マーケティング・フレームをうまく使いこなすための使用上の注意点とは

いわゆる「マーケティング・フレーム」の中には、本来は万能でないにもかかわらず、原理原則的なものと扱われ、頻繁に使われるがうまくいかないケースが多くある。そのフレームを使うべきか否か、案件に応じて判断することは当然必要なことだが、どういうときに使うべきでないのかという議論はほとんど行われていない。本稿では電通 統合プランニング・ディレクターの北村陽一郎氏が著書『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』の内容をもとに、マーケティング・フレームをうまく使いこなす術を解説する。
※本記事は、月刊『宣伝会議』7月号の巻頭特集に掲載されています。

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北村陽一郎氏

電通
統合プランニング・ディレクター

1973年生まれ。東京大学教育学部卒、1996年電通入社。テレビ広告・スポーツ放送権業務などを経て、2012年より広告プランナー。自動車・食品・精密機器・金融・アプリなど幅広い広告主のプランニングに従事するかたわら、社内向けの少人数制プランニング塾「北村塾」を開講中。NPS=98.4、推奨度平均9.89点という圧倒的な人気を得る。2024年3月に『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』(宣伝会議)を上梓。

「パーチェスファネル」ご使用上の注意

「マーケティング・フレーム」とは、要するに「ヒトがモノを買うときの行動をモデル化する」ということをしているわけですが、そもそもヒトもモノもそれぞれが多様なので、その掛け算である「ヒトがモノを買うときの行動」は必然的に、極めて多様にならざるを得ません。

なるべくシンプルにしたいのはやまやまですが、元がこれだけ多様なので、できるだけ頑張ってはみました、というようなものにしかなり得ないのではないかと考えています。

まずは「パーチェスファネル」について、考えてみましょう。購買行動には「ブランド計画購買」「カテゴリー計画購買」「非計画購買」があります。非計画購買が多いカテゴリーでは店頭で初めて存在を知りそのまま買ってしまうので、そもそもパーチェスファネルが向きません。

例えば、ターゲットを20~40代男女の約4000万人とし、認知施策のテレビCMで広告認知率50%を取り、Web動画を200万人に見せて関心を取り、80万人にSNSを当てて検討してもらい、バナー・リスティングの刈り取り施策で40万人にコンバージョンさせるファネルを見ると、テレビCMを見た2000万人のうちの200万人がWeb動画を見るのだな、と思います。そう見えるように描いている図だからです。

イメージ 図 パーチェスファネル

【図1】パーチェスファネル
出典:『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』(宣伝会議)

ところが実際は、4段階で構えた施策をすべて重複接触するという人は、極めて少ないのです。なぜならテレビCMを見た人だけにWeb動画を見せることはできないからです。

結線テレビなどを使って複数の施策を重複して当てる取り組みはかなり前から行われていますが、当てられる数には限りがあり、複数当たればこのように行動や気持ちが変わるという実験としての用いられ方が多いのが現状です。

例えば信託銀行というカテゴリーで、自社と競合のX社を比較してみましょう。

イメージ 図 パーチェスファネル

【図2】信託銀行というカテゴリーでの自社と競合X社の比較
出典:『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』(宣伝会議)

「知っている」の割合は同程度ですが、「興味を引く」が競合のX社に対して劣っていたとします。「興味を引く」から下の歩留率は競合よりも優れているので、この「興味を引く」を競合並みに引き上げることができれば勝てそうです。

このように横並びで比較して、自社の課題を発見するために使用する「カルテのファネル」が、本来のファネルの使い方です。「この施策は何のためか」を図示する「地図のファネル」がよくあるファネルの使われ方ですが、これではうまくいきません。

ファネルの元になっている購買行動モデルを提唱した先人たちは、「ひとつのキャンペーンの中にこれらを網羅する形で施策を置きなさい」とは言っていないのです。

…続きは、月刊『宣伝会議』7月号でお読みいただけます。

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本書『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』の「はじめに」は以下の記事で公開しています。

『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論』(北村陽一郎氏)

2,200円(税込み)

ブランド認知、パーチェスファネル、カスタマージャーニー…有名なマーケティング・フレームを現場で使うとき、何に気をつければいいのか?「過剰な一般化」「過剰な設計」「過剰なデータ重視」の3つを軸に解説。推奨度9.9の電通社内プランニング塾の内容を書籍化。


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