社会と誠実に向き合わなければ企業は生き残れない時代に
――鬼木さんは現在、大広の中でどのような役割を担っていますか。
私たち大広は2019年に企業フィロソフィーを「Ideas win」から「企業と顧客と、社会を敬愛する」へと刷新しました。この方針に基づき、「顧客価値」を中心に据え、顧客の育成を通じた企業の事業成長への貢献をめざしています。
顧客価値とは、単に顧客のニーズに応えることだけでなく、企業と社会と顧客の三者がWin-Win-Winの関係を構築した先に醸成されるものです。顧客の満足だけでなく、社会に対して提供しうる価値も提示し、さらにその価値に顧客が賛同する状態をつくることこそがマーケティング活動のゴールであると我々は考えています。
私たちがあえて生活者ではなく「顧客」という言葉を使うのは、顧客は相手との関係性の中で存在するものであって、そこには企業側の働きかけが必要であるという認識があるからです。企業からの働きかけで「顧客」という関係が掘り起こされ、さらにはそれを持続させていくコミュニケーションの継続で、企業の利益に貢献するマーケティング活動が実現すると言えるのではないでしょうか。
私の本部では、新しい顧客の掘り起こしから、顧客との持続的な関係構築に至るまでの、フルファネルのマーケティング戦略をトータルでプランニングできる体制を整えています。顧客を発掘するプランニングスタッフと、顧客との関係を持続させる育成スタッフから、それぞれメンバーを選んでチームを編成するという役割を担っています。
――近年、企業はブランディングやブランド活動において、どのような課題を抱えていますか。
ブランディングを端的にいえば[顧客や社会からの期待をつくり続ける」ことだと考えます。そう捉えると、時代や世の中が変われども課題は常に変わらないとも言えます。
ただ、変化のスピードが激しい時代においては瞬間風速で期待はつくれても、期待され“続ける”存在でいることがとても難しいと感じます。そこで、顧客との対話を大事にしながら、お互いに期待され、賛同される関係をつくっていくという活動がより重要になっていると思います。
さらに言うと、今は企業が何を考えているのかが透けて見える時代になっているので、少しでも期待から外れる振る舞いをすると、顧客に裏切られたと感じさせてしまい、関係性は長続きしません。企業が人と同じように誠実に顧客や社会と向き合わなければ、生き残れない時代だと言えるでしょう。
当社は、ブランド人格やブランドの起点になる部分の開発支援から、それを行動に移して評価し、さらに改善を続ける一連の活動を支援しています。必ずしも、広告というアウトプットに閉じない提案に強みがあると考えます。
――今回上梓される書籍は、ブランド人格について言及しています。そもそもブランド人格に着眼されたのはなぜですか。
ブランド人格とは、単に企業のミッション、ビジョン、バリューなどに分解されるものではありません。人の生き様と企業の歩みを重ねたときに、その性格や信条、価値観に基づく振る舞いなども含めた、企業の人となりを確立させることが重要です。それがなければ、同じ業種の企業は皆似たような印象になってしまうでしょう。しかし当然ながら、それぞれの企業のキャラクターや性格は異なります。企業がその個性を自覚し、明文化して、一貫した企業活動ができるようになると、もっと世の中との関係がうまく回っていくのではないかと思います。
自分たちではその企業らしさが何かわからないという話もよく聞かれますが、何かをやりたいという思いがあったからこそ、企業が生まれているはずで、その思いは必ず受け継がれているはずです。私たちはそれを掘り起こすために、創業からの歴史を全部棚卸しして、OB・OGや経営層、現場の方々にもインタビューしながらディスカッションして、一緒に人格を描きだしていきます。
――何か問題を起こしてしまったときに、厳しく批判される企業とそうでない企業があります。
どんなに業績を伸ばしていても、何だか好きになれないなと思われていると、問題が起きたときに厳しく批判されがちです。でも、日頃から期待され応援されているブランド人格ならば、何か問題が起きてももう一度頑張るチャンスをもらえる。その差は大きいと思います。人格が明確になれば、しっかりと意思を持ってやりたいことを説明し行動し続けることができ、やがて支持者が必ず現れます。
――書籍の中で、当誌の読者に役立ちそうな部分は、特にどのあたりでしょうか。
書籍では、フレームワークの紹介や図解なども丁寧に行っているのですが、まずはブランド人格のフレームを描いて、自社をきちんと定義するという部分を役立ててもらえたら。自分たちが何者なのかを定義したら、それをどのように行動に移していくのか、どのようにマーケティングに活かしていくのかといったことも、続けて全て解説しています。
――今後、企業にどのような提案をしていきたいと思っていますか。
企業にとって、顧客との持続的な関係づくりがますます重要になってきます。そのために、私たちは定量的なデータに頼るだけでなく、n=1の定性情報や、AIなどの先端テクノロジーも活かして、多様な視点で顧客理解を深めなければなりません。ブランド人格を起点にしつつ、顧客との深い対話技術を磨き、顧客自身も気づいていない深層心理を見極めることで、顧客が賛同する価値を企業と一緒に創っていきたいと思っています。
鬼木氏著『ファンを集められる会社だけが知っている「ブランド人格」』(時事通信社)より。
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