被災の当事者として、企業が情報発信をする際のポイント

震災をはじめ自然災害が発生時、企業が被災の当事者になった場合、どのような広報活動が求められるのだろうか。『広報会議』で連載を執筆する、リスクマネジメントが専門の弁護士・浅見隆行氏が解説する。
写真 データ 被災した企業からの発信例

(図)被災した企業からの発信例

 

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震によって、多くの死傷者や家屋の倒壊などの被害が生じました。1月8日には石川県小松市を創業の地とするコマツが義援金総額6億円(石川県5億円、富山県1億円)の緊急支援や、被災地の要請に沿った形で機材を無償貸与することを決定するなど、企業各社が復興に向けて支援する態度を明らかにしています。本稿では、震災など自然災害の被害にあったときに広報する際のポイントを解説します。

震災をはじめ自然災害が発生したときには、本社の建物や工場が損壊するなど企業が被災の当事者になることもあるでしょう。その場合に、自社の被災状況や事業継続への影響、また事業再開に向けた状況を情報発信することは不可欠です。しかし、情報を発信する際に忘れてほしくないのは、「被災者を慮る気持ち」です。建物や工場の損壊や事業への影響はあくまでも財産的損害です。財産的損害ばかりを情報として発信すると、世の中の人たちからは「あの会社は、自社の金儲けのことしか考えていない」と誤解されてしまいます。企業の事業活動は従業員、地域住民、取引先・消費者など人によって支えられています。そうだとすれば、企業の情報発信には、人を意識して、従業員などの人的損害、さらには地域住民や取引先・消費者へのメッセージも発信できた方がベターです。

例えば、金沢市に本社がある三谷産業は、1月4日に「令和6年能登半島地震の影響に関するお知らせ」と題して被害の状況、事業の継続、業績への影響についてのリリースを出すだけではなく、1月9日に「令和6年能登半島地震の支援に関するお知らせ」と題するリリースを発信しました。

1月9日付けリリースでは、「当社グループは、創業以来96年にわたって、北陸地域の皆さまと歩みを進めてまいりました。地域社会の一員として、皆さまとともに一日も早い復興に向けて全力を挙げて取り組んでいく所存です。」「被災された皆さまに一日も早く平穏な生活が戻ることを祈念するとともに、一層の支援に尽力してまいります。」と、「北陸地域の皆さまと」「地域社会の一員として、皆さまとともに」とのフレーズを入れて、地域住民と一緒に復興していく姿勢と被災者を慮る気持ちを強調しています。地域住民と一緒に復興していこうとする企業姿勢を発信することで、世の中の人たち、特に地域の人たちからは「自社の利益だけでなく、一緒に復興しようと考えている」と好意的に受け止められるように思います。長い目で見たときには、会社のファンも増えるのではないでしょうか。

また、被災したときの広報では、「人間味」が出せることも、会社のファンが増えることに繋がります。危機管理広報では、定型的な無味乾燥な情報発信をしてしまいがちです。特に、上場会社は開示を意識して、必要最低限な情報発信に留めてしまう傾向にあるように思います。

しかし、本来、広報は「広く」「報じる」ことを目的とするものです。震災が発生したときのように従業員、地域住民、取引先・消費者に対して個別に連絡をすることが難しい状況では、個別に連絡する代わりに、会社が代表してメッセージを発信することは広報の原点と言っても良いでしょう。

例えば、金沢市に本社がある澁谷工業は、1月22日付けリリースに、「当社は幸いにして全社員の無事を確認し、自宅や実家の復旧作業のための特別休暇対応と被害が比較的軽微で出社可能な社員との連携により通常業務を継続しており、被害の大きかった社員と親族へは震災見舞金をお届けしております。また、このたび社内の一部設備の被害に対し早々に応急措置を頂きました地元企業の方々に厚く御礼申し上げますとともに、県外や海外からも沢山の温かい激励のお心遣いを頂き心から感謝いたしております。」と、事業継続に関する情報のほか、従業員への支援、地元企業や取引先に対するお礼の言葉を載せています。

地元企業にお礼をした理由や事情にも触れ、かつ、「温かい激励のお心遣い」「心から感謝」などのフレーズを使用している点は、形式的にお礼をしているのではなく、本心からお礼をしているのだなという印象を与えます。これもまた、地域の人たちや取引先に、好意的に受け止められる広報のように思います。

心からのお礼と感じられる要因は、お礼の理由が書かれていることと形容詞・副詞の修飾語が使われていることです。危機管理広報や上場会社の開示では発信する情報の内容を具体的に特定する必要があるので、修飾語を使うことは滅多にありません。しかし、お礼のような「人間味」を出す場面では、「温かい」「心から」などの修飾語を使うことで読み手に与える印象が柔らかくなります。

人間味があふれる柔らかい広報は、広報それ自体が好意的に受け入れてもらえると同時に、見た人に会社への親近感を抱いてもらいやすくなります。最近は、企業各社のSNS公式アカウントの担当者である「中の人」が人間味を見せることで、お客様に親近感を抱いてもらうことが当たり前になってきました。その意味では、被災したときの広報もSNSの運用も親近感を抱いてもらうという目標は同じです。ただし、会社の広報なので、情緒的な表現に偏りすぎないようには気をつけてください。

「被災者を慮る気持ち」や「人間味」を出した広報を狙って行うことは難しいと思います。広報担当者の皆さんは、「危機管理広報は必要最小限の情報以外は、自由に書いて良い」と楽に構えることが、被災者を慮る気持ちや人間味を出すためのコツです。広報担当者の皆さんの人間性が試される場面かもしれません。

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弁護士 浅見隆行

あさみ・たかゆき 1997年早稲田大学卒。2000年弁護士登録。中島経営法律事務所勤務を経て、2009年にアサミ経営法律事務所開設。企業危機管理、危機管理広報、会社法に主に取り組むほか、企業研修・講演の実績も数多い。




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