ことし、いよいよグーグルのブラウザー「Chrome」でのサードパーティCookie規制が本格化する。各社が対応策に追われているが、データを活用したデジタルマーケティング支援を手掛けるKIYONOの清野賢一氏は、「数年〜十数年単位でネット広告に訪れてきた地殻変動の表れ。Cookie規制の対策が急務なのはもちろんだが、より根が深いのは、広告主と広告会社との関係の変化」と指摘する。
「従来型の広告会社はもちろん、システム会社(SIer)やコンサルティング会社の領分にも収まらない業務が、マーケティングにおいて生まれている」(清野氏)
すでに表れたCookie規制による課題、その下に潜む真の課題
サードパーティCookieの廃止――ことし、それが本格化するとあって喧しい が、実のところ2020年には起きることはわかっていた。それも、Webブラウザー世界最多シェアの「Chrome」擁するグーグルはどちらかと言えば後発で、アップルの「Safari」や、米モジラ財団による「Firefox」などは広告追跡制限には早くから手をつけていた。2021年にグーグルが「Chrome」での制限を延期すると発表し、猶予ができたと胸をなでおろした人も多いはずだ。
ブラウザーによるCookie拒絶による課題のひとつは、広告効果の測定上、コンバージョン測定に大きな制約がかかること。この対策としてすでにコンバージョンAPIを導入したり、自社運営のCDP(顧客データ基盤)を導入したりした企業もあるだろう 。冒頭の清野社長率いるKIYONOでも、コンバージョンapiの提供、cookieの影響を受けずにデジタルマーケティングの効果を可視化するソリューション「広告効果ちゃんとみえ~る」、VBB型広告配信基盤等の導入を支援している。
しかし、こうしたツール活用以前の問題に行く手を阻まれているケースもある。そもそも、どうしてコンバージョンAPIや、データを利活用する基盤が活用できないのか、という根本的な問題だ。清野氏は、「Cookie排除が明るみに出したのは、こうした構造的な問題です」と話す。
KIYONOの清野賢一氏
必要なのはテクノロジーとマーケティングの両輪を回せる「専門家」
Cookie規制の課題は、表面上は、先述の効果測定の問題や、精緻なターゲティングが難しくなることや、計測が正しく出来ないことから適切にPDCAを回せなくなること、リターゲティング広告の配信量の減少等が挙げられる。しかし、根本的な問題として挙げられるのは、「どういったフローで広告配信から収益化を図っていくか、というプロセスが策定されていない、ということです」と清野氏は喝破する。
「Cookie廃止以前から実は重要な事柄ではあったのですが、アクイジションコスト(CPA)というわかりやすい指標があったがために、そこまで考えが至っていなかった、ということもあるかと思います。それは従来型の広告会社の業務領域を超えたものです。そのため、普段取引のある広告会社からはアラートが鳴らなかった、ということはあるでしょう。では、今後、より精緻な効果測定、ターゲティング、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実行していくと方針を定めたとします。必要なのはデータ基盤。しかし、その設計をするシステム会社やコンサルティング会社は、実のところマーケティング・コミュニケーションに明るくない、ということがあります。ちょうど既存のSIerと広告代理業の両方を一手に引き受けられるパートナーが必要なのですが、いない、という実感をお持ちの企業は多いはずです」(清野氏)
KIYONO社はコンサルティング、SIer、広告代理店の3つの機能をハイブリッドで提供可能
ソリューションの導入以前に、広告主側が準備しなければならないことは多い。Cookie廃止後のワークフローや業務分担のあるべき姿を描くこと。それを実現するためのスキルが、自社のマーケティング部門や情報システム部門が持っているのかを確認すること。持っていないなら、どこから調達するか、どれくらいの予算であれば、まずは研究開発予算やPoC(コンセンプト実証)予算として扱えるか。他社にはどのような成功事例があるか……。
