広報のプロが「広報計画」を立てる前に必ずやっていること

イメージ バナー 成長企業が実践する評価される広報チームの作り方

前回は本コラムの読者の皆さまから寄せられた質問「広報による売上・業績への貢献は可能なのか?」についてお答えしました。

詳しくは前回のコラムをご覧いただきつつ、ポイントは以下になります。

・そもそも広報が短期的な売上に定常的に寄与するのは難しい
・短期的な露出獲得以外で、広報として売上貢献できる別のアプローチの提案をする
・成長阻害要因の排除や、市場拡大に向けたコミュニケーションも立派な事業貢献である
・社外・社会との接点を広く持っている広報部門だからこそ、社内で見えていない中長期的な時間軸や、社外のステークホルダーからの視点を取り入れながら、「俯瞰的な視点」で直接的・間接的に会社・事業に貢献していくことが必要

以上の前提を押さえた上で、具体的にどうやってそれを広報計画に落とし込めばよいのか、というのが今回のお話です。

ポイントは、いきなりプランニングに入るのではなく、前提となる「環境分析」、もう少し強い言葉で言うと「戦況分析」に時間を使うことです。

広報計画立案の前に現状を正しく把握することが最優先

イメージ 人物とpc

事業機会の最大化、企業価値向上に資するインパクトを創出(=成果の最大化)するための戦略を立案するためには、自社・競合・市場(顧客)に対する情報収集を通じ、自社の置かれているポジションを正しく理解することが必要です(社外=社会からどう見られているか、社内=事業課題は何か)。

以前のコラムでも、私がメルカリ入社直後に取り組んだこととして、以下のような話をさせていただきましたが、公開情報・非公開情報を問わず、まずは自分の手で全体感を掴むためのリサーチに時間をかけました。

新入社員オリエンテーションもそこそこに、経営陣へのインタビューや、これまでの報道状況のリサーチや事業ロードマップ、経営資料の情報収集などを元に、現状の外部コミュニケーションにおける課題を整理していきました。

以下は、当時、メルカリ入社直後に自分の理解のためにつくった資料のINDEXです。

メルカリ 会社・サービス理解のための基礎資料

(※筆者が当時作成、INDEXのみ抜粋)

INDEX
1.シェアリング・エコノミー市場について
2.リユース市場・フリマアプリ市場について
3.メルカリ創業の経緯について
4.メルカリのサービス特徴・競合優位性・マーケットシェアについて
5.メルカリ成長の推移について
6.海外展開について
7.今後の事業展開・ビジョンについて
8.メルカリの組織・企業風土について
9.その他参考資料

上記はあくまで参考例ですが、市場全体の規模感や成長率、自社および同業他社の戦略・市場シェアなどを理解するために、政府やシンクタンクなどの外部調査や決算資料、メディア・SNSの報道状況を見て、ざっくり全体感を把握しつつ、社内の中期経営計画や事業ロードマップの読み込み、経営陣へのインタビューなど、記者へのヒアリングなどを通じて自社の強み・弱み・機会・脅威(SWOT分析)を整理し、(自社視点ではなく)外部コミュニケーション視点で自社の弱み・課題を打ち消し、強みが最も発揮できる新たなポジションを発掘するのが最優先です。

イメージ スライド 環境分析の重要性

筆者の講演資料から。

そのうえで、それを「画に描いた餅」で終わらせないよう、経営陣/マーケ/プロダクトなど他部署へのヒアリングや、今後の具体的な事業計画の確認を通じ、事業・会社関連の発信材料・ファクト(情報資源)を集め、政府の政策動向や競合動向、世間のトレンドなどを加味しながら、どのタイミングで、どのファクトを、どういう文脈・ストーリー・打ち出し(強度)で発信したら、自社のポジショニングが強化され、事業の追い風に繋がるのか、具体的なシナリオ・アクションに落としていきます(短期・中長期)。

書籍『戦略PR』で有名な本田事務所・本田哲也さんも社内情報収集の重要性について以下のように説いておられます。


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矢嶋聡(はね 代表取締役/元LINE、メルカリ広報責任者)
矢嶋聡(はね 代表取締役/元LINE、メルカリ広報責任者)

早稲田大学卒業後、ネットベンチャー立ち上げ、留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン(現LINE株式会社)入社。検索サービス「NAVER」・コミュニケーションアプリ「LINE」の広報・マーケティングを統括。2017年10月にメルカリに転職。グループ広報責任者として現金出品問題などのリスク対応や東証マザーズ上場、新規事業立ち上げ、大型業務提携/M&Aなどの広報を統括。2023年3月末にメルカリを退社し、7月に独立し戦略広報マネジメントに特化したPRコンサルティング会社「はね」を設立。

矢嶋聡(はね 代表取締役/元LINE、メルカリ広報責任者)

早稲田大学卒業後、ネットベンチャー立ち上げ、留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン(現LINE株式会社)入社。検索サービス「NAVER」・コミュニケーションアプリ「LINE」の広報・マーケティングを統括。2017年10月にメルカリに転職。グループ広報責任者として現金出品問題などのリスク対応や東証マザーズ上場、新規事業立ち上げ、大型業務提携/M&Aなどの広報を統括。2023年3月末にメルカリを退社し、7月に独立し戦略広報マネジメントに特化したPRコンサルティング会社「はね」を設立。

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