっています。
長沼:商品機能やスペックにフォーカスしていた文言に、そこから得られるベネフィットを加えると伝わり方に違いが生まれますね。片岡さんは著書『成果を出す 広報企画のつくり方』で、「残業をなくすアプリ」の例のようにアレンジの仕方をビフォー・アフターで分かりやすく解説されていますが、お茶の間にも届きやすくなる情報のアレンジ力、プロデュース力は本当に大事だと思います。
メディアの関心事に絡めた新商品がタイミング良く出せれば一番いいのですが、そんなに都合良くもいきません。そこで私の好きな方法が「状態」や「熱量」をネタにすること。「今AIコンサルサービスの受注が前月比で◯◯%も急増しています」のように変化率などの数字を示せる状態や熱量をネタにします。こういうネタの見つけ方をよく聞かれるのですが、私の経験をご紹介します。ある日、販売動向をチェックしていたら、ある製品が異常に売り上げを伸ばしていたので、調べたところ、当時メディアで連日話題になっていたPM2.5対策が理由だった、ということがありました。データから見える自社の変化に気づく注意力も大切だと思います。
片岡:自らネタに気づくことが大事ですね。事業部や各支店、営業所から上がってくる情報だけでなく、広報担当者が自ら情報を発見し企画を創造する機会をつくれるかどうか。これは、広報部門がさらに発展していく上での肝になると思います。そのためには、長沼さんの著書『先読み広報術』のタイトル通り、どういう露出をしたいのかというアウトプットから先読みして、そのために必要なものを考えていくことになります。
大学でゼミ生の企画を指導していると、とにかくメディア露出をしたいからあちこちのメディアにプレスリリースを書いて送る学生が出てきます。もちろん、やらないよりはやったほうがいいけれど、新聞なのか、ローカル局なのか、全国ネットなのか、あるいはオンラインの拡散か、アウトプットの狙いを持って、コンセプトや戦略を立てていけるか。内容は社会的な動きに沿っているのか、新奇性があるか。そういう視点で発想できる広報部門は「攻めの広報」ができるはずですし、広報実績を数値化しやすいはずです。一方、「攻めない広報」は他部署から「仕事をしていないのでは」と思われてしまいがちです。
長沼:私自身、出したリリースが記事になった時のタイトルと、自分達が書いたリードやタイトルが合わなかった時は反省しています。他社のリリースでの見立ても分析していて、広報勉強会の題材にしたりしていますね。
リリースを書くとなると、最初はどうしても自分の目線で書いてしまいがちなので、相手のナラティブは何かというところまで想像することがコツだとアドバイスするようにしています。消費者や社会の喜び、またはソーシャルグッドとのつながりが見えてくると、商品スペックばかりの話題づくりから脱却できます。事業部とプレスリリースをつくる時も、なぜ今この内容なのかとか、買う人は何が嬉しいのかを確かめながら、企業側の思いだけで語ろうとしている部分を一つひとつ潰すようにしています。先ほどお話しした法改正等の年間スケジュールは事業部にも共有して広報マインドの社内啓発を行っています。
片岡:何を商品の強みと捉えるかは、営業やマーケティング部門と、生活者やメディアと近い位置にいる広報部門では、理解が少しずつ違う場合があります。商品開発者は事前調査をふまえて社会的な需要を発見し、開発しているわけですが、その思いがそのままメディアを通じて拡散するものになるかというと、必ずしもそうではありません。社内の思いを擦り合わせて、最終的に外に出すメッセージをどうするかを考えるのは広報の仕事。そうであれば、なるべく商品・サービスの上流、コンセプトづくりくらいから広報部門が関われると理想的ですね。(敬称略)