月刊『宣伝会議』は、2024年4月に創刊70周年を迎えました。4月に発売となった月刊『宣伝会議』2024年5月号では、企業も個人も「脱・広告」 広告産業ビジネス変革の行く末をテーマに70周年記念の特集を実施しました。
『宣伝会議』という雑誌名は、1954年の創刊当時に、誌上で架空の商品の宣伝計画を実務家が議論する“宣伝会議”を行い、それを誌面に掲載したことに由来しています。
創刊70周年を記念し、1954年刊行の創刊号に掲載された、当時の宣伝部員たちによる座談会<新「水虫薬」宣伝計画>を公開。メディア環境もマーケティング環境も異なる70年前の宣伝担当者は、どのような戦略を考えていたのでしょうか。
1シーズン1500万円の予算は妥当か
- 出席者<発言順・敬称略>
- (ナガ製薬専務取締役) 土屋健 氏
- (鳥居薬品広告課長) 椎橋勇 氏
- (第一製薬広告委員) 奥田晃久 氏
- (帝国臓器学術課長) 吉田勝三 氏
- (山之内製薬営業課長) 植田弘法 氏
- (藤沢薬品宣伝課長) 村上榮一 氏
- (中村滝製薬取締役) 若林惟一 紙
- (三共宣伝課次長) 土居川修一 氏
- 司会(本誌) 久保田孝
日本宣伝クラブ会館において
久保田:皆さんが、皆さんの会社でおやりになる宣伝会議は、一杯やりながらというわけにはいかないでしようが、ここでは、雑誌『宣伝会議』のスタートを祝福させていただきまして、ビールなど適当に飲みながら、大いに論議していただきたいのです。
ただし、会議は既定のテーマによって、あくまでも具体的に、リアルに、進めてゆきたいと思いますので、一杯やったからといつて気が大きくなつたり、数字を見るのがメンドウ臭くなつたりしてもらつては困ります。(笑声)
きようのテーマは、先日、プリントで申上げておきましたように、効果の強大な水虫の薬が発見されて、ある新興の製薬会社が、それを製品化した。A価(小売価格)150円。外観もなかなかスマートな製品ということになっております。これを、ことし、4月、5月、6月、7月、8月の5ヶ月間に、1500万円の予算で宣伝する、という想定なんです。
- <テーマ>
- 新発見の強力「水虫薬」を新発売する。
- 小売価格(A価) 1コ150円
- 販売地域 全国
- 販売目標 50万コ
- 宣伝期間 本年4月から8月までの5ヵ月間
- 宣伝予算右5ヵ月間で1500万円(1ヵ月平均300万円)
- 右の想定で各月へのウエイトのおきかた。媒体の採り上げかたなどにつき、具体的で、精密な宣伝計画を立てる。
5ヶ月間1500万円ですから1ヶ月平均は300万円。こんにち、宣伝されている商品の中では、この300万円程度の予算のものが、一番、多いのじやないかと思うんです。ところが、この、1商品、300万円ぐらいというのが、一番、やりにくい予算なんです。オビに短し、タスキに長し、というやつでね。そこで、それだけに、また、参考になる読者も多いだろうと思って、編集部では採り上げたわけなんですが、しかし、水虫薬宣伝の実際の場合と、少しでも隔たりのあるものであつてはいけないとおもつて、水虫薬では大経験者である椎橋さんに相談してみたところ、これで妥当であるということだつたのです。
土屋:これだけ売ろうという基準はあるんでしよう。実現可能な販売目標…。
椎橋:あります。市販されている水虫の薬の種類は非常に高い。たぶん、何十種というくらいあると思います。が、去年のシーズンで、よく売れた最高はA社で60万コ、次はB社で40万コ、その他のものは、ひとまとめで30万コぐらい、というところではないかと推定します。A社B社のは、大体、確かな数字ですがね。
この宣伝会議の予算は、1500万になつているが、1コ150円売りなら1コにつき30円の宣伝費がとれるはずだから、販売目標を50万コにおけばよいことになる。そして、その50万コも可能な目標ですよ。
奥田:可能だが、問題は原料ですね。
久保田:原料は、国産で、いくらでもあるということにしておきましょう。奥田さん、そこまでいくと、少し、リアルすぎる。
奥田:よろしい。では、そうしておきましょう。が、50万コも売ろうというんなら、宣伝は、ほんとうは三月からやりたいもんだね。
久保田:ところが、この雑誌が、4月創刊なのでね、3月の宣伝には間に合わんというわけなんです。(笑声)
(土居川氏出席)
吉田:1コにつき30円の宣伝費がとれるという計算の基礎は?
(ここで、A・B・C・D価、マージン、原価、などについて詳細、検討された。その内容は、生産会議、営業会議などにあつては、非常に重要なものであるが、すでに決定されている生産方針や営業方針に基いてなされるのを常とする宣伝会議にあつては、直接には関係がないのでここに詳記することを、省略する。)
吉田:50万コ生産の場合は、なるほど、そういうことになるね。ムリのない宣伝費というわけか。その数字によって会議を進めよう。
新興商社向き、大手筋向き、二種の企画が必要
久保田:会議を進める便利のために、編集部で原案を用意したんですが、それが、ここの壁にも、はつてあり、また、皆さんにわたしてあるプリントの中にもあります。(表1・水虫薬宣伝計画案)まず、この案を検討してもらいたいと思うんですが、実は、ここに複雑な問題がある。それは、新聞単価(新聞広告一センチ一段の値段)なんだが、この原案に採用してるのは、皆さんからみれば、おそろしく高い。ところが、これは、このごろの新興会社で、月に二、三段、出すところの値段なんだ。それも、代理店が仲介して、新聞社に、そうとう勉強させた値段なんだそうだ。
吉田:ほう。ずいぶん高いね。
久保田:ボクらからみると、まったく手も足も出ない値段なんだが、このあいだ、ある広告関係者に会つたとき、この表を見せて、新興取引先に対しては、ひどく高いんですなと言ったら、それは、高いんじゃない、従来の大手筋のが、あまりにも安いんだ、ということであつた。ともかく、これじゃあ、新しい小広告主の商売は気の毒みたいなもんですな。大手筋に立ちむかうためには、現行の面で、ズバ抜けてすぐれたものでも使うというのでなければ、どうにも、戦争にもならんね。
土屋:しかし、この原案は、よくできているね。
吉田:なかなか、よくできているね。
久保田:ところで、まあ、この原案の新聞単価によって、一応、新興商社向きの宣伝計画を立ててもらう。そして、そのあとで大手筋むきの場合についても見当するということにしてもらいたいんです。大手筋むきの場合は、この原案の新興商社の場合の総新聞広告料から、その出稿量を大手筋単価で計算したものを差引いた残り、これが私の計算では、大手筋単価にもいろいろあるから、ごく、おおざつぱにみて、3、4百万円くらいはあると思うんだが、これを、どう使うか、ということになるんじやないかと思います。
つまり、中央紙を強化するか、地方紙に使うか、スポーツ紙などの特殊紙を採りあげるか、またはほかの媒体にぶちこむかといつたことを考えてもらうことになると思うんです。
※記事内には具体的な広告媒体名や金額なども出てきますが、1954年当時の記事をそのまま使用しています。当時の広告業界の価格帯、媒体事情を基にした議論、数値である旨、ご理解ください。