この本はまさに黒須さんの打ち合わせをぎゅっと詰め込んだような本です。
みんなが思い思いに案を持ち寄って発表する。それに対して黒須さんが、いいですね、それでいうとこういう企画を昔つくったことがありまして、とその映像をみんなで見て、なるほど、と言いながら、また発表していく。それに対して黒須さんがまた、これもいいですね、それでいうと最近見たこの手法がとてもおもしろくて、といいながら、またその映像を見て…と永久につづいていく。自分の案が、黒須さんの頭の中にある膨大な映像アーカイブの中で構造化されて、足りてるところ、足りていないところが見えてくる。あるいはこの表現をこれと組み合わせるとおもしろいのかもしれない、と足し算引き算ができていく。新旧を行き来しながら新しいものが構築されていく時間。
その時間がまるごとぎゅっと一冊にまとまっています。「やり口」という言葉が登場しますが、まさに映像をおもしろくするための「やり口」がこれでもかというくらいしたためられている。こういうやり方もあるのか、こうするとどうなるんだろう、そんな試行錯誤自体がおもしろいんだとこの本は教えてくれます。
個人的に一番この本で「おぉぉ」となったのが、コンテの中にちっちゃい文字で書かれているセリフ。これがいちいちめちゃくちゃうまい。リアル。嘘がない。なんかいいこと言ってやろうっていう魂胆が見えない。それをさらさら書いているのかと思ったらきちんとそれすらも構造化されているということに気づいたことです(黒須さん本人はさらさらと書いているのかもしれないんですが)。セリフを学ぶってなかなか難しいけれど、その点においてもこの本はとてもためになる。あぁ、いつか私もこんなセリフを書けるようになりたい。
みんながみんな映像をつくれる時代だけど、まだまだもっとおもしろいものがつくれるかもしれないっていう勇気と武器をもらえる一冊であり、何より映像をつくるって楽しいよねって思える一冊だと思います。