KIYONOの効果可視化ソリューション「広告効果ちゃんとみえ~る」、VBB型広告配信基盤や、機能特化型のCDP「MAGNET」は、こうした種々の企業の現場で抱えている問題に触れてきた知見をベースに自社開発を進めたものだ。CPAではなく、コンバージョンあたりの価値(Value)に基づいた(Based)入札(Bidding)を行う。会員登録をした、資料請求をした、といった単一のコンバージョンで広告費を調整するのではなく、成約に至る、など収益ポイントから逆算し、売上を生むコンバージョン、そうでないコンバージョンの評価に差をつけて、収益に貢献するよう広告を配信する。実際の効果は、「広告効果ちゃんとみえ~る」と名付けたソリューションで可視化する。VBB型で配信した広告が、実際の収益につながったかを測定するものだ。
コンバージョンの先の指標とつなぐことで、効果の可視化、運用のROIベースでの最適化が可能になる
これらのソリューションによって昨今広告運用者を悩ませる、コンバージョン計測の問題も本質的に解決することが出来る。
CDPの「MAGNET」も、広告配信やLINE配信という“よく使われる機能だけに絞っている”ため、コストパフォーマンスが非常に高い、ボタン3クリック程度で必要なデータを抽出できるようにする、顧客側の環境で構築するためセキュリティー面でも導入しやすいなど、非常に好評だという。
基盤となっているのは、グーグルが提供するクラウドコンピューティングサービス「Google Cloud Platform(GCP)」で、専門的な知識があれば、CDPとして構成・活用することができるものだ。大雑把に表現すれば、大抵のことは何でもできる分、使いこなすことが難しいと言える。「MAGNET」は、単にGCPによって基盤を構成するのではなく、「あらゆる使用の現場を見てきて得た、GCPが提供する機能のうち、真に必要な機能は何か、どのようなUIであれば誰でも使いやすく活用できるか、というノウハウを注ぎ込んだ」(清野氏)ものに仕上げた。
KIYONOのノウハウを注ぎ込んだ機能特化型CDPの「MAGNET」
データは見方次第で「埋蔵金」にもなるし、「ゴミ」にもなる
Cookie廃止に先手を打って導入した企業には、成果を収めている企業も少なくない。たとえばグループで複数の事業やサービスを持つ企業では、複数の事業を横断して、顧客ID基盤を構築しクッキーに頼らないマーケティング活動を推進している。、これらの企業の事業展開は、俯瞰してみると、顧客のライフサイクルやビジネスフェーズの成長度合いに応じて設計されていることは少なくない。
例えば、
・金融機関はNISAの販売に力を入れています。しかし実はNISAそのものは金融機関にとっては収益率が低いです。NISAの取引をするためには証券口座開設が必要で、NISA利用客の収益を高めるために、その後の信用取引、FX、投資信託、保険商品などにつなげてクロスセルをしていくことが重要です。
・ECプラットフォームはまず利用料をビジネスとします。顧客であるEC事業主はビジネスを成長させるために、費用を抑えたマーケティング施策が必要です。成長フェーズにより、インフルエンサーを活用した集客サービスやメルマガ配信ツール、CRM管理ツール等の需要が発生します。マーケティングチャネルが複数になり、顧客のデータが増えてくると、効率的にデータ分析が可能なマーケティングダッシュボードが必要になります。ECプラットフォームビジネスを起点に適切なタイミングでアプローチを行うことで複数のプロダクトへのクロスセルが期待されます。
・ドメイン販売会社はそのサイトを運営するためのサーバーをセットで提供しています。その後、集客の必要が出てくるためSEOソリューションや広告サービスを提供し、顧客のフェーズに合わせたサービスラインナップを用意しています。
・不動産物件を購入すると、購入者は数年後〜数十年後にはリフォームやリノベーション、メンテナンス等の需要が発生します。そしてライフステージが変われば、持ち家を売却したり、賃貸に住み替えたりといった需要も発生します。顧客の状況変化に合わせて適切なアプローチが行えれば、既存顧客からアップセル、クロスセルの効率を高めることができます。
・婚活サービスを活用した顧客は晴れて結婚をしたのちには、高い確率で結婚式、新婚旅行がイベントとして発生します。また結婚を機に保険の見直しや、新居を探したりと、想定可能なライフイベントが発生します。
・介護事業者は、葬儀、お墓、仏壇、相続等の終活に関わる複数のサービスを展開しています。
