誕生のきっかけはアメリカで出会った堅い豆腐 「豆腐バー」開発秘話

はじめまして。アサヒコの代表取締役を務めている池田未央と申します。

「売れる新商品を開発して、豆腐の売上を伸ばしてほしい」。

これが、創業50年を超える老舗の豆腐メーカーであるアサヒコに私が呼ばれた理由です。

それ以前は菓子メーカーの業界で商品の企画開発やマーケティングに20年近く従事していましたが、豆腐については全くの門外漢。ただ身近な食材なので、これまでの経験から何とかなるだろうとあまり気負うことなく引き受けました。しかし、その決断をすぐに後悔することになったのです。

豆腐離れが進む中でアメリカへの視察

ふたを開けてみると、豆腐市場の売上規模は年々縮小している状況で、先細る市場の中、アサヒコは価格競争に巻き込まれて業績が低迷していました。それに影響されてか、社内の士気も低く、部門間の連携もほとんどとれていなかったことを覚えています。

「とんでもない所に来てしまった……」と頭を抱える私に、たまたまアメリカ出張の話が舞い込みました。ちょうどアメリカでは「Impossible Meat」や「Beyond Meat」といった、植物性の代替肉が話題になっていた時期。入社して4カ月目でその視察へ行けたことは、その後の大きなターニングポイントになりました。

アメリカで、初めてカリフォルニアのレストランで血の滴る代替肉を食べた時は本当に驚きました。アメリカのフードテックはこんなにも進んでいるのか、と。しかし、アメリカ出張でこれ以上に私を驚かせたのは、実は「堅い豆腐」との出会いだったのです。

スーパーに行くと日本語と同じ「TOFU(トーフ)」として様々な商品が並んでいましたが、手に取ってみるとなんだか重い。よく見ると、FIRM(堅い)と書かれていました。「えっ!?豆腐なのに堅いの??」とびっくりしながら、私はすぐに案内をしてくれたアメリカのメンバーに質問しました。

写真 アメリカのスーパーマーケットにあった「TOFU」コーナー
アメリカのスーパーマーケットにあった「TOFU」コーナー。硬さや味付けの異なる豆腐が陳列されていた。

すると、「これは焼いてステーキみたいにして食べるんだ」と教えてくれました。スーパーマーケットには、他にも堅さの違う「TOFU」がいくつもあり、油で揚げてチキンナゲットの代わりにしたり、少し柔らかいタイプはフルーツとミキサーで混ぜてスムージーにしたりすると聞きました。

総菜コーナーに並ぶ、グリルされた「TOFU」

総菜コーナーに足を運ぶと、さらに衝撃的な光景が待っていました。サラダバーではグリルされた肉や魚の隣に同じように素焼きされた「TOFU」が並んでおり、ぱっと見た感じは鶏むね肉のソテーのよう。売り場を訪れるニューヨーカー達はその「TOFU」を野菜の上にトッピングして、“植物性のたんぱく質”として摂取していたのです!

日本と全く違う姿で親しまれている「TOFU」に、昔馴染みの友人の別の顔を見た気がして最初は戸惑いましたが、なんて誇らしくてカッコイイのだろうと感動したことを覚えています。私は、ここに日本の豆腐市場の低迷を払拭する糸口を見つけたのです。

写真 アメリカの総菜コーナーに並ぶ「TOFU」
アメリカの総菜コーナーに並ぶ「TOFU」。野菜や肉と同様に味付けされたり、ほかの食材と組み合わされたりして、店頭に並んでいる。

帰国した私は、会社のメンバーに「アメリカの豆腐ってすごく堅くて、弾力があるの!」「焼いてステーキや、揚げてナゲットにして食べていて!」「味付けも斬新!BBQソースやメープルシロップが使われている!」「ねえ、こんな豆腐を日本でもつくれないかな?」と、早速アメリカで見た「堅い豆腐」の話をしました。

興奮して話をする私とは対照的に、「堅いってどの程度ですか?」「そんなのつくれないですよ……」とメンバーは冷やかでした。結局、皆の賛同が得られないまま、「堅い豆腐」開発は細々とスタートしたのです。

最初は豆腐から何とか水分を抜けないかと考えましたが、水切りしてもアメリカで見たような堅い豆腐にはなりませんでした。そのような試行錯誤の中、できあがった豆腐から水分を取り除くことは難しいことが判明し、ならば最初から水を含みにくい豆腐をつくればよいのでは?と思いつきました。

そのためには、豆乳とにがりが反応する時から水が絞りやすいように結合させておく必要があることに気付き、そこからは豆乳の濃度とにがりの量や凝固のさせ方を検証し続ける毎日が始まったのです。

堅い豆腐で新しい食体験をつくる

2019年の春、一般的な絹ごし豆腐の2.2倍(日本食品標準成分表2015(七訂)との比較)のたんぱく質を含むプロトタイプが半年をかけてやっと出来上がりました。サラダにのせて、社内メンバーやお料理教室の生徒さんに食べてもらいましたが、初めて食べる弾力のある豆腐の食感に賛否は分かれました。

普段から豆腐をよく食べている年配層からは「堅くて、あまり好きではない」と厳しい声があがりましたが、一方で先入観の少ない若年層は「モチモチした食感が好き」「食べ応えがあって満腹感が得られる」など、まずまずの評価。この答えに私は小さな希望の光を感じました。アメリカで見たような「堅い豆腐」は斬新な食体験や食シーンを創造して、これまで豆腐をあまり食べなかった人達にも、豆腐が持つ魅力を伝えられるチカラを秘めているのではないかと考えたのです。

一方、国内の食を取り巻く市場に目を向けてみると、健康志向からくる「低糖質・高たんぱく」ニーズが高まっていました。コンビニには従来のむね肉タイプの「サラダチキン」に加えて、スティックタイプの「サラダチキンバー」が並び始めていた頃です。これを見た時に思いついたのは、「堅い豆腐もスティック状にしたらどうか」ということ。

そこからさらに半年かけて、何とか片手で持てる「豆腐バー」のプロトタイプが完成しました。ここから、皆さんが現在店頭で見かける「豆腐バー」になるまでには、さらに1年の月日を要することになります。そんなプロトタイプから始まった「豆腐バー」が、どのようにコンビニに陳列されるようになったのかは、次回のコラムでお話しします。

写真 商品・製品 豆腐バー
現在、店舗で販売されている「豆腐バー」。着想から完成まで約2年の月日を要した。

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池田未央(アサヒコ 代表取締役)
池田未央(アサヒコ 代表取締役)

2018年にアサヒコ入社、2023年5月より現職。国内外の菓子・食品メーカーにて商品開発とマーケティングに25年以上従事。ブランドマネージャー、プロダクトマネージャーの経験から、商品を生み出す川上から消費者の手に渡る川下までを一気通貫してリードできる知識と経験を有す。また、各業界で新しい視点でヒット商品を手掛ける。

池田未央(アサヒコ 代表取締役)

2018年にアサヒコ入社、2023年5月より現職。国内外の菓子・食品メーカーにて商品開発とマーケティングに25年以上従事。ブランドマネージャー、プロダクトマネージャーの経験から、商品を生み出す川上から消費者の手に渡る川下までを一気通貫してリードできる知識と経験を有す。また、各業界で新しい視点でヒット商品を手掛ける。

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