広報担当者が知っておきたいビジュアルデザインのコツについて、『伝わるデザインの授業 一生使える8つの力が身につく』の著者で、hooop代表の武田英志氏に聞きました。
※本記事は、2023年4月1日発売予定の広報会議2024年5月号特集「メディア取材が増える 広報の秘訣」の転載記事です。
武田英志 氏
たけだ・えいし アートディレクター。グローバル企業の広告から教科書まで幅広い媒体を手掛けるデザイン会社hooop代表。著書に『伝わるデザインの授業 一生使える8つの力が身につく』(翔泳社)。
Q1. プレスリリースなどで、伝えたい情報が伝わるようにデザインするための考え方とは?
A. 情報の優先順位を付けること
そもそもデザインと聞くと、見た目をかっこよく整えることだと思う方が多いかもしれません。自分にはセンスがないからデザインなんてできない、という声も聞きます。
しかしデザインは、おしゃれなもの、奇抜でかっこいいものをつくることではありません。デザインの本質は「伝えたいメッセージを正しく分かりやすく伝えるために見せ方を工夫すること」です。考え方のロジックを知ることが、デザインの本質を理解する第一歩です。
企業や自治体の広報担当者など、デザイナーではないけれどデザインをしなくてはならない人も増えています。広報担当者にとってもデザインは、情報があふれる中で発信した企業・商品情報に関心を持ってもらうために重要な要素です。
デザインの本質を知ったうえでプレスリリースなどの広報ツールに落とし込めば、メディアに興味を持ってもらい伝えたいメッセージが届きやすくなります。その先のメディア露出や話題化につなげるためにも、デザインの本質を押さえておくことは重要です。
デザイン作業で最も優先度が高いのが、情報を整理する工程です。プレスリリースのキービジュアルやニュースレター内の画像、広報誌などをデザインする際、伝えたいメッセージや関連情報は数多くあります。
その情報のうち、どれとどれが並列の内容か、ある情報は別の情報と同じまとまりか、一段下の階層になるか、などと情報の重み付けや分類を考えます。ひとつのコンテンツに含まれる情報の構造を整理していく作業です。
私が企業の方からデザイン素材をいただくとき、文章として情報が整理されているもののビジュアルに落とし込むイメージまで持たれている担当者の方は少ないように感じます。
デザイナーはまず、素材の情報を確認し、「内容の重みと階層を整理」します。これができると、目立たせたい情報をどこに配置するのがよいか、どの情報を大きくすべきかといった紙面の構成イメージが見えてきます。
見た目を考えてデザインし検証
情報の整理ができたら、見た目を考えます。具体的には、書体の種類や大きさ、文字の組み方、余白の取り方などです。前工程で情報の重要度や階層分けがきちんとできると、「この文字は大きく目立たせよう」「この情報は補足的な内容だから控えめな書体にしておこう」といった判断ができます。
情報の整理が中途半端な状態だと、デザインに落とし込む段階でつまずき、結果的に分かりにくいデザインになってしまうことも。デザインを仕上げたら、実際に利用されるのと同じ環境で検証することをお勧めします(詳細は後述)。掲載する情報を整理して、デザインを考えて検証する、この一連の工程を経て、メッセージが伝わるデザインとなるのです。
Q2. デザインをするときにデザイナーが考えていることは?