・塾や教材等の教育サービスは、幼児向け、小学生向け、中学生向け、高校生向けと展開されており、早い段階で契約した顧客に対しては、高校生まで継続的に自社のソリューションを使い続けてもらうことが理想です。
・赤ちゃん用品であれば、乳幼児は成長が早いため短期間で子供服や教育サービス、おもちゃなどを買い換えます。
こうした顧客の、いわゆる「カスタマージャーニー」に従って、どのように効率的にマーケティングあるいはセールスを実施していくかが、CDP活用のカギだ。
アプローチごとに顧客の反応を見れば、テレビCMのような空中戦、訪問活動のような地上戦だけではなく、ダイレクトメールが効果的だったり、電話やLINEが効果的だったり、といったことも見えてくる。
「例をひとつ挙げると、ある事業の顧客セグメントでは、ネット広告で告知した上で平日の特定の時間帯に架電すると、受電確率が高まり、商談へとスムーズに進む、といったことがわかりました。電話でいえばこのような例もあります。催事場に訪れ、アンケートなどで『検討します』と回答して見込み客となったとしても、単に電話をかけるだけではほとんどは出ないことが普通です。出ないことがわかっていると営業担当のモチベーションが下がり、生産性の減衰を招きます。見込み客がWebサイトを訪れ、探している情報などをもとに興味を持ちそうなコンテンツをメールで送るほか、架電時のトークスクリプトもセットで提供することで、ヒット率を高めることが可能になりました」(清野氏)
これまで、活用されることのなかった、いわば“埋蔵金”とも言えるようなリストも見つかるようになった。
「B to C でもB to Bでも同様ですが、のべつ幕なしに名刺やリストを集め、電話をかけるのだが、無視されて萎縮する……といった課題を持つ企業は少なくないと思います。そればかりか、『使えない』烙印を押されたリストが増えていく、ということもあります。しかし、テクノロジーを用いて効果的なタイミングを図ったり、求められている情報を先回りして突き止めておくことで、ラストワンマイルの受注率が高まるのです」(清野氏)
多くの企業が間違える、「ファースト・パーティー・データ」の利活用方針
デジタルマーケティング支援をするなかでテクノロジーやデータのリカバリーに強みを持つKIYONOだが、「実のところ、当社の支援として、お客さまの要望に沿ったデータベースとマーケティングプランの双方を同時に設計し、運用方法の策定や実際の運用を担うケースが最も多い」と清野氏は話す。
「ファースト・パーティー・データが重要だ、という認識は多くの企業がしていると思います。しかし、その活用の全体構想(グランドデザイン)がなかったり、グランドデザインはあるが、構想を実現する要件定義ができなかったり、という課題もまた、多くの企業が抱えています。ファースト・パーティー・データやCDPが活用できないのは、まず、第一に要件定義に問題があります。要件定義が悪いのは、依頼先選定を誤っている可能性が高いですね。それはすでに述べたとおり、従来型の広告会社やシステム会社に、どちらも対応できるところがほぼないといって過言ではないためです」(清野氏)
依頼先が合っていても、なぜかうまくいかないケースもあるという。
「その場合は、社内の能力を見誤っているおそれがあります。もしくは、組織として動くためのグランドデザインになっていない。実際、グランドデザインを書くところから一緒にやってほしいというお客さまも多いのです」(清野氏)
明確な業務プロセスが敷かれていなかったり、広告から収益化までのフローが不明瞭だったりするところから、自社のスキルを棚卸しし、要件定義まで持っていくのは見かけ以上に困難な道程でもある。
「かといって、現状維持のままでは成長はありえませんし、『Cookie排除』という形で、引き金は引かれました。我々のような企業をスケープゴートに使ってでも、物事を前に進めていくことがもはや大前提と言えます」(清野氏)
必要なのは、的確に要件定義ができる依頼先と、社内のスキルの有無を見極め、オペレーションまで導入していくこと。数年後、2024年を振り返ってみれば、広告効果測定が困難になった、ということ以上の分かれ道になっていたと言えるかもしれない。
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