情報可視化の方法は予測不可能に
ある企業に取材で、「2ちゃんねる」での書き込み内容に触れて質問したところ、「出処不明な噂、憶測などにコメントは致しません」という危機管理広報のお手本のような回答が返ってきた。聞く側も当然そのような回答を予測して聞いているので、あまり驚かない。ところが、最近常識を覆す事態が度々発生し、危機管理広報の対応が急変している。
ヤフーとディー・エヌ・エー(DeNA)は、β(ベータ)版を公開したPC向けソーシャルゲームサー ビス「Yahoo!モバゲー」(ヤフードメイン下でDeNAが運営)で、他人のマイページに第三者がログインする不具合があったとし、サービスを中止した。この際「2ちゃんねる」に書き込みが一斉に開始されたが、当該企業の事務局より直接書き込みがあり、事態の事実関係、進捗や今後の対応について経過が説明された。本来、「2ちゃんねる」は誰が書き込んだか不明のまま、つぶやきや意見などが進むことになるが、そこに企業が直接会話に参戦し、適切な回答を行って憶測を回避するという大胆な手段を講じた。結果として、今回の企業の試みは大きな転機となり、事態は鎮静化し、風評は好転した。
最近「ツイッター」でつぶやいた不倫発言が大きな話題になった。「ツイッター」はつぶやく内容によって誰がつぶやいたかが特定できる可能性が高いところに2ちゃんねると違う視点がある。書いた内容が多くの人々にとって関心が高ければ、つぶやきという方法でありながら人々には公表に近い意識下に置かれる。この件での対応は関係者が記者会見という方法で対処する事態となった。
海保の尖閣列島沖船舶衝突に関する動画流出事件では、「ユーチューブ」が使用された。動画のインパクトは文書や画像をはるかに超えた真実性にある。誰が流出させたかより、動画の内容の真実性が問われる問題が先行し、それが政治・経済などに大きな影響を与える可能性が出てくる。事態の鎮静化には動画内容の真実性とそれを誰が管理し、どのようにその情報を取り扱っていたかの説明責任が急務となっている。
動画のインパクトとそれでいて視聴率が低く、時間差でニュース報道される特徴のある「BSチャンネル」での政治家の出演が多くなっている。動画ということでキーワードを示しやすく、一方で報道のインパクトも大きいから他のメディアや大手新聞紙面にも載せやすい。新たな媒体として注目されている。
今後、何かの情報を発信しようとする場合、色々なツールやITメディアを使ってどのようにそれを最も効率よく、かつ劇的に伝えるか、その選択の可能性は広がりつつある。そして、その発信内容をどうとらえ、発信者の思惑に乗るか、あるいは踊らされることなく情報を評価できるか、情報分析の適否はより難しくなる。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第8回 「デジタル社会における『人』の役割」(1/6)
- 第7回 「木曜深夜『魔の時間帯』に震える!」(12/16)
- 第6回 「従業員を語り部(かたりべ)にするCSR戦略」(12/9)
- 第5回 「グローバル・ローカリゼーション」(12/2)
- 第4回 「先進ITツールに乗り遅れるな!」(11/25)
- 第3回 「元米大統領補佐官から聞いた『目からウロコ』の話!」(11/18)
- 第2回 「“Fire & Forget”理論が語るディスコミの影響」(11/11)
- 第1回 「『広報』は、なぜ必要なのか?」(11/4)