デジタル社会における「人」の役割

IT化された社会でアイデンティティーを確立する

デジタル社会とは「IT化された社会」。あるプロジェクトで著名なIT企業を訪問、十数人のスタッフと挨拶する。普通なら個々に声をかけながら「今後ともよろしく!」と名刺交換するが、この企業では様子が違った。「そちらの提案を72時間以内にまとめて所定のフォーマットの規則に従い、Eメールで提出して下さい」とだけ言われ、名刺交換もない。

彼らは「IT化された社会」の1パーツにすぎないとういう。離職率67%の職場で1年後には自分が会社にいるかどうかもわからない。そんな職場で自分のアイデンティティーは存在しない。今この業務で必要なのは自分を相手に覚えてもらうことではなく、一つの歯車として業務を止めることなく、次へ引き渡すことであるという。したがって個々の紹介もなく、ただ伝えるべきことを伝えられて作業は終了した。表情のないまるでお面をかぶったような「人」がそこにいる錯覚にとらわれた。

デジタル社会はどこまで進化するのだろう。アルゴリズムの世界はときとして複雑な「人」の感性や知性すら奪ってしまう。キャンバスに色を塗ろうとしても絵の具がなく、またそれを書く手まで奪われる。合理化という名の下に、突出した考えや動きが封じ込められ、画一した安定が求められる。心の躍動や感動を忘れ、知らない内に自分が部品の一部になっていることに気がつく。数年前までSF映画の一シーンだと思っていた非現実が今、職場でリアルになりつつあるのだ。

一方、欧米の先進企業は、表現や伝達の手段を「IT化された社会」でも巧妙に利用し、マネジメントのプロセスにおいても不可欠な要素となっている。ブログ、ツイッター、ユーチューブなどを利用したステークホルダーダイアログやマーケティングの市場調査はもちろんのこと、危機管理の視点でも、ヴァーチャルコマンドオフィスのような仮想現実の中でのITバックオフィスを使ったシミュレーションが現実のものとなっている。

アナログ派・デジタル派などのような趣味の形式にこだわっていた時代から、ITが生活様式・ビジネスコンセプトにとけ込んだ昨今では、個人・組織ともにデジタル社会に使われるか、使いこなすかの選択がアイデンティティー確立において急務となっている。

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