「まちの魅力を市外へどう伝えたら良いのか」その悩みを解決する突破口は、市民との対話の中にあるかもしれない。伊丹生まれ、伊丹育ちである、兵庫県伊丹市 広報・シティプロモーション課の中田由起子氏は、ある時、市外出身の市民の意見を聞いたことで、固定観念が覆され、まちの魅力に改めて気づかされたという。
※本稿は、広報会議2024年10月号の連載「地域活性のプロが指南」(文/中田由起子氏)をダイジェストでお届けします。
伊丹市は兵庫県南東部の自然豊かで平坦な場所に位置する約25㎢のコンパクトなまちです。空の玄関口である「伊丹(大阪国際)空港」があり、電車を利用すれば大阪へは約15分、神戸へは約25分で行くことができ、市内を市バスがくまなく走るなど、通勤通学に便利な阪神間有数のベッドタウンです。
酒蔵をイメージした伊丹市役所(2022年11月開庁)。
江戸時代には酒造業で栄え、「清酒発祥の地」として2020年には日本遺産に認定されており、経済的にも文化的にも「酒」を中心に栄えたまちで、そのまちを自衛するために広まった「なぎなた」は、現在も「なぎなたの聖地」として、毎年3月に全国大会が本市で開催されています。
また、市民が主体となって実施している「伊丹まちなかバル」や「郷町屋台村」など「酒」にまつわるイベントも多くあり、その影響が見られます。
さらに、空港のあるまちの特色として、滑走路に隣接する「伊丹スカイパーク」では飛行機の離着陸を間近で見ることができ、休日になると市内外の家族連れがたくさん来園しています。
「選ばれるまち・住みたい・住み続けたいまち」を目指し、子育て施策にも力を入れており、2024年度から市民ニーズに応える形で「中学校給食の無償化」を実施、また地域医療の充実を図るため、高度医療を提供可能な「(仮称)伊丹市立伊丹総合医療センター」の整備を進めているところです。
飛行機の離着陸を間近で見ることができる「伊丹スカイパーク」
伊丹生まれ、伊丹育ちの私は「将来英語を使った仕事に就きたい」と思っていた高校1年生の冬、阪神・淡路大震災を経験しました。損壊した校舎の安全性が確保できるまで休校になり、校舎の調査に来た市職員に出会った際、「この職員の中にも被災している人がいるのでは」と気になったことを今でも覚えています。
それからすぐにプレハブの校舎が完成し、無事授業が再開されたのですが、そのことが大きなきっかけとなり、「自分を育ててくれた伊丹のまちのために働きたい」、そして、あの時の職員のように今度は私の働く姿を通じて、次の世代の子どもたちが「伊丹のために働きたい」と思ってくれたらと考えるようになり、1997年に伊丹市に入庁しました。
また、入庁と同時に県外にある大学2部にも入学し、初めて外から自分の育ったまちを見る機会があったことも、その後シティプロモーション担当になった私に大きな影響を与えてくれました。
県外の大学では伊丹のことを知らない人も大勢いて、周りの友人から「伊丹は大阪府?」「空港以外何もなく中途半端」と思われており、阪神間の近隣市と比べて全国的に有名な観光スポットやイメージもなく、遊びに行くのはもっぱら大阪や神戸でした。当時の私は友人と同じく、本市のことを「中途半端なまち」として少し劣等感を抱いていたのも事実です。
入庁してから会計室や教育委員会事務局、中心市街地活性化、都市ブランド担当を経て、シティプロモーション担当になったのは公務員生活19年目の2016年のことでした。
本市のシティプロモーション事業では、今後急激に加速する人口減少に直面しても、市民サービスを安定して提供できることを目指し進めています。
そのため移住・定住の促進を通じて「人口の減少率を鈍化させること」を目的とした「伊丹創生総合戦略」を策定し、併せて新規施策としてのシティプロモーションや、まちのにぎわい維持を実施する体制も整備してきました。新設課ができた当初は課長1名、インバウンド担当1名、シティプロモーション担当である私を含め正規職員3名でスタートしました。
その後、組織改編を経て現在は、市民向けに広報紙やケーブルテレビ・SNS等を活用し情報発信をする「広報グループ」7名と、主に市外向けに市の魅力発信をする「シティプロモーショングループ」3名の体制で事業を推進しています。
「空港以外何もなく中途半端」という大学の友人の言葉がずっと頭にあり「伊丹の魅力」が分からなかった私ですが、ある時、これまでさまざまな場面で関わりのあった市民の方々と話す機会があり、そこで教わったのは「中途半端なまち」ではなく、「なんでも揃っているまち」ということでした。
市外出身者で本市に引越してきた方や、市内出身者で一度市外へ転居したものの本市の魅力を再認識し、また市内へ戻ってこられた方などの意見は、それまでの私の固定観念を見事に覆してくれました。
伊丹は、大阪・神戸へ行くにも近くて便利であるにもかかわらず、自然が豊かで、歴史や文化が多く残っており、子育てするにはとてもよい環境。おまけにコンパクトシティなので市内移動もしやすく、大型商業施設が東西に2つあり、歩いて行ける距離に多数のスーパーやコンビニもあって買い物するにも便利、毎週末には市内のどこかで市民主体のイベントが開催されているなど、わざわざ遠くに出かけなくても、いろんなものに手が届く心地よさ。
これらが、ずっと伊丹にいて、まちとの距離が近いからこそ、私が気づかなかった、外から見た伊丹のポテンシャルでした。そして、すでに行政と市民の力による長年の積み重ねで、すでに成熟したまちであることなど、これら全てを教えてくれたのが市民の皆さんだったのです…
全文は、広報会議2024年10月号 連載「地域活性のプロが指南」でご覧ください。