3Dモデルを部門横断して活用
タペストリー社のデジタルプロダクトクリエイション部門には、デザインと製品開発をサポートする3D専門のクリエイターや3Dプリントのプロトタイプをつくるクリエイターが所属しており、カマラ氏がそのチームを率いている。
部門の役割は、ブランドを横断してクリエイティブアセットを制作し、製品のコンセプトづくりから実際の製品化までをサポートすること。また社内ではデジタル分野のアドボケイターという位置づけで、新たな働き方を検証したり、率先して試したりといったことも担当している。
「私たちのチームでは、『コーチ』『ケイト・スペード ニューヨーク』『スチュアート・ワイツマン』の3ブランドにおいて、アクセサリーから靴まで、すべての既成服を3Dモデル化し、高クオリティのデジタルツインを制作しています。こうしたクリエイティブアセットを制作することで、デザインと製品開発それぞれに役立てることができるんです。コンセプトを製品化する際にも役立ちますし、さらに顧客と接するシーンでも活用できます」。
制作したアセットは、TikTokなどさまざまなSNSでの発信を担うグローバルの商品企画部門や戦略部門から、データとビジュアルの融合を担当しているデータサイエンス部門、循環型のワークフローを推進するサステナビリティ部門など、さまざまな部門で活用されている。
3Dモデル化した商品の一例として「コーチ」を代表するバッグのひとつ「タビー・ショルダー・バック」を挙げる。
「最終的には店舗で販売するためにこうしたものを作成するわけですが、私たちが製品開発やデザインにおいて重視しているのは、型や形状などのディテールです。そのため3Dモデルにおいても、すべての素材、色、金具などを実際に販売できるほどのクオリティで実現する必要があります。加えてコーチコード(=コーチらしさ)を体現している必要があります。クラフトマンシップや革だけでなく、金具や素材などのディテール、タグに至るまで、コーチのバッグをコーチのバッグたらしめるものです。コーチらしさは細部に宿ります」。
業務においては、このバッグ1つをベースに、実際に販売されているさまざまな色や形の商品に対応したクリエイティブアセットをつくっていく必要がある。またシーズンが変わるごとに商品は増え、シリーズも増えていく。
ブランドの“らしさ”を反映する「カスタムモデル」
その業務のワークフローの改善のための試行として、タペストリーは、画像やテキストの生成AI「Adobe Firefly」のパイロット版を試験的に導入した。
カマラ氏自身は「“From Toy to Tool”ということで、まずは愛犬をスーパーマンにしてみるなど遊ぶところから始め、それを仕事上のツールとして導入していきました」と振り返る。
ツールとして導入する際は、まず「Tabby handbag made of shearling fluffy material(ふわふわのシアリング素材を使用したタビーのハンドバッグ)」というプロンプトを入力するところから始めた。そうして生成されたのが、次のバッグだ。
「可愛いらしいバッグですが、この時点では“コーチのバッグ”ではありませんでした」とカマラ氏。
ここで欠如しているのは、「コーチらしさ」だ。そこで試してみたのが、「らしさ」をAIに学習させることができる「カスタムモデル」という「Adobe Firefly」の機能だ。
「これまでに制作したクリエイティブアセットやバッグのビジュアルなど、12~15個のタビー・バッグのアセットを『カスタムモデル』に共有し、コーチらしさに関連するプロンプトを作成しました」(カマラ氏)。
そのうえで、先ほどと同様の「Tabby handbag made of shearling fluffy material(ふわふわのシアリング素材を使用したタビーのハンドバッグ)」というプロンプトを入力すると、次のようなバッグが生成された。
この時点でコーチのタグや「C」型の金具、ハンドルが2つ付いているなど、コーチらしさが体現されていることがわかる。そしてCOACHではすでに、これに類似した商品を実際に販売していたことからも、いかに精巧なものであるかがうかがえる。