豆腐バー、ついにスーパーへ 「売り場」と「売り方」どう変えた?

前回のコラムでは、「豆腐バー」がコンビニに並ぶまでのお話をしましたが、その後、苦難の末に生まれた「豆腐バー」は好調に販売数を伸ばしていきました。

一般的に柔らかいイメージを持つ豆腐がバー状に加工されているという斬新さが受けたことに加え、コンビニで既に市場が形成されていた「サラダチキンバー」に代わる新たな選択肢として提案したことによって、たんぱく質ユーザーにスムーズに受け入れられました。

基本的なことですが、新しい商品やサービスが認知・受容されるためには、マーケティングの4Pで言うところの、「Product(製品)」と「Place(チャネル・売る場所)」の組み合わせがいかに重要であるかを、改めて再認識しました。

好調の裏で、世界で1つの豆腐バー製造ライン完成

好調な販売数を受け、次にアサヒコが行ったのは製品拡張です。「豆腐バー」のユーザーベースを拡大するため、発売の翌年にあたる2021年2月に新しい味の「柚子胡椒風味」を、同年5月にはがんもどきの製法を活かして具材の入った「枝豆とひじきの豆腐バー」を続けて発売しました。

この2つの新商品は狙い通りに販売数が伸び、アサヒコは勝負に出ました。大型の設備投資です。それまでは製造の各工程が分裂しているバッチ式で「豆腐バー」を製造していましたが、素早く今後の可能性を検証し、連続式の専用製造ラインの導入に踏み切ったのです。

ラインを大型化するために製造設備を一から構築し直し、既存ラインを移設させ、世界に一つしかない「豆腐バー」専用の連続ラインを組み上げました。構想・設計・施工まで約1年にわたるプロジェクトです。「豆腐バー」を生み出した時とは、また異なる次元の難易度でした。

2022年2月からはこの連続ラインが稼働し、生産量も品質もより安定して供給できるようになりました。そして、これにより「豆腐バー」はアサヒコのナショナルブランドという位置付けから「セブンプレミアム」に変更。全国のセブン-イレブンさまをはじめ、セブン&アイ・ホールディングスの各スーパーにも配荷されることとなりました。

このセブンさんの名前を背負った大役をしっかり果たした同年6月、改めてアサヒコのナショナルブランドとしての「豆腐バー」も全国のスーパー、コンビニに出荷されることとなります。

相棒のサラダチキン不在! 商品特性はどう伝えた?

「豆腐バー」をスーパーマーケットへと販路拡大するにあたって気を付けたことが2点あります。まず、チャネルによるお客さまと利用目的、購買行動の違いです。コンビニではShopper(購入者)とConsumer(消費者)がほぼ同一であり、購入されたものは即食されることが多いですが、スーパーではShopperが食材を購入し、家に帰ってからその食材が調理され、同居者がConsume(消費)することが多いです。

グラフ その他 コンビニとスーパーにおける、ユーザーと利用目的の違い

コンビニとスーパーにおける、ユーザーと利用目的の違い。著者作成。

売り場にも違いがあります。コンビニでは「豆腐バー」の良き伴走者として「サラダチキンバー」が並売されることで「植物性のたんぱく源」という商品コンセプトを端的に伝えることができましたが、スーパーでは豆腐と畜肉の売り場は遠く離れています。伴走者のいない中で「豆腐バー」という商品の特長をアピールしなければなりません。

そこで、スーパーで「豆腐バー」を展開する時に心掛けたのは、念入に“自己紹介”をすることです。「豆腐バーとは何者なのか」を伝えるために、店頭販促ツールを多く準備しました。例えば、即食買いが多いコンビニでは伝える必要のなかった「そのまま食べられます」という説明の他に、水分の少ない「豆腐バー」だからこそできる調理レシピを紹介。

商品を陳列する専用什器などもあわせて用意したことで、商品の入れ替えが起きにくく、新商品の採用が少ない6月という期中にもかかわらず、多くのスーパーで採用してもらうことができました。

もちろん、棚を獲得するだけではなく、売上を立てていかなければ商品を置き続けてもらうことはできません。そういった面においても、調理レシピのPOPは有効でした。実際の活用方法を具体的に売り場でイメージしてもらうことで、スーパーのお客さまに「豆腐バー」を手に取ってもらう回数を増やすことにもつながったのです。

実データ グラフィック 豆腐バー 店頭POP

実データ グラフィック 豆腐バー レシピ

当時展開した店頭POPとレシピ。

実は「豆腐バー」の進出によって、一時的にアサヒコがそれまでに販売していた既存の豆腐の売上が減少するかもしれないとの懸念もありました。これは私も、スーパーの担当者も考えていたことです。

しかし「豆腐バー」の販売を開始しても、既存の豆腐の売上が減少することはなく、既存の豆腐に加えて「豆腐バー」販売を強化してくださったスーパーにとっては、「従来のアサヒコの豆腐」の売上にプラスして、「豆腐バー」の売上が丸々純増したことになります。大変喜んでもらうことができました。

そこでアサヒコでは、「豆腐バー」のスーパーマーケット展開の成功をきっかけに、新たな戦略を打ち出すことになります。それが「ぜんぶとうふ化作戦」です。「豆腐バー」のように、豆腐を現代の食生活に沿って進化させ、手軽に美味しく無理なく植物性のたんぱく質を摂ってもらえる商品を拡充することにしました。

この「ぜんぶとうふ化作戦」では、お客さまとの最終接点である店頭で上記のようなコンセプトへ共感を持ってもらえるよう、特に販促ツールに力を入れて展開を行っています。次回のコラムでは、この作戦を軸に、私がパッケージデザインや販促ツールにおいて大事にしているポイントについてお話します(つづく)。

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池田未央(アサヒコ 代表取締役)
池田未央(アサヒコ 代表取締役)

2018年にアサヒコ入社、2023年5月より現職。国内外の菓子・食品メーカーにて商品開発とマーケティングに25年以上従事。ブランドマネージャー、プロダクトマネージャーの経験から、商品を生み出す川上から消費者の手に渡る川下までを一気通貫してリードできる知識と経験を有す。また、各業界で新しい視点でヒット商品を手掛ける。

池田未央(アサヒコ 代表取締役)

2018年にアサヒコ入社、2023年5月より現職。国内外の菓子・食品メーカーにて商品開発とマーケティングに25年以上従事。ブランドマネージャー、プロダクトマネージャーの経験から、商品を生み出す川上から消費者の手に渡る川下までを一気通貫してリードできる知識と経験を有す。また、各業界で新しい視点でヒット商品を手掛ける。

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