オウンドメディアを続けることが困難になる要因のひとつに「効果が出ない・分からない」といった課題がある。オウンドメディアの効果測定のポイントについて、中山順司氏が解説する。
※本記事は、5月1日発売の『広報会議』2024年6月号「オウンドメディア」特集の一部を転載しています。
オウンドメディアの運営は、企業のブランド価値を高め、顧客との深い関係を築くための重要な手段です。しかし、その価値を正しく評価し、経営層に伝えることは容易ではありません。
この記事では、広報の現場でオウンドメディア運営に奮闘する皆さんに向けて、持続可能なオウンドメディア運営のためのポイントを効果測定の観点から分かりやすく解説し、経営陣に対してオウンドメディアの必要性と理解を深めてもらうための考え方を説明します(オウンドメディアの定義、意義、価値については、すでに一定の社内理解がある前提とし、本稿では割愛します)。
オウンドメディアが閉鎖してしまう理由
まずオウンドメディアの運営は、一筋縄ではいかない長丁場の戦いです。途中でつまずき、最終的にリタイアに至るには大きく4つの理由があります。
理由1:売上に直結しない
短期的な売上向上を目指して立ち上げられたオウンドメディアは、しばしば期待に応えられない結果に終わります。確かに、資料請求やリード獲得を最終目標とすることは適切です。しかし、一定レベルの認知度を獲得し、検索結果で上位に表示されるには時間が必要であり、そのためには中長期的な運営戦略が求められます。
理由2:予算の不足
コンテンツの制作には、キーワード調査、戦略設計、企画や原稿の作成、執筆、校正、修正、最終確認、入稿、拡散に至るまで、それなりの予算が必要です。しかもメディアを継続する間は固定コストになります。コストに見合った成果がないと、縮小もしくは閉鎖の可能性が高まります。成果を決めずに立ち上げてしまい、後々でコストに見合っているかどうかの判断で苦労するケースも珍しくありません。
理由3:運営にかかわる人員の不足
執筆者と編集者(編集長)への過度な負荷が原因で、運営の継続が難しくなるケースです。
・コストを削減すべく内製化したけれど、外注費をゼロにできた代わりに社員がパンク
・執筆や編集の経験がないのにアサインされてしまった
・兼務なのでどうしても片手間になってしまう
・理由は様々ですが、時間、経験、スキルといったリソース不足で更新が滞り、なし崩し的に自然消滅してしまうこともあります。
理由4:アクセスの低迷
「売りたい気持ち」が先行し、読者ニーズそっちのけで企業都合の記事ばかりを掲載すると、その記事はまず読まれません。結果、検索結果に上位表示されることもなく、人の目に触れることすらないでしょう。
売上やリード獲得以前に、一定の読者、ファンが付かなければ何も始まりません。アクセスがなければ、運営者の心が折れるか、予算が無駄と判断されて閉鎖されるかのどちらかです。
軌道に乗せて成果を出すまでの5ステップ
オウンドメディアを成功に導くためには、周到な準備と明確なロードマップが必要です。以下がそのための5つのステップです。
Step 1:分析と計測方法を決めておく(開始1~2カ月前)
実は、プロジェクト開始前が非常に重要です。目的(リード獲得、ブランディング向上、採用活動の促進など)がなんであれ、最終成果(KGI)と中間目標(KPI)と測定の手法を予め決めておきましょう。マネジメント層はメディア運営に詳しいとは限りませんので次のことを定義しておくことをオススメします。
・発信する情報について
・対象となる読者層について
・メディアの目的と目標
・検索上位表示を狙うキーワード
・達成度を測る指標と計算式
言った言わないを避けるため、これらをドキュメントに記しておくのがポイントです。ここが曖昧なままフワッとスタートすると、半年後に「成果はどうなの?」と問われて焦ることになります。
Step 2:コンスタントに記事を出す(開始後1~3カ月)
開始後の3カ月間は、なにはともあれコンテンツを「安定生産できる体制」の確立に集中しましょう。記事の質はもちろん大事ですが、一定数のコンテンツがないとメディアとしての格好がつきません。
