「完成間近のマンション解体問題」に見る、不信感を払拭する広報とは

積水ハウスは6月、完成間近のマンションについて「眺望に与える影響」を理由に事業の中止を決定。その異例の事態が話題となった。企業の社会的責任(CSR)に関わる意思決定に対し疑念の声が出た場合、早期に不信感を払拭するにはどうすればいいのか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が解説する。

※本稿は2024年9月号『広報会議』の連載「リスク広報最前線」の内容をダイジェストでお届けします。

積水ハウスは、東京都国立市に建築していた10階建ての分譲マンションについて、2024年6月4日に市に新築事業の廃止を届け出ました。7月には完成を控えていたにもかかわらず、「眺望に与える影響」等を理由に解体を決する異例の事態だったため、多くのメディアで報じられました。積水ハウスが分譲マンションを建築していたのは、国立駅から富士山を一望できる富士見通りに面した場所でした。

マンションの建築によって眺望に影響が出ることが懸念されるため、積水ハウスは2021年以降、近隣住民や国立市との話し合いを重ね、当初予定していた11階建てから10階建てに変更するなど二度にわたって設計を変更した後、2023年1月に着工しました。しかし、積水ハウスは、2024年7月の完成を目前としていたにもかかわらず、6月3日に眺望に与える影響を理由にマンションの新築事業を中止することを決し、6月4日に国立市に新築事業の廃止を届け出ました。

違法建築を理由とするものではなかったことから、SNSには「解体までしなくても良いのではないか」などの声が散見され、また、6月11日の朝には「会社の幹部が景観を確認したところ、一転、方針が変わった」などと報じ、積水ハウスの社内の意思決定のプロセスに疑念を抱くメディアも現れました。

積水ハウスとしては、眺望に与える影響を理由に完成目前でも新築事業を中止するという企業の社会的責任を意識した決断をし、本来であれば賞賛されてもおかしくありません。ところが、こうしたSNSの声やメディアの報道によって、かえって社内の意思決定のプロセスに対する不信感を招きかねない状況になってしまったのです。

すると、積水ハウスは、6月11日に、「完成が近づき、建物の富士山に対する影響が現実的になり建物が実際の富士見通りからの富士山の眺望に与える影響を再認識し、改めて本社各部門を交えた広範囲な協議を行いました。その結果、現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定いたしました」との声明を自社サイトに掲載しました。

この声明は、「眺望に与える影響を再認識し」「本社各部門を交えた広範囲な協議」を行った社内の意思決定のプロセスと、「現況は景観に著しい影響がある」「眺望を優先する」と新築事業を中止する判断内容の合理性の2点を説明するものです。

疑念を抱かれている部分に答える内容であり、メディアに報じられた当日という絶好のタイミングで公表されたものであったため、積水ハウスの意思決定のプロセスへの疑念を早期に払拭させることに成功しました。適切な危機管理広報であったように思います。

積水ハウスの事業規模に照らせば、マンション一棟の新築事業を中止することになったというレベルの意思決定について、本来は社外に声明を公表する必要はありません。しかし、今回は、マンション一棟の問題ではなく、上場会社の意思決定のプロセスというガバナンスそのものに繋がる報道が出てきたため、あえて声明を発表したと推察することができます。

結果的に、積水ハウスは、意思決定のプロセスにガバナンスが効き、かつ、企業の社会的責任を意識している会社だからこそ、このタイミングで新築事業を中止する意思決定ができたとのアピールにも繋げられたのではないでしょうか。

積水ハウスと同様に、企業の社会的責任に関わる意思決定のプロセスに誤解を招きかねない報道をされたのが、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事による明治神宮外苑の再開発計画(神宮外苑地区まちづくり)です‥‥

続きは、「広報会議」2024年9月号をご覧ください。

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