A.認知のノイズを減らし「視認性」「可読性」のコントロールを
デザイナーは、メッセージが伝わるデザインになっているかを意識してデザインしています。「伝わるデザイン」と一口に言っても様々な視点がありますが、ここではふたつ紹介します。
小さな違和感を見逃さない
デザインを見た人が、そこに書かれた文字が自然に読めるか、情報が自然に入ってくるかをデザイナーは重視します。
人間の脳はかなり敏感で、文字の位置や大きさが少しズレていると、そのズレに意味を求めてしまいます。並列の情報なのに揃っているべき配置が揃っていない、似た扱いのデザインなのによく見ると重要度が違う内容だったといった認知の違和感があると、人はストレスを感じます。違和感は読みづらさにつながり、広報ツールの効果が薄れるだけでなく、結果的に商品や企業への不信感を抱かせるリスクすらあります。
そのためにデザイナーは、受け手が自然に読めてすっと頭に入ってくるかどうかに気を配ります。上級者テクニックとして、違和感を逆手にとったデザイン手法もあるので、まずは基本を覚えておくことが重要です。
違和感のないデザインをノンデザイナーが意識するのは難しいかもしれませんが、文字の大きさを気にしたり、同じ素材の配置を揃えたりといった工夫をするだけで、違和感を減らすことができます。
「視認性」と「可読性」を意識する
「視認性」とは、目で見たときの確認しやすさのことです。文字を大きくしたり、太い文字を使ったりするデザインは「視認性」が高いと言われます。
例えば高速道路の道路標識などは「視認性」を重視したデザインの代表例です。ひと文字ずつ読んで理解するのではなく、ドライバーがぱっと見た瞬間に何が書かれているか理解できることが重要です。
一方、「可読性」は文章がどれだけ読みやすいかを示す言葉です。書体や文字サイズ、字間や行間を調整することで「可読性」が高くなります。
「見る」と「読む」行為は似ているようで異なります。プレスリリースのキービジュアルなどは、読み手(メディア側)にできるだけ「見る」を意識してほしいので、文字だけでなくビジュアルも含め全体的に視認性を高めるようデザインします。
取材終了時に渡す紙媒体の補足資料は、「読む」ことで理解が深まるデザインが適しているでしょう。
「視認性」と「可読性」の考え方は、プレスリリース、オウンドメディアからチラシなど、様々なコンテンツの視覚表現に適用できます。「この見出しは“見る” ためのものだ」「このデータは“読む” ためのものだ」という捉え方ができると目的に合わせたデザインを考えられるようになります。
逆に判断を間違えてしまうと、視認性を優先すべきところに長々と説明文を入れたり、可読性を優先したいコンテンツなのに派手な色使いや過度な装飾をして読みにくくしてしまったりします。どちらを優先するか、作成するコンテンツによって使い分けましょう。
Q3. ノンデザイナーが陥りがちなデザインの失敗例は?
A 情報が詰まり……
続きは、広報会議2024年5月号 特集「メディア取材が増える 広報の秘訣」からお読みいただけます。
特集「メディア取材が増える 広報の秘訣」ではこのほか、「メディア取材を呼び込む5つの要素」や、「常連企業に聞く、メディア露出の舞台裏」について、取り上げています。
広報会議2024年5月号
- 特集
- メディア取材が増える
- 広報の秘訣
- GUIDE 広報担当者が知っておきたい!
- メディア取材を呼び込む5つの要素
- 上岡正明 フロンティアコンサルティング 代表取締役
- CASE 1 メディアとの対話を重ねる 編
- 「メルカリが取り組む意味」を伝え
- 事業に紐づくメディア露出を獲得
- CASE 2 PRイベント 編
- 一足早いお花見や「いいちこ」ブランドを
- ビジュアルやPRイベントでメディアに発信
- CASE 3 トップが語る 編
- 「どんな取材でも受ける姿勢が大切」
- 高視聴率社長に聞くメディアとの付き合い方
- CASE 4 ロケ支援 編
- 番組制作者の記憶に残る対応で
- 1000件ロケ実現、熱海市のイメージ向上へ
- CASE 5 時流にあった情報提供 編
- ナイル「半歩先」のトレンドワードを切り口に
- AI活用で調査リリース作成時間は70%減
- メディアに聞いた 取り上げたくなる広報術
- ●フジテレビ『Live News α』
- ● TOKYO FM『ONE MORNING』
- ●『ハフポスト日本版』
- GUIDE 情報の優先順位を明確に
- 「瞬時に伝わる」広報ツールのデザイン
- 武田英志 hooop代表取締役
- COLUMN 情報の理解度を高める「デザイン」
- 広報担当者が押さえておくべき考え方
- 小杉幸一 onehappy_ 代表取締役
- COLUMN 掲載数測定から次なる段階へ
- メディアリレーションの効果指標を考える
- 藤村侑加 PReA 代表取締役
- 広報入門
- ● 新任広報担当者に伝えたい、先輩広報のエピソード
- ●『広報会議』メディアリレーション連載の読み方
ほか