佐藤可士和氏に聞く企業ブランディングの今「社会の価値観の変化に対応できているか」

2010年代から三井物産、ヤンマーなどのブランディングを実践してきた佐藤可士和さん。「企業のブランドコミュニケーションに社内向け・社外向けの垣根はない」と早くから提言してきたが、この10年でその流れがより鮮明になった、と実感している。人々の価値観や働き方が変化するなか、企業が社内外への求心力を生み出すために今、クリエイターができることとは。

 

※本記事は月刊『ブレーン』2024年8月号「『働く人』の課題を解決するクリエイターの提案」への掲載内容から抜粋してお届けします。

社会の価値観の変化に企業経営は追いつけているか

写真 人物 佐藤可士和氏

僕は2000年にSAMURAIを設立したわけですが、そこから2015年あたりまでは、企業ブランディングと言えば対外的な課題の解決を求められることが多かったです。社会に対するコミュニケーションそのものを整理する、そのコミュニケーションの効率を高める、といったことをやってきました。

その中で、SDGsが国連総会で採択された2015年頃からでしょうか。経営者の意識が、対外的な部分だけではなく、インターナルに対してもより高まってきたように思います。

もちろんそうした意識を持つ経営者の方は以前からいらっしゃいましたが、さらにそれが濃くなってきた印象でした。そこには、国内で急激な人口減が進んだり、2016年頃から「働き方改革」が提唱され始めたり、2020年からのパンデミックだったりと、さまざまな社会課題が表面化してきたことも関係していると思います。

そもそも「働くってなんだろう?」、リモートワークがデフォルトになると「会社ってなんだろう?」と疑問に直面し、価値観が揺らいでくる。社会の価値観が変われば、それに合わせて企業経営も変えていかないと時代にフィットしなくなってしまいます。

また、20世紀的な資本主義に限界が来ているとはよく言われていますが、「資本主義的な成功だけが成功ではない」と考える人も増え、幸せに対する価値観も変わってきました。利己的なことよりも、社会貢献など利他的なことに力を注ぎたいという若者が増えてきたことも大きな変化ですね。多様な価値観の従業員がいるなかで、企業側も従来のままのコミュニケーションをしていては求心力を維持できなくなってしまう。働き手が減りつつあるなか、優秀な人材を確保したい場合はなおさらです。

「社員のメディア化」を実現した三井物産のブランディング

その意味で、2013年に発足した三井物産の企業ブランディングプロジェクトは、社内へのコミュニケーションと社外へのコミュニケーションを同時に行った、象徴的なものだったと思います。

イメージ 広告 佐藤可士和さんは2013年に三井物産のブランディングプロジェクトを開始。14年にロゴやステートメントを発表した。2016年からは社員に企業価値を浸透させることを目的に、社員と共に広告を制作。全ての事業部のメンバーと制作し、全15の新聞広告を出稿した。

佐藤可士和さんは2013年に三井物産のブランディングプロジェクトを開始。14年にロゴやステートメントを発表した。2016年からは社員に企業価値を浸透させることを目的に、社員と共に広告を制作。全ての事業部のメンバーと制作し、全15の新聞広告を出稿した。

イメージ 広告 21年からは「『志』プロジェクト」と称して、今度は社員が登場する新聞広告やWebムービーなどを展開している。

21年からは「『志』プロジェクト」と称して、今度は社員が登場する新聞広告やWebムービーなどを展開している。

プロジェクトを立ち上げ、三井物産の現場の社員の方々と一緒に広告をつくりました。事業部ごとに5~8人ほどの代表メンバーに参加してもらい、自社の強みや価値を掘り下げて、共に新聞広告を制作したのです。2016年から3年かけて計15の原稿が日経新聞に出稿されました。

「社員一人ひとりがメディアとなる」ということを、コミュニケーション戦略のコンセプトとし、一人ひとりに企業の本質的な価値を理解してもらい、個々人がメディアとして広く企業の魅力を仕事を通して発信していく。そんな理想の形に近付けるために、現場の社員の議論からブランドの姿を探っていきました。プロジェクト型という面でも、企業広告の新しい形だったと思います。

このプロジェクトで地盤を固め、その後2021年からは「『志』プロジェクト」を展開しています。社員が登場し、それぞれが三井物産で働く意義=「志」を語る形式の広告です。社員の方々が企業ブランドを考え抜いていったフェーズから、今度は社員が前面に立ち発信する形にしました。発足から約10年、社員がメディアになるという目指した姿が、成熟してきたわけです。ここからはこれをベースに、三井物産の人々が志を持ってどう活動しているのかを、メディア環境の変化に応じて臨機応変に発信していこうと考えています。

ブランドの価値をどう定義するか

これまでさまざまな企業のブランディングを担当してきましたが、目標は最初から決まっていて、「その企業が唯一無二の存在になる」ということです。それは競合がいない状態になるように企業の本質的な価値を設計していくことであり、そのために周辺の概念も定義・設計していきます。ブランド価値を整理することで、社内向けも社外向けも関係なく、結果として企業の求心力を高めることに繋がっていきます。

・・・以降は『ブレーン』24年8月号本誌、もしくはデジタル版でご覧ください。

〈以降の主なトピックス〉
・NOKのCIやタグラインを刷新。ブレンド価値をどう定義した?
・社員への「伝え方」もデザイン
・企業課題とは「時代や社会からの変化に伴う要請」。クリエイターに求められることは?

【発売中】月刊『ブレーン』2024年8月号
「『働く人』の課題を解決するクリエイターの提案」

・「多様な価値観・働き方が共存する時代
企業の求心力を生み出す クリエイターの役割とは」(本記事です)
佐藤可士和
・コクヨ「コクヨのヨコク」
・大京「DAIKYO NEXT ONE PROJECT」
・東京きらぼしフィナンシャルグループ「TOKYO に、つくそう。」
・藤田金属「FUJITA KINZOKU KOBA-FUKU」
・やまびこ「季刊誌やまびこ」

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