新幹線でシートを謎に全開で後ろに倒す人。
最近あれに名前をつけたくてしょうがない。
「マナーの悪い人」ではなく、何か。
言葉は輪郭を与え、可視化し、社会化する。
「ギャル」「メタボ」「映える」「推し活」
いい名は、社会が待っている。
昨今の秀逸すぎるなまえデザインは「チョコザップ」だろう。
言葉は、ビジネスをひっくり返す力がある。マーケティング?コンセプト?そんなものを軽々と超えてしまう時がある。いい名は、スピードを持っている。
確かに「まるでこたつソックス」は瞬間でビジネスで勝てるネーミングだ。「三陰交をあたためる」という旧名ではどこの流通先にも入れなかったのだから。中の靴下は何も変わっていないのに、売上は優に二桁億以上変わったのだから。
言葉の力。プロとして求められる能力。確かに一つの大きな側面としてそれは真実だ。
しかしながら、全てではない。
生み出すのは表現だけではない。AIにはない信用。
「AOI TYO HOLDINGSが社名変更を考えている」
ある日突然、中江社長から連絡があった。
社名を変えるとはどういうことなのか。理由は何で、課題はどこなのか。プロジェクトの難しさは想像に難くなかった。
このような時、「10案考えました」とテーブルの上に並べ、あらゆるステークホルダーと合意形成できるだろうか。果たして全社一丸となれる空気を醸成できるだろうか。
プロは、考えること、圧倒的な答えを生み出すことが求められる。その認識は半分正しく、半分間違っている。
「深く納得いく状態」「一丸となれる期待」を生み出すことを求められていることを忘れてはいけない。
だから「コピーライター」という職名を超えて「あなた」に頼む。
「10案考えました」
AIは人間よりも早く、簡単にこの瞬間に教えてくれる。参考になることもあるだろう。
しかし、その中のどれにすべきかの理由は書かれていない。聞けば、いくつかの理由を並べてくれる。けれどいまいち決め手に欠ける。それは何故か。相手を(この場合はパソコンの向こうのAI)100%信用できていないからだ。
理由がなければ、納得はない。
納得がなければ、選べない。
AIだろうが、人間だろうが、
信用がなければ、相手に声は届かない。
そこにもう一つの真実がある。
得てしてコピーやネーミングは「表現」に目がいく。
しかし表現のだいぶ前に、大事なことがある。それは「根」だと私は結論づけている。
どう書くの前に、何を書くのか・それはなぜなのか。もっと言えば、ブランドや企業に「根ざしているものなのか」どうかだ。そこへの理解、発見、定義こそが、発言する・制作する人間への信用・信頼になる。
「KANAMEL」という社名を提案した。
たしかに、AOI TYO HOLDINGSは、KANAMELに変わった。
そこだけ切り取られる。しかしそれは仕事の一部である。
クリエイティブディレクター/コピーライターである私に期待される仕事のフィールドは、社名開発だけでは当然なく、社名開発から、でもない。会社の存在意義、オリジナリティーは何なのか。何を約束し、どこを目指す会社であるのか。企業の根幹をクライアントと話し合い、言語化する。定義する。そこへの共感共鳴がなければ、その塊とも言える社名を考えられるはずも採用されるはずもない。
事業再定義、ブランドタグライン・ステートメント、ネーミング、ロゴ、アプリケーション他。繋がりあう様々なクリエイティブ開発の中で「社名」を提案しているのだ。
言葉は根であり、太陽である。
先日、ネーミングに関わる大規模なコンペティションがあった。
実はあまりもう競合というものには参加しないのだが、長い年数残ることが明白な案件でトライしたかったし、関係性の中で参加する運びになった。詳細は書けないので恐縮だが、プレゼン後の質疑応答中、当然一番おすすめの案としてプレゼンしているが、「書き直せる」と私は言った。競合であるのに関わらず。
ー 「捉え方」「考え方」こそが一番大事だと思っている。今日はそれを皆さんと共有したい。
その「根」を買ってくださるのなら、それをベースにいくらでも細かい表現の検証は出来ます。ー
そういう真意だった。
プレゼンの席には大勢がいる。複数社にまたがる場合もある。案がいくつもあったところで、ネーミングはたった一つしか選べない。また特性上、なまえは簡単に変えられるものではない。そこには大きな決断力を要するし、ABCテストをしない、もしくは社長の一存で決めない限りは、様々な意見・感覚を一つにまとめあげる能力が必要不可欠になる。
神でもない限り、未来を完璧に予測なんてできない。
その中で未来を想像し、決める行為。
クライアントにとってプレッシャーのかかるハードワークであることを私は経験上知っている。だからこその発言でもあった。
「なまえは育てるものだ」と本書の中で書いた。
そのことを忘れてはいけない。1本の木が、いつか森となるようなもので、それは生命体なのかもしれない。
ネーミングに限らず、ミッション・ビジョンの策定にも関わることが多い。言葉が宙に浮いていては、自信を持って立てないだろう。だからこそ根が大事になる。
深く強く、企業やブランドに、その場所に根ざしているかどうか。それらはブランドや自分たちを支え、同時に導ていく。言葉とは、根であり、太陽である。
改めて今そう思っている。
数週間後、「勝った」という連絡があった。それははじまりに過ぎない。
ここから育てていくことに興奮している。