本コラムでは、個人株主にいかに企業のファンになっていただくかをテーマに、当社 モスフードサービスの現在進行形の取り組みを紹介しています。
第1回では株主に限定しない当社のリレーションを紹介しましたが、第2回の今回は、個人株主に限定したリレーションについて、具体的な事例を紹介したいと思います。
モスにとっての個人株主
当社には、「個人株主=ファン=お客さま」という目指すべき姿が存在し、個人株主施策に積極的に取り組んでいます。この考えに基づき2009年から2023年までの間、計38回の「株主様懇談会」を実施し、のべ6371人の個人株主との直接コミュニケーションを行ってきました。
開催は、本社のある東京都内に留まらず、宮城県仙台市、神奈川県横浜市、愛知県名古屋市、大阪府大阪市、福岡県福岡市など全国の主要都市でも行い、そのすべてに社長が参加しています。
コロナ禍で人の移動が制限されていた際には、「オンライン株主様懇談会」と題し、新たなコンテンツを確立しました。懇談会では、株主の皆さまから店舗に対するお叱りを受けることもありますが、モスに対する建設的な提案をいただくことが多いです。
いただいた声は、機関投資家の声を含め経営会議で議論を行い、対応策の計画立案と実行により、経営品質の向上に取り組んでいます。
個人株主の顧客としての側面
ビジネスにおいて、「20%のファンが売上の80%を生み出す」という“パレートの法則”の考え方がありますが、当社は消費財に近い業種ですのでその比率は少し下がり、約20%のファンがお客さまとして約60%の売上をつくってくれています(当社調べ)。
一方で、当社の個人株主に限定した調査※1では、一般的なお客さまの5倍程度、店舗の利用頻度が高いことがわかっています。前述の調査とクロスさせると20%のファンの一部を個人株主が担っているとも考えられます。
企業と個人株主の関係性
私は2023年、企業と個人株主の関係性に関する調査を行い、その過程で11人の個人株主にインタビューを行いました。
研究結果については次回、第3回のコラムにて改めて紹介しますが、そこで得られた知見と当社アンケート結果※2から、BtoC企業における個人株主は、同企業の商品やサービスの利用経験がある株主が多く、株主になった時点で商品・サービスのファンであることが多いことがわかりました。
また、そんな個人株主とさまざまなコミュニケーションを重ねることで、意識変容や行動変容を起こすことができれば、商品・サービスのファンが、ブランドや企業のファンになり、さらに一歩進むと「投資先の推奨者」となり得ることもわかりました。
そこで、これらの研究結果を実務に活かすべく、当社と個人株主をつなぐコミュニケーションの大きな接点のひとつである「株主イベント」について、企画を見直しました。人に意識変容や行動変容を促すことは、並大抵のことでは実現できません。
まずは数百人単位で実施していたイベントを、“個”として向き合うことができる人数に絞りました。さらに、マーケティングの目的そのものであるターゲットの行動変容を目指せるプログラムづくりに取り組みました。その手法についてはデービット・アーカーのブランド論から「4つの価値」提供を意識して、イベントの組み立てを行いました。
4つの価値の提供とイベント施策
機能的価値
未販売品の試食を行うことで、本イベントの特別感を演出しました。さらに、今後強化する新規事業やEC事業においても試食を実施し、理解促進を図りました。
情緒的価値
社長をはじめ、当社社員は懇談会に広聴の姿勢で臨みました。オフィス見学ツアーでは、徹底的なおもてなしを心掛け、日ごろの感謝を拍手による出迎えで表現。こちらは特別感を感じていただいた一方で、気恥ずかしいなど賛否あったため次回は再考します。
自己実現価値と社会的価値
サステナビリティの講話から、サステナ経営へ間接参画していることを株主に感じてもらい、「モスに期待するSDGs」を個人ワークとして参加してもらうことで、パーパスに伴う活動の共有と共創を図りました。
※3 「オリィ研究所」が社会的ハンディキャップにより外出困難な移動困難者向けに開発したロボット。モスバーガーでは、時代にあったホスピタリティの形を追求し、テクノロジーを活用しながら、人ならではのあたたかみのある接客について同社と協力し研究を続けている。
「株主様会社見学イベント」の流れ
・ウエルカムドリンクの提供/新規事業メニューの紹介
・司会進行は障がいを持つ方が遠隔ロボットを通じて実施
・SDGs講話「モスのサステナビリティについて」
・ワークショップ「モスに期待するSDGsとは」
・オフィス見学ツアー/拍手による非日常の演出と社員の日常の紹介
・懇談会/未販売品の試食/社長や社員との懇談
・記念撮影
会社見学ツアーは、自社サイトの「モスの森」という社会活動を発信するコーナーにて紹介している。
このツアーは30名×2回開催という規模感で応募を呼びかけましたが、60名の枠に対し、946名の応募をいただきました。もともと当社の株主は、SDGsなど社会課題に関心の高い方が多いため、社会性を伴うSDGsのワークショップを一緒に行うことで、関係性はさらに深まったと感じています。
参加者アンケートにて本イベントの満足度を尋ねたところ、44名中35名が最上位の「大変満足」と回答し、「まあまあ満足」の9名と合わせると参加者全員から「満足」との回答をいただくことができました。
また、「当社の株主になることを友人や知人に薦めたいと思いますか」の質問には、14名が「是非薦めたい」、24名が「薦めたい」と、44名中38名に「薦めたい」との意見をいただきました。
今後の課題は、44名の満足や38名の「薦めたい」をデジタルを活用することでいかに多くの方に広げるかだと思っています。
当社の個人株主の特徴は、一般的な企業と比較して、株式の保有期間10年以上が約30%と5%程度高いです。さらに、年に1度実施する株主アンケートへの回答率も毎年25%前後と回答率が高く、直近の株主総会における議決権行使比率も50%を超えました。
鶏が先か卵が先かということですが、こうしたエンゲージメントの高さもイベント時の好評価につながったものと理解しています。