記事を書いて出す、といえば簡単に聞こえますが、責任者の指名、メンバーの役割、執筆や編集の体制、ルールやポリシーの決定、各タスクのスケジュール、進捗管理、企画会議と編集会議の運営、さらには、問い合わせやコンバージョンへと導くフローの構築等、始めてみると作業の多さに驚くでしょう。
初期はたいしてアクセスもないわけですから、「完璧を期すよりも、走りながら試行錯誤する」くらいに割り切った運営でかまいません。
Step 3:ロングテールで検索上位を目指す(開始後4~6カ月)
体制ができてきたら、次は細部の精度にこだわる段階です。ジャンルと商材にもよりますが、SEOでいうビッグキーワード(検索数の多いキーワード)は競争も激しく、新参メディアが戦うには厳しいことがほとんどです。難易度を下げて、ロングテールキーワード(2語、3語の複合語)で検索上位の表示を目指す戦略がオススメです。
この時期は、自社が競争できる分野を見極め、リソースを集中的に投下したいところです。
「PVが増えたらCV設計を考える」のではなく、CVの導線は設計しておき、継続的に改善を重ねていきましょう。どこかのタイミングでアクセスが急増したとき、コンバージョンの取りこぼしがないようにしておくためです。
Step 4:SNSアカウントも同時に育てる(開始後4~6カ月)
SEOは強力な集客施策である一方で、アルゴリズムの変更などアンコントローラブルな要素も含んでいます。リソース次第ではありますが、SEOに依存するリスクを分散するためにも、SNSアカウントの育成も同時に行っておけるとよいでしょう。
記事を掲載して拡散させるなどの流入元として機能するだけでなく、フォロワーと良好な関係を築いて、ブランドの信頼性を高める効果も期待できます。
Step 5:検索面の獲得を計測&レポートする(7~12カ月)
半年間、正しい努力を重ねてきたのなら、ある程度のアクセスはあるメディアに成長しているはずです。上位表示できているキーワードもそれなりにあると思うので、Step1で挙げたキーワードでどれくらい上位表示できているか、調べてみましょう。
仮に300個のキーワードを追っているとして、もし60個が検索10位以内に入っていたとしたら、達成度は20%です。オセロのように達成度を徐々に増やしていくことを「検索の面を獲る」と言ったりしますが、現場以外の社員や上層部にも達成度がイメージしてもらいやすいのがメリットです。
――本記事の続きは『広報会議』2024年6月号 (5月1日発売) に掲載しています。
広報会議2024年6月号
特集
オウンドメディア
企業の“リアル”を届ける
距離感が縮まる広報戦略
GUIDE
顧客と持続的に関係を構築できる
オウンドメディアが再注目される理由
鷹木 創 テクノコア代表取締役
座談会
元オウンドメディア編集長対談
企業が陥りやすいポイントへの対処法を解説
大槻幸夫 × 藤原尚也
CASE1
丸井グループ将来世代に向けた発信で
共感醸成し「協業・共創」目指す
CASE 2
カルビーへの愛着を醸成
社内を巻き込み、note運用4年目へ
TOPICS
東洋紡がオウンドメディアを開設
まず大切なのは“社内理解”を得ること
TOPICS
開設から16年続く「ばね探訪」に聞く
持続的な運営のポイントとは
TOPICS
1カ月で50記事の公開へと導いた
ログラス広報担当のサポート術に迫る
TOPICS
「ぽぽちゃん生産終了」本音綴ったnote
共感が呼び1200スキ以上集まる
TOPICS
工芸品の魅力伝える「中川政七商店ラヂオ」
企業ブランディング起点でリスナー来店の動線に
CASE 3
投資家、求職者、足場への無関心層など
各ステークホルダーに記事を届けるASNOVAの工夫とは
CASE 4
「リハビリ体験記」ほか生活密着の切り口で
理学療法士の普及とプレゼンス向上
CASE 5
「世の中が知りたいこと」起点の企画で
立命館大学と社会つなぐ架け橋に
明確なロードマップを描き成功へ導く
成果を出すまでの5ステップ
中川順司 Faber Company
DATA
担当者117人に聞いた
オウンドメディア運用の現状